魔法
ルーベル村の混乱は昼になっても収まらなかった。
むしろ悪化していた。
◇
「もう一回やってみろ!」
「だから知らねぇって!」
広場では朝から同じやり取りが続いている。
火を出した男は、もはや村の人気者だった。
本人は全然嬉しくなさそうだが。
「集中してみろ!」
「集中ってなんだよ!」
「知らん!」
「知らんのかよ!」
周囲から笑いが起きる。
その直後。
ぼっ。
また火が出た。
「出たぁぁぁ!」
「やっぱり出る!」
「すげぇ!」
「近付くな燃える!」
本人が一番慌てていた。
◇
一方。
村長は頭を抱えていた。
「静かにしろ!」
誰も聞いていない。
「順番に並べ!」
誰も並ばない。
「話を聞け!」
誰も聞かない。
完全に負けていた。
◇
「兄ちゃん」
トムが袖を引っ張る。
「ん?」
「あっち青い」
指差した先。
井戸の近くにいるおばさんだった。
レオンも目を凝らす。
だが。
何度見ても普通のおばさんだ。
「うーん」
首を傾げる。
「何も見えないぞ」
「えー」
トムは不満そうだった。
「本当に見えるんだけどなぁ」
「そうなのか?」
「うん」
真面目な顔だった。
冗談を言っている様子はない。
レオンはもう一度見てみた。
やっぱり何も見えない。
◇
その時。
「おーい!」
父が手を振った。
広場の端。
村人が集まっている。
「なんだ?」
「試してみるらしい」
父が言う。
「試す?」
「ああ」
◇
村人達はどうやら気付いていた。
火を出せる人。
水を出せる人。
風を起こせる人。
それぞれ違うらしい。
だから。
「並べ!」
誰かが言った。
今度は並んだ。
面白そうだからだ。
◇
最初は火のおじさん。
集中する。
ぼっ。
火が出る。
「おおおお!」
拍手。
本人はまだ困っている。
◇
次。
水のおじさん。
掌から。
ぴちゃっ。
水が出た。
「おおお!」
拍手。
◇
次。
風のおばさん。
ぶわっ。
スカートがめくれた。
「きゃあああ!」
「ごめん!」
笑い声が広場に響く。
◇
完全にお祭りだった。
◇
「レオン」
父が言った。
「お前もやってみろ」
「俺?」
「身体軽いんだろ」
レオンは少し驚いた。
「分かったのか」
「親だからな」
父は笑う。
◇
レオンは少し考える。
そして。
近くに置いてあった薪束を持つ。
いつもの感覚で持ち上げる。
その瞬間。
「うおっ!?」
軽い。
軽すぎる。
思わず持ち上げすぎた。
薪束が肩の高さまで一気に持ち上がる。
「おい!」
父が目を丸くした。
「そんな持ち方できたか!?」
周囲の村人達も振り返る。
◇
「なんだ今」
「軽そうだったぞ」
「いやあれ重いだろ」
ざわつく。
◇
レオン自身も驚いていた。
身体に力が漲っている。
朝よりさらに。
はっきり分かる。
異常だった。
◇
「兄ちゃん」
トムがレオンを見上げる。
「ん?」
「やっぱり変だ」
「変ってなんだよ」
レオンは少し笑った。
トムは真顔だった。
「光」
「光?」
「うん」
こくりと頷く。
「兄ちゃんだけすごい多い」
レオンには意味が分からない。
だが。
トムは嘘を言っている顔ではなかった。
「そうか」
レオンは頭を掻く。
「でも俺には見えないな」
「兄ちゃんにも見えたらいいのに」
「そうだな」
トムは少し残念そうだった。
◇
その日の夕方。
村人達は一つの結論に辿り着いた。
何が起きたのかは分からない。
理由も分からない。
だが。
皆に何かが起きている。
それだけは確かだった。
◇
帰り道。
夕陽が畑を赤く染めていた。
「兄ちゃん」
「ん?」
「世界中もこうなのかな」
トムが聞く。
レオンは少し考える。
そして。
「たぶんな」
と答えた。
村だけとは思えなかった。
あまりにも大きな出来事だったから。
「じゃあさ」
トムが笑う。
「今頃みんなびっくりしてるのかな」
「してるだろうな」
「面白そう」
「他人事か」
二人とも笑った。
◇
広場の方から歓声が聞こえる。
誰かがまた火を出したらしい。
その直後。
今度は笑い声が上がる。
きっとまた誰かが変なことをしたのだろう。
ルーベル村はまだ祭りのような騒ぎの中にあった。
そして。
その日。
誰もが少しだけ未来を楽しみにしていた。




