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12/21

魔法

 ルーベル村の混乱は昼になっても収まらなかった。


 むしろ悪化していた。



「もう一回やってみろ!」


「だから知らねぇって!」


 広場では朝から同じやり取りが続いている。


 火を出した男は、もはや村の人気者だった。


 本人は全然嬉しくなさそうだが。


「集中してみろ!」


「集中ってなんだよ!」


「知らん!」


「知らんのかよ!」


 周囲から笑いが起きる。


 その直後。


 ぼっ。


 また火が出た。


「出たぁぁぁ!」


「やっぱり出る!」


「すげぇ!」


「近付くな燃える!」


 本人が一番慌てていた。



 一方。


 村長は頭を抱えていた。


「静かにしろ!」


 誰も聞いていない。


「順番に並べ!」


 誰も並ばない。


「話を聞け!」


 誰も聞かない。


 完全に負けていた。



「兄ちゃん」


 トムが袖を引っ張る。


「ん?」


「あっち青い」


 指差した先。


 井戸の近くにいるおばさんだった。


 レオンも目を凝らす。


 だが。


 何度見ても普通のおばさんだ。


「うーん」


 首を傾げる。


「何も見えないぞ」


「えー」


 トムは不満そうだった。


「本当に見えるんだけどなぁ」


「そうなのか?」


「うん」


 真面目な顔だった。


 冗談を言っている様子はない。


 レオンはもう一度見てみた。


 やっぱり何も見えない。



 その時。


「おーい!」


 父が手を振った。


 広場の端。


 村人が集まっている。


「なんだ?」


「試してみるらしい」


 父が言う。


「試す?」


「ああ」



 村人達はどうやら気付いていた。


 火を出せる人。


 水を出せる人。


 風を起こせる人。


 それぞれ違うらしい。


 だから。


「並べ!」


 誰かが言った。


 今度は並んだ。


 面白そうだからだ。



 最初は火のおじさん。


 集中する。


 ぼっ。


 火が出る。


「おおおお!」


 拍手。


 本人はまだ困っている。



 次。


 水のおじさん。


 掌から。


 ぴちゃっ。


 水が出た。


「おおお!」


 拍手。



 次。


 風のおばさん。


 ぶわっ。


 スカートがめくれた。


「きゃあああ!」


「ごめん!」


 笑い声が広場に響く。



 完全にお祭りだった。



「レオン」


 父が言った。


「お前もやってみろ」


「俺?」


「身体軽いんだろ」


 レオンは少し驚いた。


「分かったのか」


「親だからな」


 父は笑う。



 レオンは少し考える。


 そして。


 近くに置いてあった薪束を持つ。


 いつもの感覚で持ち上げる。


 その瞬間。


「うおっ!?」


 軽い。


 軽すぎる。


 思わず持ち上げすぎた。


 薪束が肩の高さまで一気に持ち上がる。


「おい!」


 父が目を丸くした。


「そんな持ち方できたか!?」


 周囲の村人達も振り返る。



「なんだ今」


「軽そうだったぞ」


「いやあれ重いだろ」


 ざわつく。



 レオン自身も驚いていた。


 身体に力が漲っている。


 朝よりさらに。


 はっきり分かる。


 異常だった。



「兄ちゃん」


 トムがレオンを見上げる。


「ん?」


「やっぱり変だ」


「変ってなんだよ」


 レオンは少し笑った。


 トムは真顔だった。


「光」


「光?」


「うん」


 こくりと頷く。


「兄ちゃんだけすごい多い」


 レオンには意味が分からない。


 だが。


 トムは嘘を言っている顔ではなかった。


「そうか」


 レオンは頭を掻く。


「でも俺には見えないな」


「兄ちゃんにも見えたらいいのに」


「そうだな」


 トムは少し残念そうだった。



 その日の夕方。


 村人達は一つの結論に辿り着いた。


 何が起きたのかは分からない。


 理由も分からない。


 だが。


 皆に何かが起きている。


 それだけは確かだった。



 帰り道。


 夕陽が畑を赤く染めていた。


「兄ちゃん」


「ん?」


「世界中もこうなのかな」


 トムが聞く。


 レオンは少し考える。


 そして。


「たぶんな」


 と答えた。


 村だけとは思えなかった。


 あまりにも大きな出来事だったから。


「じゃあさ」


 トムが笑う。


「今頃みんなびっくりしてるのかな」


「してるだろうな」


「面白そう」


「他人事か」


 二人とも笑った。



 広場の方から歓声が聞こえる。


 誰かがまた火を出したらしい。


 その直後。


 今度は笑い声が上がる。


 きっとまた誰かが変なことをしたのだろう。


 ルーベル村はまだ祭りのような騒ぎの中にあった。


 そして。


 その日。


 誰もが少しだけ未来を楽しみにしていた。

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