表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/133

9-9 境界線上の旅立ち

 王都を焼き尽くさんとした戦火がようやく鎮まり、積み重なった瓦礫の下から新しい秩序の芽吹きが始まった頃。


 暫定政府の公式な法廷によって、一つの歴史的な断罪が下された。


 シグルド=アイズベルク。


 かつて王国随一の宮廷魔導師として栄華を極め、その傲慢さゆえに異界の兵器を呼び込み、王国を崩壊の危機に陥れた男。


 彼に下された判決は、慈悲深い死刑ギロチンではなかった。


 極北の辺境に位置する、魔力が枯渇しかけた魔導鉱山での永久強制労働。


 それが、彼に与えられた終着駅だった。


「死をもって償うには、あまりにも奴の罪は重すぎる。 死は逃げ道に過ぎぬ」


 それは愛する者を失った民衆の、そして暫定政府の一致した見解であった。


 この冷徹な判決の裏には、俺が密かに流したある情報が決定的な役割を果たしていた。


 それは、シグルドが古代魔導の暴走に巻き込まれた代償として、皮肉にも「老いることのない呪い」をその身に宿したという噂だ。


 実際には、俺が彼から魔導の『権限』を剥奪した際、副次的な処理として固定した状態だったが、俺はその真実をあえて捻じ曲げ、解呪不能な呪いとして公表した。


「もし俺が『魔法によって人を不老にできる』なんて事実が公になれば、次は死を恐れる権力者たちが群がってくる。

 ……老いという自然の摂理に抗おうとする執着ほど、この世界にとって厄介なものはないからな」


 俺は静かにそう呟き、自らの手のひらを見つめた。


 鏡に映る自分もまた、その不老という名の永い孤独を共有する存在だ。


 こうしてシグルドは、死ぬことも、老いることも許されず、永遠に続く過酷な労働の中で、自分が踏みにじった世界の重みを背負い続けることとなった。


 ◆


 王都に、ようやく仮初めの平穏が訪れた。


 俺は暫定政府の首班となったゼノス団長のもとを訪れ、自分たちがこの地を離れることを正式に告げた。


「シグルドが国内に遺した『負の遺産』……それらを一つずつ回収し、あるいは完全に解体する。

 それが、この事態を招いた一端を知る魔導師としての、俺の責任だと思っています」


 俺の揺るぎない決意を聞き、ゼノス団長は深く、重々しく頷いた。


「ルシ殿、貴公の進む道に精霊の加護があらんことを。

 王国暫定政府として、貴公の旅には最大限の便宜とバックアップを約束しよう」


 シグルドとの決戦で飛空艇を失ったため、今回の旅は地を這う徒歩の旅となる。


 しかし、ゼノス団長はその詫びとして、一国の国家予算にも匹敵する莫大な額のマナ・クレジット(魔導貨幣)を俺に支給した。


 それは単なる軍資金ではなく、王都を救った若き魔導師への、言葉に尽くせぬ感謝の証であった。


 旅立ちの前日。


 俺はメギストス師父と共に、今後の長い旅路を支える必需品を揃えるために東奔西走した。


 最高級の保存食、あらゆる汚染を浄化する解毒薬、予備の魔導媒体、そして過酷な環境に耐えうる頑丈な旅装。


 俺はこれらを、師父の指導のもと、空間を歪めて物質を格納する「空間収納魔法ストレージ」へと次々に詰め込んでいった。


「いいか、ルシ。 空間を畳んで物を収めるのは、情報の圧縮と似ておる。

 だが、欲張って容量を無視すれば、取り出す時に因果が絡まり、取り返しのつかぬ破損を招くぞ」


「わかっていますよ、師父。

 容量管理とリソースの最適化は、俺の最も得意とする分野ですから」


 師弟で交わされる、いつものような軽妙な掛け合い。


 しかし、その瞳の奥には、これから始まる未知の旅路への期待と、慣れ親しんだ地を去る微かな寂しさが滲んでいた。


 ◆


 旅立ちの朝。


 王都の東門には、ゼノス団長を筆頭に、生き残った多くの騎士や魔導師たちが顔を揃えていた。


 紺碧の髪を朝日になびかせ、凛とした旅装で立つリーフ。


 彼女と同じ紺碧の髪に染まり、不安げにルシの背後に隠れながらも、その瞳に自由への光を宿した少年、ネロ。


 そして、二人を背中で守るように立ち、以前よりもさらに鋭く、そして深い智を湛えた瞳を持つ少年――ルシ=ファーレン。


 その後方には、泰然自若としたメギストス師父、大剣を肩に担いで不敵に笑うバナード師匠、そして鋭い眼差しで周囲を警戒するアイリスが、それぞれの旅支度を整えて控えていた。


 もはや俺一人ではない。


 この最強の五人と一人の少年こそが、世界を修復するための唯一無二の「ユニット」であった。


「無事に戻ってくるのだぞ、ルシ!

 貴公が再びこの門をくぐる時、この国がもっとマシな場所になっているよう、我々も泥をすすってでも立て直してみせる!」


 ゼノス団長の力強い激励が、静かな朝の空気に響き渡る。


 俺は、一人一人の顔を心に刻むように見渡した。


「ああ。 ……行ってくるよ。 世界の『不具合』を、今度こそ全部片付けてくる」


 昇り始めた黄金の太陽が、瓦礫の街を神々しく照らし出す。


 俺、リーフ、そしてネロ。


 血の繋がりを超えた、新しく、そして不思議な家族は、誰にも支配されない自由な一歩を踏み出した。


 その後を追うように、三人の師と仲間が続く。


 境界線の向こう側。


 そこには、シグルドが遺した深い闇が、そしてそれ以上に美しい世界の真理が待っている。


 魔導師、ルシ=ファーレン。


 彼と仲間たちによる、世界の再構築リビルドの旅が、今、本当の意味で幕を開けた。

 もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下記の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をいただけると、執筆の大きな励みになります!


 皆様の応援が、物語を完結まで導く力になります。

  よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ