8-4 生体接続(インターフェース):拒絶のソケット
一行が実行階層の最奥部、神殿の最深部へと足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような高圧的な魔力が空間を支配した。
床からは心臓の鼓動に似た重低音の震動が伝わり、それはもはや神殿という構造物ではなく、巨大な生物の胎内に迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。
そこは、他のどの部屋とも異なる異常な設計思想で塗り固められていた。
壁一面を埋め尽くすのは、世界樹の枝から直接引き回された、赤黒く脈打つ魔導ケーブルのような根。
それらが一箇所に集約される中央には、金属と肉質が癒着したような不気味な装置が、深淵の口を開けて鎮座していた。
「……何、これ。 祭壇……ではないわ。 もっと、実務的で……おぞましい何かだわ」
アイリスが剣を構えたまま、生理的な嫌悪感を隠そうともせずに呟く。
装置の中央には、人間の左腕を肩まで丸ごと差し込むために設計されたかのような、生々しい粘膜を伴う接続孔が口を開けていた。
俺は解析眼を起動し、装置の基盤に焼き付いた残存ログを読み解いていく。
「……生体認証兼、広帯域魔力バイパス装置だ。
シグルドはここに、例の『世界樹の生枝で作った義腕』を接続し、自分自身の神経をネロの再起動用サーバーのブリッジにしようとしていたんだ」
ソケットの周囲には、高圧魔力の逆流によって飛び散ったであろう、どす黒い血痕が飛沫となってこびり付いている。
シグルドは、古代の超高規格に適合しない自らの脆弱な肉体を、無理やり魔法的に変換して繋ごうとしたのだ。
情報が衝突し、回路が焼き切れるたびに、彼の肉体は拒絶反応によって内側からズタズタに引き裂かれていたに違いない。
「……バカな奴だ。 救いようのねえ大馬鹿野郎だ」
バナード師匠が、装置のあまりの不気味さに吐き捨てるように言った。
「魔導師の体は、魔力を練り、循環させるための聖なる『器』であって、システムを回すための『物理部品』じゃねえ。
こんな真似をすれば、魔力が尽きる前に魂そのものが摩耗して消えちまうぞ」
メギストス師父も、眉間に深い皺を刻んでその負の遺産を凝視する。
「左腕をソケットに……。
己をシステムの一部として差し出すことで、神の如き権能を得ようとしたか。
それは探求などではない、ただの機械への『隷属』じゃ。
魔導の歴史に対する最大の侮辱と言っても過言ではない」
俺はソケットの奥に、シグルドの残留思念にも似た、不快なノイズのような魔力を感じ取った。
それは「もっと魔力を」「もっと出力を」と叫ぶ、主人のいない装置の飢餓感だった。
「シグルドはこの装置を通じて、王都に遺棄した『本物の左腕』から略奪した魔力を、このアーカイブ経由でネロへ流し込んでいた。
……でも、見てくれ。
このソケット、激しく焼き切れている」
装置の基盤は過負荷によってドロドロに融解し、半壊していた。
シグルドがここを立ち去った理由――それは、王都への凱旋などという華々しいものではなく、この生体インターフェースが物理的に限界(物理破壊)を迎え、これ以上の接続が不可能になったがゆえの敗走であったことを物語っていた。
「……あんたの肉体じゃ、ネロの『要求仕様』には応えられなかったんだよ、シグルド。
人間であることを捨てても、あんたは結局、ただの規格外品でしかなかったんだ」
俺は冷徹に事実を告げると、火花を散らす制御パネルへと手を伸ばした。
この壊れたインターフェースのキャッシュに残された通信ログこそが、ネロの現在位置と、起動シーケンスがどのフェーズまで進行しているかを知るための、最後の情報源になる。
「……ログの復元を開始する。 シグルドが最後に何を見たのか、すべて暴いてやる」
俺の琥珀色の瞳が、解析の光で青白く輝き始めた。
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