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7-7 覚醒のリーフ:帰還の琥珀と、埋没する福音

 洞窟を支配していた凍てつく静寂が、微かな吐息と共に破られた。


 ルシとリーフ。


 同時に瞼を開いた二人の瞳には、以前にも増して深く、澄み渡った琥珀色の輝きが宿っていた。


 それは世界樹の深層コアと同期し、魂の根幹を分かち合った者だけが放つ、高位の魔導波長。


「……ただいま戻りました。 師父、師匠、アイリス」


 俺の声には、迷いのノイズが一切混じっていない。


「ただいま戻りましたわ。 メギストス様、バナード様……そして、アイリス」


 リーフもまた、柔らかな、しかし凛とした微笑みを湛えて後に続いた。


 その瞬間、緊張の糸が切れたように、アイリスが二人へ猛然と飛びついた。


「――バカ! もう、本当にダメかと思ったじゃないですの! 無茶しすぎよ、二人とも!」


 抱きしめる腕の震えが、残された三人がどれほどの不安の中でこの静かなる戦いを見守っていたかを物語っていた。


「ああ、すまない」「ええ、心配をかけてごめんなさい」


 二人は互いに顔を見合わせ、苦笑しながらもその温もりを受け止めた。


「……それで、どうじゃった。 世界樹のコアの深淵は」


 メギストス師父が、杖を突きながら重々しく問いかける。


 俺とリーフは、意識の海で出会った銀髪の少年について静かに語り始めた。


 彼が絶望の中で泣いていたこと。


 道具として使われることを拒みながら、肉体という檻に縛り付けられている悲劇的な独白。


 そして、彼と交わした最後の約束について。


「……なるほどの。 魂は無垢なまま、肉体に直接、強制介入の術式を刻み込んだか。

 古代魔法の暗黒期には、確かにそのような『刻印魔法』の記録があったな」


 メギストスは深く溜息をつき、教え子の瞳をじっと見つめた。


「それで、ルシよ。 お主はどうするつもりじゃ?」


「持てる全ての力、そしてこの命を使ってでも、彼を救います。 ……そう、魂に刻みましたから」


 俺の言葉に、メギストスは満足げに目を細めた。


「そうか。 ならば、その約束は必ず成し遂げねばならんの」


 傍らで武器を整えていたバナード師匠が、野性味溢れる笑みを浮かべる。


「ふむ。 少しは見ない間に、肝が据わったようじゃな。

 小僧から男の面構えになった」


 師匠は洞窟の外、急に静まり返った雪原を見据えた。


「吹雪は止んだ。 天が『来い』と言っておる。 行くなら今ぞ」


 俺とリーフは深く頷き合い、装備を整える。


 琥珀色の瞳に宿る熱は、もはや極北の寒気など寄せ付けない。


 五人は再び、決戦の地である雪山の頂へと足を踏み出した。


 ◆


 その頃、山頂の遺跡付近では――。


 シグルド=アイズベルクが、文字通り這いつくばって雪を掘り返していた。


「クソッ……どこだ! どこへ行った!」


 先ほど、怒りに任せて放り出したマニュアル。


 冷静さを取り戻し、起動のために、それが不可欠であると悟った彼は、プライドを捨てて捜索を始めていた。


 だが、荒れ狂った吹雪が視界を奪い、降り積もった新雪がすべてを白一色の虚無へと塗り潰している。


「何故だ……何故、この俺がこんな惨めな真似を!

 俺は選ばれた男だ、世界を導く英雄なのだぞ!」


 呪詛を吐き散らす彼の背後で、突如として地鳴りが響いた。


 急激な気温の変化か、あるいは過充填された魔導力の余波か。


 斜面の積雪が一気に崩れ落ち、巨大な白銀の奔流――雪崩となってシグルドの傍らを猛烈な勢いで通過した。


「――っ、間一髪か……!」


 雪煙に巻かれながら、シグルドは命拾いしたことに安堵した。


 だが、その直後に絶望が彼を襲う。


 雪崩は彼が先ほどまで目星をつけていた捜索範囲を、数メートルもの厚い雪の壁で完全に覆い隠してしまったのだ。


「捜索が、振り出しに戻ったというのか……! クソッ、クソォッ!!」


 彼は天を仰いで吼えた。


 しかし、彼は気づいていなかった。


 先ほどの雪崩が起きた場所こそが、彼がマニュアルを投げ捨てた位置であったことに。


 そしてその答えは今、何処かの冷たい雪に埋もれ、探索が不可能なほどのどこかに移動してしまったという事実に。


 王都の黒幕ヴォルガが待ち望み、シグルドが渇望した世界の浄化。


 その起動スイッチは、愚か者の手から永遠に失われようとしていた。


 一方、麓からは、約束を果たそうとする救済の解析者たちが、一歩ずつ、確実にその距離を詰めていた。

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