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5-4 糾弾:剥き出しの呪釘と、憤怒の解析

 世界樹の間。


 その聖なる静寂は、俺が放った一言によって破られた。


「……アイリス、そこを退け。 ……床を、叩き割る!」


 ルシの解析眼アナライズは、今や石畳の表面ではなく、その数フィート下――世界樹の根が魔導回路と複雑に絡み合う物理基盤ハードウェアの深層を射抜いていた。


 アイリスが驚きと共に飛び退くと同時に、俺は魔導師団長から許可を受けた衝撃魔法を、一点に集中させて解き放った。


 轟音と共に大理石の床が弾け飛び、土煙が舞い上がる。


 俺は躊躇うことなく、その瓦礫の山へと飛び込んだ。


 かつての救世主としての清潔な身なりなど、今の彼には何の意味も持たない。


 泥にまみれ、爪を割りながら、彼は世界樹の心臓部へと繋がる魔力分配基盤バス・ラインを掘り返した。


「――見つけたぞ。 シグルド……貴様の底は、どこまで浅いんだッ!」


 剥き出しになった回路の結節点。


 そこに、禍々しい輝きを放つ呪われた魔石が、物理的な力で無理やり打ち込まれていた。


 それは、シグルドが王都を追われる間際にリモートで操作できるように仕掛けた、最悪の置き土産――物理的干渉。


 魔石から漏れ出す汚染された魔力は、本来交わるはずのない回路同士を強引に結びつけ、絶え間ない回路の短絡を引き起こしていた。


 俺の脳内で、すべてのエラーログが一本の線で繋がった。


 回路が短絡したことで、世界樹は致命的な魔力漏出が発生したと誤認。


 即座に緊急維持モード(セーフ・モード)へと移行していたのだ。


 魔力リソースが極限まで枯渇したと判断した世界樹は、生存に直結しないすべての魔導式の優先順位を、容赦なく最低状態へと引き下げる。


 そして。


 世界樹にとって、実体化した魔導生命体であるリーフは、都市の防衛や王宮の維持に比べれば非必須な贅沢品に過ぎなかった。


 優先度が最低まで落ち、アクセスが不安定になった彼女の存在記述を、世界樹の自浄作用はもはや参照されていない、メモリを食い潰すだけの残骸ゴミと判定。


 無慈悲な自動掃除機能が、一時間ごとに彼女を消去すべく牙を剥いていたのだ。


「論理的な修正が効かないわけだ……。 論理コードが壊れているんじゃない。

 論理を走らせる土台ハードそのものが、物理的にねじ曲げられていたんだからな」


 俺の背中から、立ち昇るほどの怒りが溢れ出した。


 シグルドは、リーフという一人の魂を、ただの魔力調整のための捨て駒として、物理的なゴミ同然に扱ったのだ。


 泥まみれの手で、俺はその呪われた魔石を掴み取った。


 魔石が発する拒絶の放電がルシの腕を焼き、皮膚が焦げる臭いが漂う。


 だが、俺は表情一つ変えず、そのバグの根源を力ずくで引き抜こうとした。


「リーフは……俺の相棒は……。

 貴様が使い捨てるための、データなんかじゃないッ!!」


 俺の叫びと共に、回路から火花が散り、世界樹全体が震動した。


 周囲の魔導師たちがその圧倒的な怒気に圧され、息を呑む。


 今、俺の中で、魔導師としての冷徹な解析は、愛する者を冒涜された一人の男の憤怒へと昇華されていた。


 シグルドが残した最後の、そして最も愚かなゴミを、俺はこの手で握りつぶそうとしていた。

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