4-6 真実:公表される罪状と、管理者への回帰
その瞬間、王国全土に設置された魔導投影像が一斉に明滅し、一瞬のラグの後に、一つの絶対的な意思を映し出した。
画面に現れたのは、現国王エドワード=バニラ三世。
威厳に満ちたその老躯は、沈黙を破り、全土に向けて宣言を放った。
『――国民よ、聞くが良い。
先ほど流布された記録は、すべて紛れもなき真実である』
王の肯定。
それはシグルドにとっての死刑宣告に等しかった。
さらに王は、追い打ちをかけるように新たな罪状を読み上げた。
前魔導師団団長の不審死。
それがシグルドの手による謀殺であったという確定的な証拠の提示。
そして、国家を欺き続けた簒奪者に対する、峻烈な「権限剥奪」の布告。
『本日付で、シグルドの魔導師団団長職を剥奪する。
代わって現副団長を団長へと昇格させ、逆賊の捕縛を命じた。 ……そして』
王の声が、一段と熱を帯びる。
『至高の魔導師ルシの名誉を、此処に完全回復させる。
彼への国外追放刑は即時撤回し、新たに王宮魔導師団副団長の任を与える。
……ルシよ、戻れ。 この国には、貴殿の知恵が必要だ』
◆
この公式配信を受け、各地の町や村では爆発的な蜂起が始まった。
シグルドの圧政に喘いでいた民衆は歓喜し、独裁者の象徴を次々と引き倒していく。
しかし、その熱狂の影で、冷たい沈黙に支配された場所もあった。
かつてルシがエリュシオンへと追放される道すがら、彼を裏切り者と罵り、石を投げつけた町や村。
そして、幼い頃の彼を無能と呼び、虐待を繰り返していた故郷の村である。
彼らは、自分たちが真実を確認もせず、どれほど凄まじい英雄を、どれほど残酷に虐げてきたのかを突きつけられた。
「……俺たちは、あの方に何を……」
後ろめたさと、共犯意識。
自分たちの愚かさが記録として残ってしまった絶望感。
彼らはこれから一生、救世主を裏切った者として、消えぬ罪悪感を抱えて生きていくことを悟り、ただ震えるしかなかった。
◆
その頃、シグルドは未だ外界から遮断された隠蔽区画の暗がりにいた。
結界によって情報の流入を拒絶したその部屋で、彼は落ち着きなく、獣のように床を往復している。
「私は魔導師団団長だ。
この国の頂点だぞ……なぜ、こんな場所に逃げ隠れせねばならんのだ。
……いや、まだだ。
まだ情報は確定していないはずだ。
前団長の件も、証拠はすべて消した。
バレるはずがないんだ」
彼はそう自分に言い聞かせ、崩れそうな精神の均衡を繋ぎ止めようとしていた。
外界では、既に彼の存在理由そのものが抹消されているというのに。
ここは外界と隔絶された、安息の檻。
ちょっとやそっとの索敵では見つからないはずだ――そう信じることでしか、彼は己を保てなかった。
「いつまで、ここで過ごさなければならない……。
早く、早くルシが死んだという報告を持ってこい……!」
焦燥感が、冷たい汗となって背中を伝う。
彼はまだ気づいていない。
彼が信じている隠蔽すらも、ルシという設計者の前では、透き通った硝子の箱に過ぎないということを。
◆
王都ユグドラシルの巨大な外門の前。
一筋の光が空間を裂き、五人の影が実体化した。
ルシたちの帰還である。
門を警備していた騎士たちは、現れた五人の姿を見るなり、一斉に緊張の面持ちで直立不動の姿勢をとった。
かつての冷笑や侮蔑は、そこには微塵もなかった。
「――ルシ魔導師団副団長殿! お待ちしておりました!」
最敬礼と共に投げかけられた言葉に、ルシは僅かに眉を動かした。
「……副団長?」
「はい。 ……あちらをご覧ください」
門番が指し示した先、王都の至る所にある魔導スクリーンでは、先ほどの王の宣言がループ(繰り返し)で再生されていた。
黄金の文字で刻まれた『名誉回復』と『副団長就任』の告知。
それを見たアイリスと師匠たちは、確かな勝利の予感に表情を和らげた。
「……ルシ。 どうやら、物理的な突入の前に、論理的な制圧は完了したようですわ」
アイリスが剣の柄を握り直し、不敵に笑う。
俺は静かに頷き、高くそびえ立つ王城を見上げた。
「ああ。 ……シグルドを、この国のシステムから『完全抹消』しよう。
仕上げの時間だ」
五人の英雄が、ついに王都の土を踏む。
救世主の帰還。
その一歩ごとに、王都の理が、本来あるべき形へと再起動を始めていた。
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