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4-3 経路:最短の算定(オプティマイズ)と、銀鱗の餞(はなむけ)

 エリュシオンの夜が明ける。


 潮騒が朝の光に震えるログハウスの作戦卓で、ルシたちは最終的な進軍経路の策定を完了させていた。


 宙に浮かぶ魔導地図には、無数の幾何学的な線が引かれ、消され、最後に一本の太い黄金のラインが東へと伸びた。


「……やはり、東の荒野を直線で貫くのが最短だ。


 物理的な障壁は多いが、今の俺たちなら『最短経路』で突破できる」


 俺の言葉に、一同が頷く。


 移動手段として選ばれたのは、空間記述を直接書き換える転移魔導――それも、数キロ単位の「短距離跳躍バースト・ジャンプ」の連続使用である。


 王都までの数千キロを一息に跳ぶ長距離転移は、座標の僅かな浮動小数点誤差によって、実体化の際に壁の中や地中に埋没する致命的な物理干渉を招く恐れがあった。


 何より、先ほどの呪詛記述の影響で、リーフの存在基盤レンダリングに微かなラグが生じている。


「リーフ、無理はしないでくれ。

 転移の全記述と魔力リソースの供給は、すべて俺が持つ。

 君は自分の存在を安定させることだけに集中してほしい」


「……ええ、わかったわ。 ごめんなさい、ルシ。

 少し、読み込み(ロード)が重いみたい」


 リーフは力なく微笑むが、その指先はまだ僅かに透けていた。


 師匠であるメギストスとバナードは、それぞれの獲物を研ぎ澄ますべく、一度拠点へと戻っていった。


 大賢者の杖と、山をも砕く剛拳。


 伝説の再起動には、相応の儀式が必要なのだ。


 アイリスもまた、かつて背負った特務隊の誇りである銀の甲冑を整備するため、酒場『潮風亭』へと急いだ。


 ◆


 その頃、東の王都。


 かつて氷の貴公子と称えられ、清潔な魔導衣に身を包んでいたシグルドの姿は、見る影もなく崩れていた。


 彼は王城の地下、緊急避難用に自ら密かに構築した隠蔽区画デッド・スペースに潜伏していた。


 外からは、止まぬ怒号と地鳴りのようなデモの足音が響いてくる。


 俺が流した真実のログは、もはや王都だけに留まらず、国内すべての街や村へと伝播し、全土を蜂起の渦に叩き落としていた。


「……くそ……なぜだ……。 私は完璧だった。 私は、選ばれたはずだ……」


 乱れた髪、充血した眼。


 ガタガタと震える指先で、彼は今や無用の長物と化したアクセスキーを握りしめていた。


 彼に残されたのは、孤独な闇と、刻一刻と迫ることわりの裁きに対する、拭えぬ恐怖だけであった。


 ◆


 エリュシオンの正門前。


 そこには、俺たちの出発を聞きつけた多くの住民が集結していた。


 漁師、商、職人。


 この数ヶ月、俺が名もなき青年として、あるいは潮風亭の居候として接してきた人々だ。


「ルシさん! 頼んだぜ!」


「アイリス様、どうか……王都を、皆を救ってください!」


 熱い檄が飛ぶ中、群衆の中から一人の少女が駆け寄ってきた。


 彼女は震える手で、五人それぞれの胸元へ、港町に咲く銀鱗草の花を差し出した。


 潮風に強く、決して折れないと言われる、この街の象徴だ。


「……必ず、無事に戻ってきて」


 少女の小さな願いに、俺は一瞬だけ表情を緩め、その花をしっかりと受け取った。


「ああ。 ……約束する。 この街の『不具合』をすべて直して、必ずここへ帰ってくるよ」


 俺、リーフ、アイリス、そして再合流したメギストスとバナード。


 五人の影が、朝日に向かって長く伸びる。


 次の瞬間、俺の指先が空間を定義し、五人の姿は眩い光の粒子となって、東の空へと消えた。


 それは、世界樹の理を正し、簒奪された歴史を取り戻すための、最短にして最速のバースト転送の始まりであった。

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