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牛が村長に選ばれた話

スイスの小さな村では、ときに人間よりも牛のほうが賢明な判断を下すことがあります。


村の人々が新しい代表を選ぼうとしたとき、誰も予想しなかった候補者が現れました。


ユーモアと温かさに満ちた、小さなスイスの不思議な物語です。

牛が村長に選ばれた話

ハンスが、もう次の村長選挙には出ないと言ったとき、強く引き止める者はいなかった。

長いあいだ会議の司会をし、苦情を聞き、人々が三十分も言い争った末に、最初から同じ意見だったと気づく場面を、十分すぎるほど見てきたからだ。

最後の村議会が終わると、ハンスは役場の鍵をテーブルに置いた。

「今度は誰かほかの人がやればいい」

村では、それで説明として十分だった。

選挙が行われることになった。

候補者は三人いた。

一人目は銀行家のヴィルヘルム。

ヴィルヘルムは、支出を減らし、収入を増やし、これまでの報告書をなぜ誰も読まなかったのかについて新しい報告書を作ると約束した。

自分が政策をどれほど真剣に考えているか示すために、彼はプレゼンテーションを持ってきた。

あまりに大きかったので、専用の椅子が一脚必要になった。

二人目は宿屋の主人、バルタザールだった。

バルタザールは毎週金曜日にビールを無料にすると約束した。

ただし、条件が一つあった。

無料で飲むには、月曜日から木曜日のあいだに前払いしておかなければならない。

バルタザールはこれを健全な資金計画と呼んでいた。

三人目はマルタだった。

村では今でも「マルタ先生」と呼ばれていた。

もっとも、彼女がかつて教えた中でいちばん若かった生徒も、今ではもう孫のいる年だった。

マルタは何も約束しなかった。

そのせいで村人たちは、彼女を妙に正直な候補者だと思った。

選挙の朝、広場に木製の投票箱が三つ置かれた。

それぞれに候補者の名前が書かれていた。

ヴィルヘルムは自分の箱のそばに立ち、鉛筆を長さ順に並べていた。

バルタザールは自分の箱のそばでビールを配っていた。

本人の説明によれば、そのビールは代金を払った瞬間から無料になるらしかった。

マルタは噴水のそばに座り、この三冬、どの服の一部にもなっていない袖を編んでいた。

ヴィルヘルムの投票箱の上にはグスタフが座っていた。

ヴィルヘルムが追い払った。

グスタフは戻ってきた。

もう一度追い払った。

また戻ってきた。

「誰か、この鳥を投票箱からどけてくれないか」

ハンスが顔を上げた。

「投票してるわけじゃない」

グスタフは、それを選挙規則の不必要に狭い解釈だと考えた。

少し離れたところでは、ベルタが草を食べていた。

ベルタは年老いたペーターの牛だった。

大きな茶白の牛で、立派な角と穏やかな目を持ち、谷でいちばんいい牛の鈴をつけていた。

その鈴には、悪魔がひどく高い金を払っていた。

ヨーゼフは十二個試してから、ようやくそれを認めた。

ベルタ本人は、その件に特別な関心を示したことはなかった。

村でベルタが知られていた理由は、主に二つあった。

驚くほど落ち着いていること。

そして、公式行事に対する敬意がまったくないことだった。

九時ごろ、ベルタはゆっくり広場へ入ってきた。

誰も呼んでいなかった。

最初に、ヴィルヘルムの投票箱の前で止まった。

名前の札を見た。

匂いをかいだ。

一度なめた。

それから食べた。

ヴィルヘルムは、銀行家が帳簿から小数点が一つ消えているのを見つけたときに出しそうな音を出した。

「選挙への介入だ!」

ベルタはそのまま噛んでいた。

次に、バルタザールの投票箱へ行った。

頭を下げた。

額を箱の端に押しつけた。

そして倒した。

未使用の投票用紙が広場いっぱいに舞った。

バルタザールはビールをこぼさないようにしながら、紙を追いかけた。

「政治的挑発だ!」

ベルタはしばらく彼を見ていた。

それからマルタの投票箱へ行った。

箱の前に横になった。

目を閉じた。

そして眠った。

マルタは眼鏡越しにベルタを見た。

「決めたみたいだね」

選挙はそのまま続いた。

村人たちはベルタをまたぎ、投票用紙を受け取り、一人ずつ仕切りの向こうへ入っていった。

選挙委員長を務めていたハンスは、紙に何か書いた。

牛を伴う事案。

書いた文字を見た。

それから鉛筆を置いた。

どうやら、それで十分だった。

夕方になると、村じゅうの人が役場に集まり、開票が始まった。

ハンスが最初の箱を開けた。

書記が票を一枚ずつ取り出し、名前を読み上げた。

「ヴィルヘルム」

「マルタ」

「バルタザール」

「ヴィルヘルム」

そこで止まった。

紙をもう一度見た。

「ベルタ」

ハンスが顔を上げた。

「何だって?」

書記が投票用紙を見せた。

大きく、少し曲がった字で、一つだけ名前が書いてあった。

ベルタ。

「誰が書いた?」とハンスが聞いた。

誰も答えなかった。

ペーターは天井を見た。

バルタザールは突然、自分の靴に深い興味を抱いた。

鍛冶屋は爪を調べ始めた。

マルタは笑わなかった。

ただ、笑おうと思えば笑えそうな顔をしていた。

窓辺では、グスタフが身を乗り出した。

書記が次の票を開いた。

「ベルタ」

もう一枚。

「ベルタ」

さらにもう一枚。

やがて、ベルタの票だけで一つの山ができた。

テーブルを囲んでいた村人たちは、驚いていると同時に、自分もまったく同じことを考えたとはなるべく悟られたくない人たち特有の顔をしていた。

すべての票を数え終わると、ベルタが大差で勝っていた。

ヴィルヘルムが立ち上がった。

「こんなのは違法だ」

ハンスは選挙規則を持ってきた。

最初から最後まで読んだ。

それから少し考え、最後から最初まで読んだ。

ときどき、そのほうが役に立つことがあった。

「牛を選んではいけないとは、どこにも書いてない」

「政策がないじゃないか!」

ペーターが壁にもたれていた。

「おまえもないだろ」

ヴィルヘルムは彼を見た。

「もちろんある」

ペーターは首を振った。

「あるのはプレゼンテーションだ」

何人かがうなずいた。

ヴィルヘルムは窓の外を指した。

外ではベルタが花箱からゼラニウムを引き抜こうとしていた。

「しゃべることすらできないんだぞ!」

「できない約束をする心配はないね」とマルタが言った。

「村の運営なんて何もわかってない!」

ペーターは考えた。

「ハンスはいつもわかってたのか?」

全員がハンスを見た。

元村長も少し考えた。

「いつもではなかったな」

それで、たいていの反対意見は終わった。

バルタザールがもう一つだけ言った。

「少なくとも、本人が引き受けるかどうかは聞くべきじゃないか?」

選挙委員会は広場へ出た。

ベルタは噴水のそばで草を食べていた。

ハンスが近づいた。

「ベルタ」

ベルタは食べ続けた。

「おまえが村長に選ばれた」

ベルタは噛んでいた。

「引き受けるか?」

ベルタは別の草のところへ移った。

委員たちは少し離れ、声を落として相談した。

その反応は、承諾として議事録に記載された。

翌朝、ペーターがベルタを役場へ連れてきた。

正式な就任式だった。

少なくとも、牛が出席する式典として可能なかぎり正式だった。

ハンスがベルタの首に村長のたすきを掛けた。

少し短かった。

書記が気づいた。

ハンスも気づいた。

ヴィルヘルムは間違いなく気づいた。

しかし、誰もそれを憲法上の問題にしたくはなかった。

次に、ハンスが役場の鍵を渡した。

ベルタはなめた。

書記は公文書の台帳を開いた。

「権限の移譲は完了しました」

村長室の大きな椅子は取り払われた。

机のそばには、水の入った桶とひと抱えの干し草が置かれた。

公印は、いつもの場所に残った。

書類だけは、最初の勤務日が終わるころには、少しずつ高い場所へ移され始めていた。

村長ベルタに持ち込まれた最初の案件は、下の広場に新しい噴水を造ってほしいという申請だった。

書記が書類を机に置いた。

ベルタは匂いをかいだ。

舌で少し引き寄せた。

そして角を一つ食べた。

書記は、ベルタが噛み終わるまで待った。

それから書いた。

要再検討。

次は、教会の鐘についての苦情だった。

ある住民が、日曜日の鐘はうるさすぎると言っていた。

書記が苦情を読み上げた。

ベルタは頭を上げた。

教会のほうを見た。

そして、モー、と鳴いた。

書記は少し考えた。

それから書いた。

住民の意見聴取を要する。

昼食のあと、ヴィルヘルムがやってきた。

分厚いファイルを小脇に抱えていた。

中には表、計算、色つきのグラフが何枚も入っていた。

「村長」と彼は切り出した。「現在の村の財政状況を考えますと、地方税の引き上げは避けられません」

ベルタは彼を見た。

それから、ゆっくり後ろを向いた。

ヴィルヘルムは話すのをやめた。

書記はペンを議事録の上に止めたまま、かなり長く考えた。

やがて書いた。

提案、最も強い形で却下。

ヴィルヘルムは挨拶もせずに帰った。

数週間もすると、ベルタは歴代の人間の村長たちに比べて、少なくとも劣ってはいないことがわかってきた。

会議で人の話を遮ることはなかった。

賄賂も受け取らなかった。

主に、草とリンゴと、ときどき公文書にしか興味がなかったからだ。

親戚を要職につけることもなかった。

いとこは十二頭いた。

そして何より、ベルタには無駄な話し合いを終わらせる珍しい才能があった。

会議が長引くと、立ち上がって出ていった。

最初のとき、村議会は彼女なしで会議を続けた。

さらに一時間。

そのうち誰かが、村長がもう牧草地に立っているのに、こちらで決定してよいのだろうか、と言った。

誰にもわからなかった。

二度目にベルタが出ていったときは、みんなもあとを追った。

三度目には、最初から短く話すようになった。

数か月後には、会議は夕食前に終わるようになっていた。

道は修理された。

学校には冬を越すのに十分な薪があった。

帳簿は合っていた。

そして、公文書は目に見えて短くなった。

最後の点については、ベルタが二枚目を食べる癖が大きく関係していた。

最初、書記は止めようとした。

次に、二枚目を少し遠くへ置いた。

最後には、書かなくなった。

驚いたことに、そのほうが行政はうまく回った。

一枚に収まる内容なら、受け取った相手にもたいてい理解できた。

一枚に収まらない内容は、書いた本人にも完全には理解できていないことが少なくなかった。

グスタフにも利益があった。

役場の机の下には、公文書の切れ端がよく落ちた。

グスタフはそれを一つずつ運んでいった。

春になるころには、巣の一部が地方税引き上げ案と道路工事のお知らせ、それに日曜の鐘への苦情の半分でできていた。

グスタフはこれを、行政との実りある協力関係だと考えていた。

ベルタの就任からおよそ一年後、州の監査官が村へやってきた。

痩せた男だった。

硬い襟。

磨かれた靴。

革の鞄。

その鞄には、この世にありうるあらゆる種類の不備に対応した適切な用紙が入っていそうだった。

書記が彼を村長室へ案内した。

ベルタは窓辺で干し草を噛んでいた。

首には村長のたすき。

重要書類は、そのころにはもうベルタの口が届く高さより、ずっと上に置かれていた。

監査官は戸口で止まった。

顔から血の気が引いた。

「あれは何です?」

「うちの村長です」

監査官はベルタを見た。

「牛ですよ」

「承知しています」

「牛が村を運営しているんですか?」

「もうほぼ一年になります」

監査官は一歩下がった。

「でも、動物でしょう」

書記は安心させるようにうなずいた。

「ご心配なく。報道陣の前には出していません」

監査官はただちに全面監査を要求した。

村の会計。

学校。

道路。

消防。

噴水。

小川にかかる橋。

前の春、あの悪魔が許可のことでずいぶん文句を言っていた、あの橋だった。

税務書類。

建築申請。

会議の議事録。

議事録は驚くほど短く、驚くほどわかりやすかった。

夕方には、監査官は役場の一室で、きれいに積まれた書類に囲まれて座っていた。

すべて問題なかった。

支出には説明がついた。

期限は守られていた。

道路は修理されていた。

学校には薪があった。

橋は丈夫だった。

毎年の消防訓練もきちんと行われていた。

ただし、消防団員が二人、訓練後もバルタザールの宿屋に残り、それも正式な反省会の一部だと言い張っていた。

監査官は、不備が見つかったときより、何も見つからなかったことのほうに困っているようだった。

「どうやったんです?」と書記に聞いた。

書記は肩をすくめた。

「上にいる人が演説をしなければ、そのぶん、ほかの人が仕事できますから」

監査官は視察報告書を書いた。

六ページあった。

ベルタが後半を食べた。

監査官は書き直した。

新しい報告書のほうが、ずっとわかりやすかった。

最初の選挙から一年後、広場にはまた三つの投票箱が並んだ。

ヴィルヘルムは再び立候補した。

新しいプレゼンテーションは百十二ページあった。

本人は「簡略版」と呼んでいた。

一ページ目には、牛の放牧地を背景に立つヴィルヘルムの写真が載っていた。

バルタザールもまた立候補した。

今度は隔週の金曜日に、無料ビールを二杯ずつ提供すると約束した。

ただし、水曜日までに二杯分とも全額支払っておくことが条件だった。

彼はこれを大幅な制度改善だと考えていた。

マルタは立候補を断った。

「前にも何も約束しなかったからね。何度もやるもんじゃないよ」

ベルタは討論会に来なかった。

干し草で忙しかった。

ヴィルヘルムは責任について演説した。

バルタザールは団結について演説した。

マルタは一番後ろの席で編み物をしていた。

グスタフは窓辺に座っていた。

今度は、彼に投票権があるかどうかを尋ねる者はいなかった。

投票の日、ベルタはまた勝った。

今度は全会一致だった。

ヴィルヘルムまでベルタに投票していた。

あとで本人は否定した。

残念なことに、ベルタの名前を万年筆で書いた票は一枚しかなかった。

そのことを必要以上に本人へ指摘する者はいなかった。

ベルタはその後も長いあいだ村長を務めた。

演説はしなかった。

取材にも応じなかった。

式典への出席は、できるかぎり避けた。

避けられないときには、誰かが切るより先にリボンを食べるという、少し困った癖があった。

ベルタが決定を下すことは少なかった。

その代わり、ベルタのそばでは驚くほど多くの愚かな決定が下されずに済んだ。

村人たちは、いつしかこんなふうに言うようになった。

「あれはベルタ二期目のころだった」

あるいは、

「あそこに納屋を建てるのをベルタが止める前だった」

実際にベルタが何かを止めたのかどうかは、誰にもよくわからなかった。

おそらく、ただ近くに立っていただけだった。

そのころには、それでほとんど十分だった。

それから、ずっと何年もたって、ベルタは死んだ。

村はベルタを悼んだ。

長いあいだ、見慣れた場所の景色そのものの一部になっていた者を悼むように。

静かに。

みんなで。

演説もせずに。

役場の前に、ベルタの像が建てられた。

首には村長のたすきが掛かっていた。

足もとには、角が一つ欠けた書類が置かれていた。

グスタフは、ときどきその頭にとまった。

誰も気にしなかった。

台座には、こう刻まれた。

ベルタは、めったに決定を下さなかった。

愚かな決定なら、なおさらだった。

村を導くために本当に必要なのは、立派な演説や難しい約束なのでしょうか。


ときには、静かに耳を傾けることのほうが大切なのかもしれません。


「小さなスイス」の次の物語も、どうぞお楽しみに。

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