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端材の神様 〜魔道具職人見習いの練習作品は、なぜか依代になる〜  作者: ヅダスキー3世
第二章 七つの品

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第四十話 朱漆

 日曜の夜、取引画面をいちばん下までさかのぼって脚甲の取引を開いた。部屋の明かりは消してあって、画面の光だけが天井に四角く映っている。

 

 一覧には、これまでに売った物が新しい順に並んでいる。エーデルワイスのすぐ下が脚甲だ。ひと月以上前に届いたメッセージが、そのまま残っていた。

 

『脚甲、とても使いやすいです。蹴りの踏み込みが驚くほど速くなりました。ありがとうございました。それと、神様が宿りました。かまどの神様のようです。なぜ脚甲にかまどなのか、私にもよく分かりません。』

 

 届いた晩にも読んで、短い返事を送ってある。あのときは使いやすいと書いてもらえたことと、神様が宿ったことで頭がいっぱいだった。かまど、というところは首をかしげたまま通り過ぎてしまった。

 

 かまどは、煮炊きをする場所だ。

 

 脚甲を着けて迷宮へ潜る人のそばに、かまどの神様がいる。それならあの人たちは、迷宮のどこかで何かを煮て食べているのかもしれない。石の床の上で鍋が湯気を立てているところを思い浮かべようとしても、うまく形にならない。

 

 迷宮で人が何を食べているのか、僕はほとんど知らないのだ。思い浮かぶのは、管理棟の売店に並んでいた銀色の袋の携帯食くらいだった。休憩所で広げるお弁当の時間が楽しみになる物でもいい、と今朝は思った。それなのに、そのお弁当がどんなふうに食べられているのかも知らない。

 

 窓の外で、やんでいた雨がまた降り始める。

 

 弁当箱のことを考えているうちに、うちにも重箱があったはずだと思い出した。

 

 二階の居間では、じいちゃんがちゃぶ台に新聞を広げていた。壁際の仏壇の中で、写真のばあちゃんが今日も作業着のまま笑っている。

 

「じいちゃん、うちに重箱ってあったよね」

 

 じいちゃんは新聞から顔を上げて、しばらく僕を見ていた。それから黙って立ち上がり、押し入れのいちばん上の戸を開ける。

 

 下ろしてきたのは、色の褪せた唐草の風呂敷包みだった。結び目をほどくと古い木箱が出てきて、蓋には筆ペンの丸い字で「重箱 三段」と書いてある。

 

 作業場の工具棚の札と同じ字だ。札の半分はじいちゃんの字で、半分はばあちゃんの字。これはばあちゃんのほうだった。

 

 じいちゃんは木箱の蓋を両手で持ち上げて、包んである布ごと中身を取り出した。お客さんから預かった品物を出すときと同じ手つきだ。

 

 外が黒、内が朱の三段重ねだった。

 

 蓋を取って一段ずつ畳の上に並べる。黒は深くて、居間の明かりがそのまま底のほうへ沈んでいくように見える。四つの角のところだけ縁の黒が擦れて、下の茶色がうっすら透けていた。持ち上げるとき、ばあちゃんがいつも指をかけていたところなのだろう。

 

 内側の朱は、どこまでも平らだ。

 

 明かりを斜めに受けると、箸の先が当たった細い傷がかすかに浮かぶ。指でなぞってみると、底から壁へ上がる隅は丸くなっていて角がどこにも立っていない。外の黒にも絵は一つもなかった。魔石も回路の線も、どこにもない。

 

 それなのに重ね直すと、段と段がすとんと収まる。向きを確かめなくても蓋がぴたりと閉まり、持ち上げると見た目よりずっと軽い。外の角はどれも指の腹ほどの幅で丸く面が取ってあって、どこを握っても手のひらに当たらない。

 

「正月と、花見と…」

 

 じいちゃんが擦れた縁を指でなぞった。

 

「河原へ行ったときも、これだったね」

 

 じいちゃんはそれだけ言って、仏壇の写真のほうへ目をやった。

 

 小学生のころ、じいちゃんとばあちゃんとアイカと四人で弁当を持って河原へ行ったことがある。平たい石の上にこの重箱が広げてあって、一の重には卵焼きがぎっしり並んでいた。

 

 ばあちゃんがいなくなってからこの重箱を出したことがあったのかどうか、僕は覚えていない。畳の上の風呂敷には、白い折り目がくっきり残っていた。

 

「これ、借りてもいい?見るだけ。どこもいじらないから」

 

「見るだけなら、いくらでも」

 

 じいちゃんはそう言って、また新聞を広げた。

 

 この重箱には、刃も針も当てない。作るのは、新しい重箱だ。

 

 次の日は学校から帰ると、ばあちゃんの重箱を作業台の端に置いて巻き尺で一段ずつ測った。

 

 外は18センチ角。一段の深さは、卵焼きを立てて詰めても蓋に当たらないくらいある。蓋の裏まで朱が塗ってあって、縁の内側には指の幅ほどの細い段が回っていた。上の段の底がここへ落ちて、段と段が噛み合うのだ。

 

 勝手口が二回鳴った。アイカの叩き方だ。

 

 戸を開けると、たたんだ傘の先から雨のしずくが土間に落ちる。前髪の先が雨で細い束になっていた。アイカは学校の鞄を肩に掛けたまま作業台をのぞき込み、そこで止まった。

 

「…それ、河原の」

 

「覚えてるの?」

 

「卵焼き」

 

 アイカは重箱の朱から目を離さない。

 

「おばあちゃんの、ちょうどいい甘さだった」

 

 じいちゃんの卵焼きは、ばあちゃんの味をまねているのに砂糖が多い。本人は、たぶん今も気づいていない。

 

 迷宮で何を食べているのか聞くと、アイカは丸椅子に腰を下ろして考えた。

 

「コンビニのおにぎり。夏は、お昼までに食べる」

 

「傷むから?」

 

「うん。ユズはお弁当持ってくるけど、だいたいリュックの底でつぶれてる。マオは、いつも同じ携帯食」

 

「ナツメは?」

 

「予定表に、食べる時間まで書いてある。休憩所で、十分」

 

「十分で食べるの」

 

「立ったまま食べることもある」

 

 アイカは食べ終えたおにぎりの包装まできれいに三つ折りにする。迷宮の休憩所で急いで食べたあとも、きっと同じようにたたんでいるのだろう。

 

 膝の上で、アイカが指を組む。

 

「ちゃんと座って食べるのは、帰ってから。管理棟の串カツ」

 

 十層から帰ってきた日に、この作業台を囲んでみんなで食べた串カツだ。迷宮の中では急いで冷たい物を食べて、みんなで囲んで食べるのは地上へ帰ってからになる。

 

 アイカは指先で一度だけ、重箱の縁の擦れたところをなぞった。

 

「それ、売るの?」

 

「これは売らない。ばあちゃんのだから。新しいのを作る」

 

「新しいのは、売るの?」

 

「うん」

 

「…ふうん」

 

 アイカは鞄を肩に掛け直して、帰る、とだけ言った。勝手口の土間には、傘から落ちたしずくの跡が小さく丸く残っていた。

 

 その晩、方眼紙に重箱の断面を描いた。作業台の端には、ばあちゃんの重箱を置いたままにしてある。

 

 内側には何もしない。底も壁も平らな朱漆(しゅうるし)だけにする。食べ物が触れるところに溝を彫れば、洗っても汚れや水が残ってしまう。ばあちゃんの重箱の隅が丸かったのも、きっとそのためだ。断面の図の隅もコンパスで丸く描き直した。

 

 回路を入れる前に、まず重箱として使いやすい物にしなければならない。ばあちゃんの重箱は、魔石が一つもなくてもそれができている。

 

 回路は、外側だけに置く。

 

 保存の術式は、量産の保存箱にも使われている既存のものだ。箱の中の物の傷みを遅らせる。量産品はたいてい金物で内側にまで線が刻んであるのだと、夕方じいちゃんが教えてくれた。

 

「洗うのに難儀するって、お客さんがこぼしていたよ。それから、傷んだ物は箱に入れても戻らないからね。詰める前が肝心だ」

 

 方眼紙の隅に、じいちゃんの言ったことを書き留める。傷みを遅らせるだけで、戻すわけではない。働くのは迷宮の中だけで、地上で詰めてから入口までのあいだはただの塗りの箱だ。深い層まで持つのかどうかは、作ってから測るしかない。

 

 難しいのは、重箱が三つの段と蓋に分かれていることだ。重ねたときには、全体を一つの箱として包まなければならない。腕輪の留め金や脚甲の蝶番と同じで、段の継ぎ目で線が切れればそれまでになる。

 

 それに外側の面は、思っていたより狭かった。エーデルワイスでは表を花だけにして、回路を全部裏へ回した。重箱には裏がない。絵と回路を別々に置けば、どちらかが窮屈になる。

 

 それなら、外側の絵をそのまま回路にすればいい。

 

 黒い面に光る物で絵を描く。黒い漆に貝をはめ込む螺鈿(らでん)なら、迷宮の薄暗い休憩所でも小さな明かりを拾って光るはずだ。ただ、貝が魔力を通すのかどうかは分からない。線を通す役目は、別の物に任せることになるかもしれない。何をどう描くのかも、まだ決めていない。そもそも螺鈿はやったことがないし、木地も漆も本格的に扱うのは初めてになる。

 

 木地は白木の重箱を問屋に頼むことにした。じいちゃんが、うちの注文に混ぜておくよと言ってくれた。18センチ角の三段なら、四人で囲める。料理を詰めれば、三段ぶんの重さにもなる。リュックに収まる大きさにはしたい。ほかの荷物に押されてもつぶれず、持ち運ぶときに邪魔にならない形を考えなければならない。練習用のアワビの貝も一緒に頼んでもらった。貝を頼むのは、じいちゃんも初めてらしい。注文の紙にアワビと書いてから首をひねって、薄いのと厚いのを両方と書き足していた。

 

 漆のことを頼むと、じいちゃんは老眼鏡の上から僕を見た。

 

「武具の漆なら、昔さんざんやったよ」

 

 木地が届いたのは、木曜日の夕方だった。

 

 箱を開けた途端、檜の白木の匂いが作業場に広がる。三つの段を重ねてみると、それぞれの裏に鉛筆で一から三までの数字が小さく書いてあった。この順でしか、きっちりとは噛み合わない。二の段だけが固い。

 

「漆を塗れば、そのぶん厚くなるからね。合わせ目は、今は少しゆるいくらいでいいんだよ」

 

 言われたとおり、二の段の合わせ目は塗る漆の厚みのぶんだけ削っておいた。

 

 じいちゃんは物置の奥から、古い戸棚を引き出してきた。棚板の裏に濡らした布を張って、中を湿らせておく戸棚だ。漆風呂(うるしぶろ)というのだと教わった。

 

「漆は湿気で乾くんだよ」

 

 じいちゃんは戸棚の中に温湿度計を掛けた。梅雨のうちは放っておいても湿るけれど、湿りすぎても困るのだという。急に乾かすと表面だけが先に固まって縮み、朱は色が沈んで黒っぽくなる。じいちゃんは朝と晩に一度ずつ戸棚を開けて、布の濡れ具合と針の位置を確かめるようになった。

 

 ほこりも大敵だ。塗る前には作業場の床に水を打って、舞い上がらないようにする。窓の外の雨音を聞きながら、濡れた床の匂いの中で刷毛を持つ。刷毛は毛先で塗るのではなく、腹で漆を置いていくのだと教わった。

 

 最初の仕事は、木地を固めることだった。

 

 じいちゃんは武具に使う漆とは別に、食器に塗ってもいい漆を問屋に頼んでくれていた。

 

 薄めた生漆(きうるし)を刷毛で白木に吸わせる。生漆はミルクを落とした紅茶のような色で、檜の匂いの上に酸っぱいような匂いが重なる。

 

「手袋と、袖口だよ」

 

 じいちゃんは僕の腕に袖カバーをはめさせて、手首のところをテープでぐるりと留めた。

 

 内側の隅には刻苧(こくそ)を詰める。漆に木の粉と細かい麻の繊維を練り込んだもので、へらで隅へ押し込んで丸くならしていく。角の立っていないばあちゃんの重箱の隅を思い出しながら、底と壁の境目を一本ずつ埋めていった。縁には麻布を漆で貼りつけて、角が欠けないようにする。

 

 それから下地を塗っては乾かし、乾いたら研ぐ。研ぐたびに白っぽい粉が水に溶けて、指の溝に入り込む。それを何度もくり返した。

 

 三回目の下地を塗った翌朝は、右の手首がかゆくて目が覚めた。

 

 見ると、手袋の縁と袖カバーのあいだに、指一本ぶんの赤い帯ができている。そういえばゆうべ、はがれかけたテープを押さえ直さないまま塗り続けた。気づいたのは、今になってからだ。

 

「漆は、ほんの少し触れただけでもかぶれるからね」

 

 じいちゃんは僕の手首を見て、薬箱から軟膏を出してくれた。

 

「じいちゃんは、もうかぶれないの?」

 

「慣れても、かぶれるときはかぶれるよ」

 

 そう言って、自分の袖口を指で叩いてみせる。思い返すと、どの日もじいちゃんの袖口は手首のところできっちり留まっていた。

 

 朱は、じいちゃんがガラス板の上で練ってくれた。粉の袋の札を老眼鏡越しに確かめて、食器に使える朱だけを出す。そこへ透き漆を落として、へらで何度も押し広げる。粉っぽい橙色が、へらの往復するたびに深い朱へ沈んでいった。

 

 上塗りは内側を朱に、外側を黒にした。刷毛目が残らないように、縦に塗ったら横へ、最後にもう一度縦へ刷毛を通す。漆風呂の中で、重箱は朱の内側を上にして竹の台に並んだ。

 

 朱を塗った晩は、じいちゃんが漆風呂の布をいつもより固く絞った。朱は湿らせすぎると沈むから、時間をかけて乾かすのだという。

 

 二日後に戸棚を開けると、朱はたしかに乾いていた。けれど思っていたよりずっと暗い。濁った煉瓦のような色で、ばあちゃんの重箱の隣には並べたくない。

 

「朱は、すぐには上がってこないよ」

 

 じいちゃんは重箱を明かりにかざした。

 

「漆が落ち着いていくのに合わせて、だんだんだね」

 

 その日から毎朝、学校へ行く前に漆風呂をのぞいた。朱は昨日と並べても見分けがつかないほどゆっくりと、濁りを薄くしていく。ばあちゃんの重箱の朱は、何十年もかけてあの色になったのだと思う。

 

 漆の匂いは、まだ作業場に残っている。

 

「匂いが抜けたら、もう食べ物を入れられる?」

 

「匂いが抜けても、中まで固まったとは限らないよ。食器にするなら、養生はたっぷり取らないとね」

 

 そう言って漆風呂の戸を閉め、温湿度計の針をもう一度確かめる。

 

 朱が落ち着くのを待つあいだに、螺鈿の練習を始めた。

 

 問屋から届いたアワビの貝は、厚いものと薄いものが一袋ずつだ。厚い貝は爪くらいの厚みがあって、光にかざすと青と緑が層になってゆらめく。薄い貝は紙より薄く、手のひらに載せると息だけで動いた。

 

 最初は、貝を切ることさえできなかった。

 

 厚い貝に糸鋸を入れると、三往復もしないうちにぱきりと割れる。割れ目は貝の層に沿って斜めに走っていた。エーデルワイスの牙と同じだ。層に沿う向きには弱く、横切る向きには強い。

 

 刃を入れる向きを変えて、鋸を寝かせ、力を抜いて引く。それでも二枚に一枚は割れた。粉になった貝からは、かすかに磯の匂いがする。貝の粉は吸わないほうがいいと言われて、マスクをして続けた。割れた縁は思ったより鋭く、指先には細い傷がいくつもできた。

 

 薄い貝は、もっと厄介だった。小刀を当てると、切れる前に紙のように反り返って角から裂けていく。くしゃみをこらえているあいだに、一枚どこかへ飛んでいった。

 

 薄紙に挟んで、上から小さな型で抜くことにした。丸や菱形のような単純な形なら、大きさのそろった欠片がどうにか十枚ほど残る。

 

 切れた貝は、板にはめ込んでいく。

 

 黒漆を塗った端材の板に、厚い貝の丸と同じ大きさの浅い穴を彫る。漆で貝を据えて、漆風呂で一晩寝かせた。

 

 次の晩、作業台に板を置くと、スイ様が板の上を歩いて渡り始めた。

 

 沓の先が、黒い面の上をすべるように進んでいく。三枚目の貝のところで、その沓が止まった。

 

「ここで、つまずきました」

 

 指でなぞると、貝の縁がわずかに黒い面から浮いている。髪の毛一本ぶんもない段なのに、指の腹ははっきりそれを拾った。隣の貝は反対に、黒い面より沈んでいる。

 

 ノギスで、貝の厚みを一枚ずつ測った。同じ袋から出した貝でも、厚みは一枚ごとにばらばらだ。

 

 貝ごとに、穴の深さを合わせることにした。彫刻刀で底を削っては、ノギスの先で深さを確かめる。貝を据えたら上から黒漆を塗って、貝ごと埋めてしまう。それを炭で研ぎ出していく。

 

 研いでいくと、黒の下から白っぽい貝の面がゆっくり浮かんでくる。角度を変えると、その白に青い光が一筋走った。研ぎすぎれば貝は削れて消えてしまうし、足りなければ黒い膜が残る。水を含ませた炭を何度も止めて、そのたびに指で段を確かめた。

 

 脚甲の半円を合わせたときも、こうして指で継ぎ目を探した。目で見るより先に、指のほうが段を見つける。

 

 五日目の晩、菱形の貝を一枚研ぎ上げた。

 

 目を閉じて、指先で板の上をなぞる。黒い漆から貝へ、貝からまた黒い漆へ。どこからが貝なのか、指では見つけられない。

 

 スイ様が、もう一度板の上を歩いていく。沓は、今度はどこでも止まらなかった。

 

 土曜日の朝、漆風呂の戸を開けて重箱を作業台へ出した。檜と漆の匂いはまだ残っているけれど、塗り始めた日に比べればだいぶ薄い。

 

 重箱の朱は、乾いた晩の濁りが薄紙を一枚ずつはがすように抜けてきている。隣に置いたばあちゃんの重箱の朱は、同じ光を受けても深い色のまま動かない。そこまでは、まだ遠い。それでも窓から入る梅雨の晴れ間の光の下で、新しい朱は昨日よりわずかに明るく見えた。

 

 外側の黒には、まだ何も置いていない。四つの側面と蓋が、作業場の窓の格子をそのまま映している。指を近づけると、黒の奥にもう一本の指が浮かんだ。

 

 作業台の端では、練習板の隅の小さな菱形が一枚だけ、黒と同じ高さで光を拾っていた。


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