第十一話 スペードのK
第十一話 スペードのK
ドォォオン。
ばるむのゴリラが地面を殴り、地面を揺らす。
「よっと!ははっ!ゴリラはもう見切ったぜ!!振りかざすタイミングを見れば簡単に避けれるぜ!」
後ろにジャンプで衝撃を避け、走り出す。
「今の手持ちは五組!順調だ!この後狼来るぞ!」
ちらりと後ろを見ると、くしゃりと狼の顔になるばるむが立っていた。
「ほらきた!この後突進だな?」
ばるむは低姿勢へと構え、地面を蹴り突進してきた。
「ほいっと。」
タイミングを見切り、身体をひねり地面をくるりと回った。
「ほらな?……よーし、いけるぞ!」
ひとりでに自慢をし、鼓舞する。
「ただ、問題は猿だ!奪われて上に上がられると追えねぇ!」
レンは建物の隙間に入り、通り抜ける。
「……奪われなければいいんじゃね?取ったらすぐに引く、もしくは背中でガードする!直接攻撃はしてこないってことに気付いたからな!!」
「えーと、次はどこにトランプが?」
レンは周りを見渡す。
すると建物の四階の窓に一枚張り付いてた。
「……おっ、猿が来そうなとこだ……いざ実践だな!」
レンは建物に向かい駆け出す。
その瞬間、横から狼が衝突してきた。
「うおおおお!!ぐべぇっ」
吹き飛ばされ、地面を転がる。
「ゆだん……たいてき……」
油断したことを認め、地面を弾くように立ち上がる。
「もう油断なんてしねぇ!!負けるかぁああ!!」
トランプの元へと駆ける。
「うおおおおおお!!!」
階段を駆け上がり四階へ。
ベランダ伝いにトランプのある部屋へと進む。
「取った!!んで背中ガード!!」
猿がすぐそこまで来ていた――が、
背中でガードしたため、猿は取れずに上に登った。
「おっしゃ!なんのカードだ?ハートのK……あれ?スペードの奴どっかで見たような……お、覚えてねぇ。なんか、印とか付けとかんと覚えれねぇ……」
レンは頭を掻き、思い出そうとしていた。
「……印……印……炎印の〜焼肉炎〜。あ、俺炎使えんじゃん。焦がしてマークにしよう。」
思わず口に出した、昔よく流れていた焼肉屋のCMソングだった。
印をつける方法を見つけた。
レンはハートのKの裏に、焦げ目をつけた。
そして、建物から次のトランプを探す。
「狼も、ゴリラも、猿も対処法がわかった。でも、避けるだけでいいのか?」
レンは抱いていた疑問を呟いた。
「反撃とかするのも、修行の一環じゃないか?……ばるむ先生ならちゃんと受け止めてくれそうだし……やってみるか!」
レンは炎を手に集める。
一瞬だけ炎剣を作り、握り心地を確かめた。
「おし!トランプも見つけたし行くぜ!!」
レンは階段へ向かった。
「……そういや、炎虎って爆発とか火炎球みたいなの出てたな。俺も出来んじゃね?」
レンはふと、階段をおりる前に、手すりから外を見た。
「……こえぇ。けど、やらなくてどうする俺!今がチャンスだろ!!」
自分を鼓舞し、手すりに登った。
そして飛び降りた。
「行くぜぇ!!炎爆風!!」
地面に手を向け能力名を唱えた。
――が、何も起こらない。
「ちょちょ!!あ、守りたい!!自分を守れぇえ!!炎爆風!!!」
その瞬間。
ドコォォン。
爆風が地面を叩いた。
その衝撃に押し上げられ、レンの落下速度が一気に落ちる。
「おわわわ……で、出た!!!」
レンは尻もちを着く形で着地した。
「……火炎球!!」
立ち上がると、すかさず目の前に「火炎球」と唱え、発動する。
ポフッ。
威力もスピードも大きさも弱いが、確かに出た。
「うおおぉ!!まぁまぁ、通過点!!これから磨けば光る原石さ!!」
鼓舞も忘れずに、自信に繋げた。
「よし、次は反撃だ!どっからどう来る!?」
パシャッ。
シャッター音がなった。
「えっ?どこどこ???…………いない……ならトランプ取りに行くぞ!!」
周りを見渡し、いないとわかると瞬時にトランプの収集へ向かった。
トランプを探しながら走っていると、
ドタドタっと上から何かが走ってくる足音が聞こえた。
「ゴリラか!!……来い!!反撃してやる!」
音で動物を判断し、レンは上を見上げた。
するとゴリラが建物の屋上から降ってきた。
「行くぜ!火炎球!!」
ボンッと飛び出たのは、先程より大きな火炎球だった。
火炎球は空中にいるゴリラに直撃した。
ゴリラは咄嗟に腕をクロスし縮こまったが、バランスを崩し地面へと落ち転がる。
バキッと、何かが割れる音がした。
「おっしゃ!行けたぜ!!次だ次!!」
レンはその音に気付かず、次のトランプへと走り出す。
ゆっくりと立ち上がったばるむは変身を解く。
ポケットからデジカメを取り出し、割れた部分を優しく撫でた。
さっきまで立っていたしっぽは、真っ直ぐに落ちている。
そしてアルバムを取りだし
新たな一枚の写真を取り出した。
建物の上から見ているミオは、その異変に気付く。
「……レン、気を付けて。」
小さく、呟いた。
一方、レンはトランプに印をつけながら順調に集めていた。
「なんか、トランプ順調に集まるけども。邪魔が来ない……なんかおかしい……。」
レンの手元には九組が揃っていた。
「あと三組ぐらいは場所はわかった、だからあと一組さえ見つけてしまえば!」
建物の角から、ちらりと広場を覗く。
ばるむが人の姿で何かを持ちながら立っている。
「……どうして邪魔しに来ない?もう集め終わっちゃうよ?……いや、油断するな俺!終わりがけを狙っているのかもしれん!!」
レンは調子に乗るのを抑え、またトランプ集めに戻った。
そして十二組が集まった。
「あと一組!!!」
レンが窓から飛び降りた。
その瞬間。
冷たい空気がレンを包む。
殺される。
背中を冷や汗が流れた。
咄嗟に炎剣を作ると、隣の建物から狼が飛んできた。
今度は突進では無く、牙を剥き出して噛み付いた。
ガキィィン。
「ぐっ!!重てぇ!!受け止めれねぇ!!」
炎剣が噛み砕かれる勢いで、ギチギチと音が鳴っている。
「くっそぉ!」
咄嗟にばるむの体を蹴り、地面スレスレで狼から逃れた。
「なんだあれ、さっきまでとは違うぞ!?」
急いで体を起こし、ばるむを見る。
先程までとは打って変わって、同じ狼だが雰囲気が違う、強い圧を感じていた。
「……強い。まるで狼のボスのような……」
ばるむは立ち上がった。
風でコートがゆらりと揺れた。
胸ポケットからトランプを取り出し、レンに見せる。
「……スペードのK……キング?……もしかして、その狼もキングってこと?」
「…………」
ばるむはコクンと頷き、メモ帳から一枚の紙を抜き取る。
[最後の修行、奪い取れ]
「……これが合えば十三組目だからな!死ぬ気で取らせてもらうぜ!!」
レンは自信満々と炎剣を出す。
ばるむは紙をしまうと、ゆっくりと姿勢を低くした。
その瞬間。
空気が変わった。
地面に落ちていた砂が、ふわりと震える。
「……来る!」
次の瞬間、ばるむの姿が消えた。
「っ!?」
レンの視界の横を、黒い影が通り抜ける。
ドゴォッ!!
背後の壁が爪で抉られ、コンクリートの破片が飛び散った。
「うわっぶねぇ!!」
今までの狼とは段違いの速さだった。
避けたつもりのレンの頬に、一本の赤い線が走る。
レンは思わず息を飲んだ。
「速ぇ……!」
ばるむは地面を蹴り、再び低く構える。
次の瞬間。
ドンッ!!
突進してきた。
空気ごと押し潰すような衝撃だった。
「くっ!!」
レンは炎剣を横に構え、受け止める。
だが、――ギギギギッ!!
剣ごと押し込まれ、足が地面を滑る。
「重っ……!!」
ばるむの牙が炎剣に食い込み、火花が散る。
その圧力は、さっきまでの狼とは比べものにならない。
「このままじゃ……!」
レンは咄嗟に体をひねった。
ばるむの顎を蹴り上げ、横へと転がる。
ドォン!!
ばるむが突っ込んだ先の壁が砕けた。
レンは息を荒くした。
「はは……これがキングってやつか……!」
ばるむはゆっくり振り返る。
獣の圧が全身から溢れている。
そして再び、地面を蹴った。
「来い!!」
レンは構えた。
狼が跳ぶ。
鋭い爪が振り下ろされる。
ザシュッ!!
レンは炎剣で受けるが、衝撃で膝が沈んだ。
「ぐっ……!」
さらにばるむの尾が横から薙ぎ払う。
ドンッ!!
「うおおお!?」
レンは吹き飛ばされ、地面を転がる。
「くっそぉ……」
砂埃の中、ばるむがゆっくり近付いてくる。
レンは歯を食いしばった。
「……速い、重い、鋭い……」
そして笑った。
「でも!」
レンは立ち上がる。
「ばるむ先生の動き、ちゃんと見てきたんだよ!!」
レンは地面を蹴る。
今までとは違う足運び。
滑るように、低く。
ばるむも突進する。
レンは真正面に飛び込んだ。
直前で体を沈め、狼の腹の下を滑り抜ける。
ばるむは目線を外さぬように振り返る。
だが、レンはもう動いていた。
地面を蹴り、壁を踏み、ばるむの横へ。
狼の爪が振り下ろされる。
レンは半歩だけずらす。
風が頬をかすめた。
「今だ!」
レンはばるむの懐に潜り込む。
胸ポケット。
スペードのキング。
手を伸ばした。
ばるむの牙が迫る。
「取る!!」
レンは体をひねり、ポケットからカードを引き抜いた。
そのまま後ろへ飛び退く。
ばるむの牙が空を噛んだ。
レンは着地し、カードを掲げた。
「……スペードのキング!」
炎剣が消える。
レンは笑った。
「これで……十三組だ!!」
ばるむは動きを止めた。
そして、変身を解く。
ゆっくりと頷き、ぱちぱちと拍手をした。
「やったぜ!!もしかして修行終了!?」
レンはガッツポーズをした。
[合格]
ばるむは合格と書かれたメモ帳をレンに見せる。
「いよっしゃああああああああ!!!合格だーーーーっ!!!!」
両手を上にあげ、天を仰ぐ。
トントンと階段を駆け下りる足音が聞こえる。
「レン!!すごい!!大成長だよ!!」
ミオはレンに駆け寄った。
レンはミオの手を握りブンブンと振った。
「ありがとうミオ!俺やったよ!!動きがわかったよ!」
パシャ。
シャッター音が静かに鳴り響いた。
ばるむは一眼レフカメラで、ミオとレンを撮っていた。
「うわっ、ちゃんとしたカメラだ!えっ、なに、写真撮るの好きなの?」
レンは興奮気味にばるむに話しかける。
ばるむはメモ帳にカリカリと書く。
[僕は写真家。名前はばるむ。]
「えっ!?!?写真家!?!?まじ!?……って、写真家って何?何を撮るの?」
とんちんかんな質問に、ミオはくすりと笑う。
「えっ、なんで笑って……」
カタカタと、ばるむの紙袋が揺れる。
「……あ、笑ったなー!」
レンが反応すると、すぐにシュンっと動かなくなった。
カリカリとまたメモ帳に書き出す。
[風景や動物とか個展で出せるものを撮っているよ]
「個展!?個展とかやってんの!?」
レンは目を丸くした。
「ばるむさんって有名なのよ?知らなかった?」
「えっ!?!?全っっっ然知らなかった!!!だって紙袋被ってたら気付くよ!?」
[顔出しはしてないからね]
「あ、そーゆう。…………えっ、待って?……異能力使ってるってことは、悪の組織ってこと?」
レンはふと気になり、顎に手を当てた。
「…………」
ミオとばるむは何も言葉を発さなかった。
「えっ……」
レンは答えが分からず、口が開いて閉まらなかった。
カリカリと、メモ帳に書く音が団地に響いた。
[レンくんの言う通り、エデン次力異能に所属してる]
「……わぁお。まじ……?」
本当に口が塞がらなくなるレン。
「えっ、じゃあミオから能力貰ったってこと?」
[それは違うよ。僕は後天覚醒で異能を手に入れたよ。]
「後天……覚醒?」
レンの頭の上に「?」が浮かんでいた。
「まぁ、詳しいことは明日でも話してあげるよ。今は日付も回ったし、明日も大学あるから。ね?」
ミオはレンの肩に手を乗せた。
「えっ、今何時?」
ばるむは腕時計をレンに見せる。
「に、二時!?まじで!?帰らないとじゃん!!!」
レンの声が団地に響いた。
「ちょっと……声大きいよ。」
ミオに突っ込まれた。
[明日また話そう。僕はいつでも近くにいるから、呼んでいいよ]
「まじ?え、じゃあLINE交換しよ?」
素早い発想に、ばるむは一瞬驚いたが、
こくりと頷き、スマホを出しLINEを交換した。
「サンキュ!ばるむ先生!今日はありがとうございました!!」
レンはぺこりとお辞儀をする。
[ばるむでいい。また修行したくなったら教えて。]
「じゃあ、ばるむ!了解!いつでも話しかける!じゃあ、また明日!ミオ帰ろ!」
「ばるむさん、ありがとうございます。おやすみなさい。」
ぺこりとレンに着いていくミオ。
二人が団地を出て、小さなシルエットになった時。
「……………………おや……すみ。」
ばるむはとても小さく、呟いた。
古くボロボロなアルバムをカバンから出すと、さっき撮った写真数枚を、新しいページに追加した。
レン達の前で出されたアルバムとは違うアルバムだった。
新しい写真に映る人をなぞるように手を添える。
ミオとレン、レンの動き。
どれも大切な写真だった。
[面白い子]
写真の横にメモを残した。
アルバムをしまうと、割れたデジカメを手に取る。
割れた部分をなぞると、紙袋がカサっと揺れる。
紙袋の中で微かに口角が上がっていた。
団地を出て夜道を歩く二人。
「なぁミオ」
「なに?」
「ばるむさ」
「うん」
「悪の組織の人に見えなかったんだけど」
ミオは少し笑う。
「でしょ?」
「え、じゃあ違うの?」
「それも明日話す」
「えー!気になるって!」
ミオは前を向いた。
「エデンはね」
「君が思ってるほど単純な組織じゃないよ」
そう言ったミオの目は、
真っ直ぐ前を向いているはずなのに。
どこか遠い場所を見ているように、レンは感じられた。




