第十話 簡単!神経衰弱!
第十話 簡単!神経衰弱!
翌朝、三時。
レンは目を覚ました。
「……えっ」
まだ外は真っ暗だった。
「まだ夜中じゃん……」
レンは枕に顔を埋める。
「寝よ。」
再び眠りについた。
――そして。
11時56分。
「デジャブ!?!?」
(※詳しくは第六話参照)
レンは布団を吹き飛ばして飛び起きた。
――高波大学――体育館への廊下――
午後になり、サークルの時間となった。
「はぁーー、なんとか三限には間に合ってよかったー。一限逃したの悔しいけど……まぁいいかぁ……」
とぼとぼと歩いて体育館へ向かっていた。
キャアアア!
「……ッ!?またなにか来たのか!?」
体育館から悲鳴……いや、
「……ん?なんか、凄い楽しそうな……」
レンが体育館を覗くと、誰かの練習を囲って黄色い歓声が飛び交っていた。
体育館中央で、防具姿の二人が打ち合っていた。
レンは目を細める。
「……誰だ?」
動きが綺麗だった。
速いわけじゃない、力強いわけでもない。
だが、無駄がない。
レンは中央へと急いだ。
「……ん?レン、五限か?」
見やすい場所へと移動をすると、創一がいた。
「そうっす、一、二限逃しちゃったんで。」
頭を掻きながら苦笑いをした。
「あぁ。」
「これ誰と誰すか?」
「駿平と優等生だ。」
「優等生……?あ、ミオ?…………ミオ!?!?」
淡々と話す創一とは反対に、レンは駿平の相手がミオだとということに驚きを隠せなかった。
「――めーーんッ!!」
ミオの声が体育館に響く。
ミオが踏み込み、竹刀を振り下ろす。
鋭い一撃だった。
だが――
「……ふふっ」
駿平の体がわずかに動いた。
次の瞬間。
「――メンッ!!」
パァンッ!!
乾いた音が体育館に響く。
ミオの面が、真っ直ぐ打ち抜かれていた。
「一本!」
審判役の声が体育館に響く。
ミオは一瞬だけ固まり、やがて竹刀を下ろした。
「……ありがとうございました」
二人は向き合い、静かに礼をする。
「うわ……」
レンは思わず呟いた。
さっきまで互角に見えた。
だが、一本は一瞬だった。
「さすが駿平だな」
創一がぽつりと呟く。
「やぁ、レン。やっと来たんだね。」
駿平がレンに気付き話しかけてきた。
「うっす!さすが駿平先輩っすね!!最強です!!」
レンは目を輝かせて駿平に話しかける。
「最強って、……僕はまだまだだよ。僕が最強だと思う目指すべき人が、こんなに近くにいるからね。まだまだとしか言えないよ。」
駿平は肩をすくめ、少し笑った。
「へぇ、近くって……誰すか?創一先輩?」
「駿平より俺の方が弱いだろ。」
「弱くないよ!創一だって全国出てるだろ?自信持ってよ、創一先輩」
自己否定をした創一に慌ててフォローする。
「ここのサークルの人って、ほとんど出てますよね。駿平先輩も全国三位ですし。んで、誰すか?」
「皆練習頑張ってるからね。……まぁ、君ならわかってるんじゃないか?伝説の全国大会無敗記録の人だもの。」
「あぁ……」
レンは思い当たる節があり、苦笑いをした。
「暁 剣護。お前の父さんだな。」
創一が口を開いた。
「レンのお父様って、そんなに凄い人なの?」
女子達との話を終えたミオが、話を聞き合流した。
「あー、まぁ、剣道一筋だったよ。その割には俺は今更始めたけどな!」
ガハハと笑うレンと、苦笑するミオ。
「ずっと気になってたけど、なんでやらなかったの?」
「え、いや、特に理由なく……反抗してたからすかね」
駿平からの質問に、レンは頭を掻きながら視線を逸らした。
「そっか、反抗期か」
駿平は爽やかな笑顔だった。
「そんな笑顔になられると恥ずかしっ」
レンは顔を手で覆った。
「皆、集合だ。先生が来たぞ。」
四年生のリーダーが皆に声をかけた。
「……レン、今日22時、開けておいてね。」
ミオがこそっと、レンに耳打ちする。
「えっ、なんで?」
「ちょっと、修行するよ」
「修行……?いいけど……」
レンも小さく答えた。
――――白又団地
約束の時間となり、レンたちは白又団地に来ていた。
「それでー、何をするのー?ミオ〜」
レンは修行としか知らされずに団地へと来ていた。
「……多分、もうすぐ来ると思うよ。」
「ふああぁ、眠てぇや……」
ミオは真剣な表情で待っていた。
レンは目を擦りながらあくびをしていた。
静寂からトントンと、歩く音が聞こえてくる。
「来たよ、レン。今日教えてくれる先生だよ。」
「ふぇ?先生?」
レンは足音のする方を見る。
その先には紙袋を被り分厚いコートを着ており、
肩からは大きなカバンをぶら下げている人が歩いていた。
「ん?なんか、紙袋被ってるけど?え?なに?なんかしっぽも生えてる!?えっ!?どゆこと!?」
「レン。落ち着いて。」
見たことの無い人を見てレンは興奮していた、
ミオは落ち着かせるように手をレンの肩に置いた。
[遅れてゴメンネ]
紙袋の男はメモ帳にペンを走らせ、ペラりと見せた。
「筆談……?喋れないのか?」
レンが純粋な問いをすると、紙袋の男はこくんと頷いた。
「ばるむさん、今日は一日先生よろしくお願いします。」
ミオは深々と頭を下げた。
「……えっ!?先生ってあんたが!?まじで!?」
[ばるむです。よろしく]
「ばるむ……先生……!!よろしくお願いします!」
レンも勢いよく頭を下げた。
「……」
こくんと頷くばるむ、大きなカバンから大きめの紙の束を出した。
じゃじゃーんと出てきたのは、パンダとうさぎが書かれた『簡単!神経衰弱!』という紙芝居だった。
「可愛い……」
レンは突然出てきた可愛い物にくすりと笑った。
ばるむは続けた、次のページをめくった。
パンダとうさぎが喋っている。
『これから神経衰弱をやるよ!』
『ルールは簡単!同じ数字を二枚一組、合計十三組集めたらクリア!』
「十三組集めればいいだけか……凄い簡単だな。」
レンぽつりと呟く。
ばるむはさらにページをめくる。
『ただし、トランプは七十七枚の中からハートとスペードの十三組だけを集めるよ!』
『他のトランプはハズレ!罠もあるから気を付けて!』
「……ん?多くね?罠ってなに??」
ペラりと、まためくる。
『一枚引いた後、二枚目で組み合わせが違う時はトランプは戻して、新しく一枚目を探してね!』
『修行中は、どこからともなく攻撃による邪魔が入るから、トランプにだけ集中はしないようにね!』
「えっ、邪魔が入る???攻撃???」
ペラり。
『今回の目的は " 動き " を確立させること!』
最後の一枚をめくる。
『説明は以上だよ!頑張ってね!』
『死なないでね!』
「いや不穏!?可愛いのに不穏なんだけど!?」
ばるむは紙芝居をカバンの中にしまった。
そして、カバンの中からアルバムを出した。
アルバムを開くと三枚の写真を取り出し、レンに見せつけた。
「な、なんだ?」
三枚の写真には、狼、ゴリラ、猿が写っていた。
「動物?なんだ?これが罠か?」
アルバムはカバンにしまわれ、狼の写真がばるむの紙袋に貼られる。
すると紙袋がくしゃっと変形し狼の顔になった。
「な、なんだ!?狼になったぞ!?」
「ばるむさんの能力は【写像貼付】写真に写っているもの能力をコピー出来るのよ。」
ミオが教えてくれた。
「へぇ、なんか、すげぇ能力だな。」
「頑張って、レン。私上から見てるね」
ミオはニコッと笑うと団地マンションの上へと階段を上がっていった。
「おう。頑張るよ。さて、と。よろしくお願いします!ばるむ先生!!」
狼の顔袋となった、ばるむは こくんと頷く。
ばるむはレンの後ろの地面を指差した。
「ん?あ、トランプ落ちてる。……っ!さむっ!」
急に空気が冷たく変わった。
レンはばるむの方を見ると、
ばるむは手を地面に付き、しっぽがピンと上を向き、狼のように四足歩行になっていた。
「えっ、なん……ま、まさかスタートってこと?」
レンはばるむの異様さに、始まりを察していた。
ばるむは、こくんと頷いた。
「スタートとかなんとか言ってくれよー!」
レンは走ってすぐ近くにあったトランプを取る。
拾ったトランプはハートの七だった。
「取った!次だ次!!」
レンは周りを見た、団地マンションの壁に貼られてるトランプがあった。
「次はそれだー!」
次のを取ろうとした瞬間。
後ろからばるむが猛スピードで、レンにギリギリ当たらない距離で横を通り抜けた。
「うそぉぉぉ!!!」
ばるむの突進の風圧でレンは吹き飛ばされた。
「ぐぇっ」
地面をコロコロするレン。
「あ、トランプだ。」
転がった先にあった、地面に落ちているトランプを取る。
書いてあったのはクラブの七だった。
「おっしゃ!七が揃った!」
レンがガッツポーズをした瞬間。
ザシュッ
横からばるむが狼の爪でトランプを切り裂いた。
「えぇぇー!?!?合ってたじゃん!?」
レンは嘆き、ばるむを見ると、首を振っていた。
「違うのか!じゃあ次だ次!!」
レンはまた走り出すと、
パシッと持っていた、ハートの七を地面に叩きつけられる。
「えっ、――あっ!神経衰弱だもんな!取り直しだもんな!!理解したぜ!一旦次だ!!」
レンはルールを思い出した。
次々とトランプを見つけ、取っては邪魔され。
罠のトランプで爆発したり、ねっちょりとスライムがくっついたりと、様々な罠に引っかかっていた。
「取っても取っても切り裂かれるわ、吹き飛ばされるわ、持ってかれるわで、ぜーんぜん揃わねぇ!!この一組しか集まってねぇ!」
レンはマンションの一角で隠れていた。
レンがトランプ取る際、狼が爪で切り裂き、しっぽで叩き落とし。
ゴリラが地団駄で地面を揺らし、風圧で吹き飛ばし、トランプをシャッフルしている。
オマケに猿が正解のトランプを奪い取り、高く高くマンションの上に上がっていくので、階段を上がるのがとても大変だ。
「はぁー、なんか、簡単だと思ってたのに、きちぃ〜。……でも、正解のトランプは猿が持ってくだけ、間違えのトランプは狼が切り裂く。数が減ってくおかげで正解が見やすくなってるけど。」
レンはぽつりと呟く。
「……あと、ばるむ先生からの逃げる方法も考えなきゃなー。」
レンは後ろの壁に頭をコツンともたれかけた。
「今回の修行は動きを確立させるって言ってたっけ。動き、かぁ。……動きってなんだ?どうすりゃいいんだ?ばるむ先生のように俊敏に動けりゃいいのにな!……ばるむ先生のように?」
「……あの人、無駄な動きがひとつも無いよな。……よし、真似してみるか。俺もああ動けるようになりたい!」
レンは作戦を思いつき、ポンっと手を叩いた。
マンションの外へコソコソと移動し、団地の広場を
人の姿でゆっくりと歩いてるばるむを見つける。
「今は獣化を解いてるのか?すげぇ能力だな。……足音がしねぇ。夏だし結構な重装備なのに、ただ歩いてるだけでも余計な物音もしない……俺も出来るか?」
レンは後ろに向き直し、足音を立てずに歩こうとするも、不自然な動きになり、よろよろとよろけた。
「もっと、スマートに、だよ。ほい、いちに、いちに。」
掛け声とともにスっスっと進むうちに足音が目立たなくなってきた。
「おぉ、いいぞこれ……!このまま攻撃来たとして、華麗に後ろに避け……あ、こんばんわ」
ひらりと後ろを振り向いた時、ゴリラのばるむがいた。
気配が無かった、ずっと着いてきていたのか。
足音が無いメリットを感じた。
「いやぁ、動きを学びたいなぁって……はは」
レンは少し笑うとゴリラは手を振りあげ、落とした。
「やっべ!!……いや!見る!!」
レンは逃げようとしたが瞬時に切り替え、ゴリラの手が地面に当たった瞬間、軽くジャンプをした。
「おぉっ、揺れを感じない!ていうか、トランプあそこだな!!!」
ゴリラの後ろにトランプを見つける、そして横をすり抜け走った。
ドスドスと音は鳴る。
「取った!スペードの五!」

後ろからくしゃくしゃと紙袋の形が変わる音がした。
レンは後ろを見る。
「狼。……見る、見て学ぶ!」
レンは構える、狼はレンに向かって突進した。
無駄のない足運び、低姿勢、スピード。
「かっけぇなぁ!俺も出来るようになりてぇな!!」
ぶつかる寸前咄嗟に右に飛び込み回転し、衝突を回避した。
「……おっ?今の俺……」
ドタバタじゃない、無駄のない動きで回避ができた。
「おぉ……!!ばるむ先生!!俺!!できたよ!!」
ばるむの方を見ると、ばるむはレンを見てゆっくりと頷いていた。
「っしゃあ!行くぜばるむ先生!!」
レンはまた走り出した、今度はドスドスとならずに、足運びを意識した。
「走るな、滑れ。だもんな!」
剣道で言われたことを思い出していた。
「下は走り回った、だから今度は上を探す!」
レンはマンションの階段を駆け上がる。
「おっ!!あったぜ!」
階段の中段にトランプが置いてあった。
「ハートの四!惜しい!欲しいのは五だ!」
シュッと、猿に奪われた。
「あー!くそー!猿はどうすりゃいいんだーっ!」
レンは頭を抱えて叫ぶ。
マンションの上では、ミオがくすりと笑っていた。
そして、少し離れた場所で。
ばるむがレンを見ていた。
猿の紙袋の奥で、ゆっくりと――
こくん。
小さく頷いた。
レンの修行は、まだまだ続く。




