第33話
死の光星が空から解き放たれる、ほんの少し前――。
ディランは王城の物置倉庫で、一人ほこりまみれになっていた。
「たしか、このへんにあったんだけどなぁ。……あ、これかな?」
埃っぽい棚の奥で指先に触れたのは、厳重に施錠された頑丈な鉄製の箱だった。
去年、先代王の生誕祭で使われた花火の余り。
それがなぜわざわざ重々しい鉄箱に封印されていたのか。
そして去年の生誕祭の際、花火の衝撃波によって城の東塔が半壊したという事実も、ディランの脳裏からは綺麗さっぱり抜け落ちていた。
火薬の過剰な調合と、過剰に仕込まれた高純度の魔石。
いつも頼んでいた老職人が腰を痛めたため、弟子である若い見習いが張り切って仕立て上げた欠陥爆薬だとは、知る由もない。
幸いにして死者こそ出なかったものの、城壁や城下町の屋根を一部吹き飛ばすという惨劇を引き起こした危険物である。
処分にも困り果てた先代王が、二度と日の目を見ぬよう特注の鉄箱へ封印させた代物――それが、今まさに解錠されようとしていた。
壁の鍵束から該当する鍵を見つけ出し、鍵穴に差し込んで回す。
カチリと重い音がして蓋が開くと、中には砲弾ほどもある黒々とした火薬玉が数個、鎮座していた。
ディランは無邪気に口元をほころばせる。
「一度、自分で花火を打ち上げてみたかったんだよねぇ」
火薬玉を両腕に抱え込むと、彼はウキウキとした足取りで城の敷地裏手にある砲台へと向かった。
小さな王城とはいえ、最低限の防衛用として旧式の小砲台が設置されており、それが毎年、花火の発射台として流用されていた。
途中で通りかかった厨房からは、食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってくる。これからどんなご馳走にありつけるのかと、期待に胸を躍らせずにはいられない。
「でも、去年の残りだからなぁ。ちゃんと上がってくれるかな」
倉庫に眠っていたとはいえ、湿気にやられているかもしれない。
腕の中の火薬玉を見つめ、首を傾げる。
この後はガーデンパーティーの準備で、外にテーブルや椅子を並べなければならない。
本来なら花火を打ち上げるのは食事が終わった夜の予定だったが、せっかく良い雰囲気になったところで不発に終わったら格好がつかないだろう。
「心配だし、まずは一発、試し打ちしてみよっかな」
砲台へ到着すると、足元に数個の火薬玉を転がし、そのうちの一つを砲身の奥へ押し込んだ。
ポケットから擦りマッチを取り出し、シュッと火を点ける。
「ふふ、みんなびっくりするかなぁ」
楽しげに、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべるディラン。
導火線へ火を移し、火花が走り出したのを確認して砲台から離れる。
ジリジリと危険なカウントダウンが始まった――まさにその時である。
頭上遥か高空から、空を切り裂く凄まじい轟音が響き渡り、大輪の光が降り注いだのは。
「え……?」
ディランは思わず背後の砲台を振り返る。まだ発射されていない。
――じゃあ、あれは何だ?
彼が不思議そうに首をかしげた瞬間――背後の砲台が、火を噴いた。
上空から轟いた爆音など比較にならない、文字通り大地を揺るがす破砕音が解き放たれる。
バリバリバリッ! と凄絶な衝撃波が駆け抜け、城の窓ガラスが一斉に粉砕された。
砲台から放たれた凶悪な花火は、一直線に天を穿つ槍となって上昇。
そして、上空から降り注ぐ死の光星弾の群れの中央へ、真っ直ぐに突っ込んで叩きつけられた。
直後――。
世界が白に染まるほどの衝撃波が空を覆い尽くした。
城を跡形もなく蒸発させるはずだった光星弾は、下からの規格外なエネルギーによって四方八方へと弾き飛ばされ、彼方の田園地帯へ拡散・着弾して激しいクレーターを穿っていく。
あり得ない火薬調合と魔石の爆発力が生み出したディランの試射は、帝国の死の光線と衝突し、互いを凄絶に相殺しながら空中で混ざり合った。
大空を覆い尽くしたのは、天の川をひっくり返したかのような無数の星屑の嵐。
それはあまりにも壮麗で、物語のように美しい。
――まるで世界全体が星の海に浮かび上がったかのような、幻想的な光景だった。




