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「要、だいじょう、ぶそうだな」
「あ、先輩…」
片付けの時、心配したような先輩に声を掛けられた。
「てっきり落ち込んでへこんでるのかと思ってたけど大丈夫そうで良かった」
「いや、まあ、落ち込んではいましたけど」
頬を掻きながら答えると先輩は不思議なものを見るように続きを促した。
「なんか、悩むのが阿保らしく思えてきて」
「は?」
「遥稀、見てたら悩んでる自分が阿保らしく見えるというか、何ていうか、」
「まあ、気持ちは分かる。あの図太さというか、メンタルの強さは凄いよな。羨ましいっていうか、なれる気はしないけど」
「先輩から見ても、遥稀ってやっぱりすごいんですか?」
オレの質問に先輩は笑いながら答えてくれた。
「すごいなんてもんじゃないと思うけどな。さっきまでその話題で盛り上がってたし」
「は、はぁ…」
「だって、見た目は明らかにか弱いじゃん?守ってあげないとなって気分になる」
「実年齢より幼く見えるから、ですか?」
「うーん?それもあるんだけど、なんかそれだけじゃないというか、まあ、よくわからん」
先輩は笑いながらそう言った。
いや、そんな自信満々に言わんでも…。ただ、遥稀のすごさをうまく言葉にできない感覚はなんとなくわかる気がした。
「割とポヤポヤというか、ボケっとしてるじゃん?普段は」
「まあ、確かに」
ぼんやりと空を眺めている時は特にそんな感じがする。たまに、同じ人間なのかと思うこともあるけど。
「だけど、稽古に入った途端変わるんだよ。こう、鋭くなるって言うか、なんだ、近寄りがたくなるというか、そんな感じ」
背負っている空気が一瞬にして変わってしまう。それが素なのか、意識作っている物なのかはまだわからない。
そんな考えはどうでもよくなってしまってただ、否応なしに引き込まれる。
「確かに、技術はあるし、パワーはもう少し欲しいけど見せ方が上手いのもあると思う。だけど、それだけじゃないんだよな。こう、」
「目が離せなくなるんですよね。空気感に圧倒されて」
「要もよくわかってるな。そうなんだよな。たださ、本人に聞いてみてもうまく説明ができないみたいでさ、確か、スンと、した空気を意識してとか、グッと動くとか、とにかく擬音が多くて、そこも面白いけど」
先輩はまた楽しそうにけらけらと笑いながら話した。
擬音…。普段は気を付けているのか、時に教室では全く聞くことがない。全てのことが感覚レベルで研ぎ澄まされているんだ。
ただし、それは一歩間違えば異端となる。それを理解してるからボロを出さない。
「まあ、あんまり遥稀と比べすぎるなよ?」
「え?」
「緊張は誰だってするし、遥稀が凄いのは事実だけどお前も充分に伸びしろがある。今はそれでいいんじゃないか?」
「…はい」
先輩は少し真面目な顔をして、オレを少し気遣うようにそう言って、呼ばれたのか行ってしまった。
少し湿った風がオレの頬を撫でていった。湿った匂いがする。雨が降り出したのを少し見届けてオレは室内へと戻った。




