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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
95/120

5

 新学期から少し経ち、ゴールデンウイークが始まろうとしていた時、遥稀は少しだけテンションを上げていた。それと比例してオレは日に日に緊張感が増していくばかりだ。


「要?最近、元気がなくなって来てるけどどうしたの?何かあった?」

「いや、ゴールデンウィークに入ったら他の道場と合同稽古って言ってただろ?」

「え?うん。もしかして、緊張してる?」


 図星だった。だけど、それを直球で言われると何だか恥ずかしい。


「ち、ちげーよ、ただ、どういうのかと、思ってさ、ほら、オレは始めて参加するから。遥稀は参加したことがあるんだろ?どんな感じなんだ?」


 遥稀はオレの疑問に答えるように前回のことについて教えてくれた。

 グループで分けて練習して、最後にそれぞれで型を披露するという感じらしい。


「まあ、一番のメインはBBQだけど」

「そんなことまでするのかよ」

「交流会も兼ねてるから。先生たちが良い肉を買って来てくれるから美味しい肉が食える」

「なるほどな…」


 既に美味い肉を想像しているのか、かなり機嫌がいいみたいだ。


 遥稀はたまに普段の態度や言動から想像できないくらい口が悪くなる時がある。敢えて突っ込まないようにしているが。きっと、これが遥稀の素に近い部分なのだろう。

 妙に男らしい部分があるというか、荒々しいというか。時に少女というよりも少年に見えることがある。違和感がないし、遥稀自身、それが出ていることについてオレの前では気にしなくなった。


 それにしても、一人ずつ型を披露するとは…オレはきちんとできるのだろうか?


「お前は緊張しねーの?」


 肉の美味しさについて語っている遥稀にそう聞くときょとんとしていた。


「なにが?」

「人前で型を披露するの。話聞くだけでオレは緊張してやばいんだけど」

「え?緊張?なにそれ?」


 こいつ、人間じゃないのかもしれない。もしかしてバケモノか?

 緊張というものがまるで分らないという表情をしてやがる。


「ほら、上手くいかなかったらどうしよう、とか、失敗したらどうしようとか考えたり、」

「しないよ?できることしかやんないし」

「…お前、普段からそのメンタルでいけよ。そっちの方が友達増えるぞ」

「むりむりむり」


 本当に変なやつ。

 人前で何かやるより日常生活で緊張するやつの方が圧倒的に少ないだろうに。

 いや、むしろ日常で緊張しているからこそ。人前で一人だと自分の世界に入れて解放されるタイプか?それはそれでそんな人間は少ない気がする。


 何はともあれ、合同稽古に向けて普段の稽古も気合が入るようになった。

 他所の道場に負けてられないと対抗意識が日に日に強くなっていったのだろう。先生もその様子にご満悦のようで、ビシビシと厳しく指摘する。




 そして、合同稽古当日を迎えた。

 グループでの練習では、各グループ年長者とそれ以外の年齢が大まかにバランスよく配置され、年長者がリーダーとして取り仕切っている。幸いにもオレのグループのリーダーは同じ道場の先輩で少しだけ緊張が解れ、やりやすかった。

 遥稀のグループは他の道場の人が年長者で、遥稀はグループ内で一番年下らしい。隙を見せることなくにこやかに接しているのが見て取れる。


「日浦くんは、去年いなかったよね?」

「あ、オレは去年の冬くらいに入ったばかりで…」


 練習の前は自己紹介と簡単なアイスブレーキングを行うのが通例らしく、穏やかにでもお互いの腹を探るような会話が繰り広げられていく。

 かなり居心地が悪い。


「確か、向こうの小っちゃい子、えっと、癒木さん?だっけ?と同じ歳なんだよね?」

「あ、はい、」


 遥稀に向かって率直に小っちゃい子とは、この人は相当な命知らずなのかもしれない。遥稀本人が耳にしたらすぐにでも煽るか報復するだろうに。


「癒木さんは、小っちゃいのにすごいよね。日浦くんも癒木さんと同じくらいのことができるのかな?」


 煽るような視線が突き刺さる。遥稀と同レベルのものなんて、始めた年月が違い過ぎてできるはずがない。それをわかっているのにこの言い様…。

 どうやらオレは、初めて日が浅いことから下に見られているらしい。挑戦的な目、そして嘲るような視線に冷や汗が背中を伝う。

 この嫌な緊張感の中で披露することなんてオレに果たしてできるのだろうか。


「まあ、要は始めたばかりだけど真面目に練習しているからな。伸びしろだけは他の人よりもあるんだよ」


 オレがそんな風に内心不安に思っていると、先輩はオレの肩を叩いてそう言った。その言葉にざわついていた心が落ち着いていく。

 少し、相手の表情が崩れかけたが、どうにか人懐っこい笑顔を保っていた。


「要、遥稀みたいにやろうとは考えるなよ。どう足掻いたって俺たちは遥稀にはなれないからな」

「は、はい」

「お前なら大丈夫だ。いつも通り肩の力を抜いてやってこい」


 グループ練習の終わりに先輩はオレの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしながら言った。

 少し深呼吸をしてから順番に並んで座っていく。遥稀はこちらに視線を向けるとにこりと笑った。その瞳には確かにオレが見たいと望んでいた闘志が宿っていた。



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