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翌朝、オレは新しい教室の前に立っていた。
教室内からは人の気配がしない、きっと1番乗りだ。普段はこんなことでいちいちはしゃいだりはしないが、今日は特別だ。なにせ、新学期だからな。
クラスメイトの誰もまだ入ったことのない教室に1番最初に入れる優越感。その気持ちを噛みしめながらオレは教室のドアを開いた。
「え、は?」
そしてすぐにドアを閉じる。
心を落ち着けてドアの上に掲げられたクラスプレートに目をやった。オレは学年もクラスも間違えていない。そう確信し、もう一度教室のドアを開く。
窓際の椅子に座っていた少女はそこにはいなかった。さっきのは気のせいだったことんしてオレは教室に入ろうとした。
「要、おはよう」
その声にオレは盛大に肩を揺らして後ずさる。消えたと思っていた少女はどうやらオレの目の前に移動していたらしい。
そして、オレの大げさな驚きように目を見開いていた。
「お前、教室間違ってないか?」
ようやく声を絞り出せたオレは目の前の遥稀に向かって言った。遥稀はまたもや目を瞬かせて驚いている。
「教室?間違ってないよ?なんで?」
「いや、だって、ここ四年生の教室だぞ?」
「え、うん、知ってる」
それならば確実に間違っているはずだ。体格的にも言動的にもこいつが同学年とは思えない。
それに、同学年だったならば、こいつの存在は去年の時点でもう少し目立っていても良かったはずだ。普段、擬態しているからといってそのボロを出さないのはなかなかの至難の業。すぐに目立ってしまっていたはずだ。
すなわち、遥稀は教室を間違っている。
だが、間違っていることを年下に向かってきつく指摘するのは年上として心が痛むし憚れるというもの。さて、どうやって伝えるべきか。
「要?おーい、要、大丈夫?」
「遥稀、」
「うおっ、何?」
オレは出来るだけ怖がらせることのないように優しく諭すように言葉を選んで告げた。
「遥稀、間違いは誰にだってある。それを認めていかに改善していくかで今後人は成長していくとオレは思うんだ」
「え、うん、そうだね…?」
若干、引いた目で見られている気がするが気にしてはいられない。
「自分の教室が分からなくてここに迷い込んだんだろ?すぐに連れて行ってやるから学年を教えてくれないか?」
オレは優しく肩に手を置いて聞いた。妹や弟を説得する時によく使う手法だ。優しく語り掛けることで小さい子は心を開いて素直に答えてくれる。遥稀もきっとそうだろう。
そう期待込めて遥稀の顔を見えると苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
そして、舌打ちをされ、肩に置いた手を振り払われる。
「いって、暴力はダメだろ?優しくしろ」
「そっちこそ、何勝手に勘違いして、年下扱いしてるんだよ」
「いや、お前だって、三年生だろ?」
「さん、ねんせい?」
遥稀は一瞬言葉失ったようだった。
しかし、すぐに持ち直しオレのことを睨み返してきた。え、怖っ。
そして、オレの手を引いてクラス表が張られている場所まで連れて行く。キレているのか結構力強くて痛い。
「ここ、私の名前ある」
遥稀に指さされた方に目を向けるとそこには「癒木遥稀」の名前がきちんと書かれていた。その事実にオレの背中に冷や汗が伝った。
ムスッと拗ねたようにこちらを睨んでいる遥稀に向かって高速で頭を下げる。
...これは、やってしまったかもしれない...。
「…申し訳ございませんでした。今度の稽古終わりにアイスを奢らさせていただきます」
恐る恐る遥稀の表情を伺うと少しだけ笑っていた。
「よかろう」
その一言で許しが貰えたことに少し安堵する。
まさか、同級生だとは思わなかった。遥稀の怒りが本気でないにしろ、非常に心臓に悪い。今後は怒らせないように気を付けることを胸に刻み、オレたちの新学期は幕を開けた。




