23
とある週明け、蒼くんは明るい表情で登校してきた。
先週までの微妙に落ち着きのない、沈んだ表情をしていたのが嘘みたい。
「早緑くん、何かあったのかな...?」
「この前までこの世の終わりみたいな表情してたのにね」
「まいちゃん、何か知ってる?」
察しはついているけど、何故私に聞くのだろう...?
勝手に話して良いこととは思えないし...。さて、どうしたものか...。
「...なにか、良いことでもあったじゃないかな?私は何も聞いてないから詳しくはわからないかな」
嘘はついていない。
実際に本人たちから何があったのか聞いたわけではないから。私がここで推測を話すのは違うと思う。
「そっか...まいちゃんでもわからないなら仕方ないよね」
「うんうん。それにしても、本当に空気が柔らかくなってるよね...」
「なんか、この前学園祭に遊びに来てたあの子、ほら、ハルちゃん?だっけ?その子と一緒にいる時みたいな空気感というか...」
「それだ、それ...あれは、衝撃的だったよね...いつも塩対応っていうかクールな早緑くんがさ、超優しく甲斐甲斐しく接してて、」
言いたいことは分からなくもない...。
あーあ...本当に失恋しちゃったな...。
「まい、今いいか?」
「あ、圭吾先輩、どうしたの?」
教室の外から私を呼ぶ声が聞こえた。先輩のもとに私は駆け寄る。
「昼飯、良かったら一緒に食わないかって思って...先約あったか?」
「ううん、大丈夫」
「よかった。そんじゃ後でな」
先輩は私の髪を軽く撫でてから戻っていった。
教室内からの視線が突き刺さる...。今、顔が熱いから振り向きたくない...。でも、廊下にさらし続けるのも...。
「舞依ちゃんたち、ラブラブだね!」
「へ、」
「わかる!川端先輩って、本当にまいちゃんのこと大切にしてるよね!」
「うんうん、羨ましいくらい仲良くていいなぁ。何か秘訣とかあるの?」
「ひ、秘訣!?」
蒼くんの話は終わって今度は私に話題が変わった。
「もう、顔真っ赤にしちゃって、照れてる?」
「て、照れてないよ、」
「またまたーおあついですな」
「も、もう、からかわないでよっ」
ほ、本当に顔が熱い。さっきよりも体温が上がっているのが分かる。
「いやぁ、まいちゃんもこんな風に照れるんだって思ってさ、うん、親しみやすくていいと思う」
「あ...今まで、もしかして、絡みづらかった?」
「あ、いや、そうじゃなくて、その、」
気まずそうにしている...。気を遣わせていたのかな...?
「なんか、今までの舞依ちゃんって美人で、勉強も運動もできるし、本当に優しくて、なんか、完璧って感じで、私達なんかが話しかけていいのかなって思ったり...」
「優しくて明るいのは分かってるんだけど、つい、気後れしちゃってたんだよね...うちらが友達だったら逆に迷惑かけるんじゃないかって」
「そんなこと、」
「だからさ、その、安心したんだよね」
「安心...?」
よくわからなく私は続きを促した。
「ほら、学園祭の時、ハルちゃんをめぐって早緑くんとバチバチに張り合ってたじゃない?それ見て、意外と可愛いとこっていうか、私達と似たところあるんだなって思って」
「うんうん、親しみやすさがグーンて上がったんだよね」
「ねー?ハルちゃんといる時、早緑くんも舞依ちゃんもいい表情してたし、早緑くんに毒吐くところとか見てて最高だった」
そんな風に思われてたなんて、少し恥ずかしい...。
「私ね、迷子になりそうなハルちゃんに声かけて教室まで案内したんだけど、その間ずっとまいちゃんとか早緑くんの話してたんだよ。まいちゃんのいい所は、とか、早緑くんの面白い所とか、最初は噓でしょ?って思ってたんだけど、本当なんだなって思った。あの子、本当にすごいんだね」
ハルのことを褒められるのが自分のことのようにすごく嬉しい。
「うん...自覚ないけど、ハルって昔から凄いんだよね...」
「へー?たとえば?どんなとこが凄いの?」
「いっつもぼんやりしてるように見えて、いろんなこと知ってたり、あと、あの見た目でカッコいい所もあるんだよ」
「ええ?小動物みたいなのに...?」
「うん...蒼くんは見たことあるらしいんだけど、ハルって中学まで古武術を習ってて、その演武がすごくカッコよかったんだって」
「そ、想像できん...」
私のことを助けて寄り添ってくれたのは秘密にしておこう。私だけの大切な思い出だから。
「ギャップ萌えってやつ?」
「それ、ハルが良く使う言葉だ」
「え?ほんとう?私、意外と仲良くなれるかも...?」
ハルの話題でここまで盛り上がるとは思わなかった。
ううん、ハルがきっとクラスの子と達と私の距離感を縮めるきっかけをくれたんだよね...。本当にすごいな...。
「ね、舞依ちゃん、今度の休みに一緒に買い物に行かない?」
「え?」
「まいちゃんが使ってる小物とか結構可愛いなって思ってたんだよね」
「センスいいよね。ね?どうかな?」
初めて誘われた...。なんだか少しだけむず痒いけど嬉しい...。
大丈夫,...だよね...?
「うん、私で良ければ、ぜひ」
私がそう言うと彼女たちは嬉しそうに笑ってくれた。
勇気を出して応えて良かったと思う。胸の奥がドキドキして、少しだけ楽しみになった。時間と場所を決めるのが凄く楽しい。
きっと、私にとって楽しい思い出の1つになるんだって確信が持てる。そんな気持ちを悟られないように私は会話に加わった。




