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癒しの木  作者:
再び花が咲くように
87/120

22

「まい、少しは元気を取り戻せたのね」


 夕飯の時にふいにママに言われた。

 今日の夕飯は私の好物が並んでいる。最初はだからそんな風に言われたと思っていたけどどうも違うらしい。


「最近、なにか思いつめた表情をしてることが多かったでしょ?ママ、心配だったの」

「あ...」


 ママにもバレていたみたい。

 胸が苦しくて、心が痛かったこと...。気づかれないように振る舞っていたけど気づかれていた。


「本当に辛いようなら事情を聞こうと思ってたんだけど、大丈夫みたいね」

「うん...大丈夫、とは言えないけど、もう平気だよ」

 

 いろんな人の、大切な人の優しさとぬくもりに触れることができた。それだけで心は満たされている。


「そっか...それは、好きな人のおかげかしら?」

「ちょ、いきなり何言ってるのよ?」

「あら、冗談だったのに...その反応はそうなのね?何があったの?ママも知りたいなー」


 油断していた...。

 私のママはこういう人だった。しんみりした空気を返してほしい...。


「ま、舞依、か、彼氏がいるのか...?」

「あら、パパ知らなかったの?素敵な彼氏がいるのよね?」

「そ、そう、なのか...そうだよな...舞依も、高校生...彼氏くくらいいるよな...うちの娘は可愛いからな...」

「ちょっと、パパ、寂しいからって拗ねないの...」


 ママがパパの肩を叩いて慰めている。この間に私は部屋に避難しよう。


「ご、ごちそうさま」

「まい、話はあとできちんと聞くからね」

「え、」

「ママも久しぶりに恋バナがしたいわ」


 これは、本気のママの声だ...。

 私は逃れられないことを悟った...




 

 諸々の家事を片付けたらしいママは私の部屋にクッキーとハーブティーを持ってやって来た。


「今日は特別!チートデーよ。使い方あってる?」

「あってるんじゃない...?」


 パパは1人で拗ねながら晩酌しているらしい。ママはパパを慰めることが最優先なのでは?


「いいのよ。パパ、今はそっとしておいた方が良いの。それに、パパのいい所をたくさん褒めてあげたらすぐに機嫌を直すんだから」

「パパって単純だね...」

「そこが可愛いんじゃない...それに、パパだっていつもママのことを褒めてくれるのよ?ご飯が美味しいとか、髪型が素敵とか、あとは、」


 いつの間にかママは惚気話に夢中になってしまった。しまいにはパパとの出会いから初デートそして、結婚までいろんな話をノリノリでしてくれた。


「まあ、結婚の挨拶は大変だったけどね」

「え?そうなの?」

「ママのお父さん、まいからしたらおじいちゃんがね、結婚はまだ早いんじゃないか?って渋い顔をしたのよ」

「おじいちゃんが?」


 全く想像できない...。

 いつもニコニコして優しいのに...。ママのことを昔から可愛がってたって言ってたのに...。


「おばあちゃんに聞いた話なんだけどね...おじいちゃん、ものすごく拗ねたみたいでね、パパのことは信頼してたみたいなんだけど、寂しさの方が勝っちゃったみたいで...」

「ええ...?」

「パパもおじいちゃんも愛情深い所は似ているんだけどね」


 ママは笑いながら話しているけど、驚くことが多すぎる...。


「そんな2人に似ているまいも愛情深い子だってママは知っているわ」

「うん...。ママ、私ね、失恋してたみたい」

「そっか...。圭吾くん、じゃないのよね?」

「うん。先輩はそれでも良いって言ってくれた。全部楽しい思い出に上書きして、惚れ直させてみせるって」

「やっぱり素敵な子ね」

「うん...私にはもったいないくらいいい人だと思う」


 先輩の言葉を思い出すだけで心が温かくなる。幸せな気持ちになる。


「まいは、失恋を乗り越えられたのね...」

「...ううん...まだ、乗り越えられてないよ...だって、気持ちに気づいた時にはもう遅くて、どう足掻いたって私は選ばれる場所にいなかったから...気づかないふりをしてたから自業自得だよね」

「そうね...」


 ママは静かにそう言ってお茶を飲んだ。


「でも、終わってしまったことだけど気づけて良かったって思えた...2度と同じ気持ちになることはないだろうけど、それでも、綺麗なまま終われてよかったって、ほんとうに、そう、おもう、よ」

「まい...」

「なんで、気づいちゃったんだろう...気づかなかったら、こんなに苦しくなかったのに...なんで...」

「うん...」

「本当にね、きれいで、愛おしくて、眩しいくらい、輝いてて、ほんとうに、ほんとうに、す、きだった、」

「そっか...」


 ママは落ち着くまでそっと私の背中を撫でてくれた。

 ずっと言えないって言っちゃダメだって思ってた。言ってしまったら関係が壊れて、私が崩れてしまうって思ってた。だから、誰にも言わないで隠したままで言おうと思ってたのに...。


 ママにも、先輩にも本当に敵わないや...。


「まいは、後悔してる?好きになってしまったこと、気づいてしまったこと、出会ってしまったことに」

「してないよ...それは、はっきり言える」


 もしも出会っていなかったら、きっと私は今の私にはなれなかった...きっと、こんなに深く誰かを思うこともなかった、と思う。

 私の世界の彩度を上げて、世界を広げてくれたのはいつだってあの子だから。

 自由で気高くて、誰よりも純粋で、繊細で強くて脆い、不思議な子。


「苦しくて、辛くて、胸が張り裂けそうだけど、出会えて、気づけて、好きになってよかった...」

「そっか...まいは、本当に愛情深くて強い子ね...。ママはそんなまいが大好きよ」


 私は初めて押し込めていた気持ちを吐き出した。

 崩れてしまうのではと怖かったのに、それどころか、吐き出したことで胸のつかえがとれた気がする。


 ああ、そっか...。本当に私の初恋は終わってしまったんだ...。


「ママ、私、これからはちゃんとハルと友達になれるのかな?」

「当たり前じゃない。だって、貴女達はお互いを本当に大切に思って、お互いがライバルで、唯一無二の存在なんだから」

「そっか...」


 ハルの笑顔は眩しくて素敵だと思う。

 あんなふうになれたらなって思ってた...。私はあの笑顔に執着していた...。


「まい、貴女が今、好きなのは誰?声を聞いて会いたいと思うのは誰?」

「ママ、私ね、今は圭吾先輩が好きで、恋してるの...」

「それなら、大丈夫よ」


 ママは私の背中を軽く叩いて笑った。

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