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あれからしばらく、気持ちの整理は着いたけど、それでもたまに胸が締め付けられるような感覚に陥ることがある。
ハルへの気持ちはきっと長い時間をかけて単純に説明できるようなものではなくなった。それでも今はあの子の幸せを長い続けたいと思える。
ただの強がりかもしれないけど。それは心から胸を張って言える。
蒼くんもあからさまに落ち込んだりそわそわすることは減ったものの、まだ返事を貰えていないためか寂しい顔をしたりしきりにスマホを眺めていたりする。
ハルは今、自分の気持ちと向き合って必死にどうしたいのか、どうするべきなのかを考えているのだろう。結局面倒くささを抱えていたのは私だけでなくハルも蒼くんも同じだということが分かった。
不器用なのにそれをどうにか隠そうと取り繕って大切なことに気がつくのに遅くなりかける。
「蒼くん、気にしてないって、その割には通知が鳴るたびにそわそわしすぎじゃない?」
「それは、仕方ないだろ?いつ連絡が来るかわからないんだし」
蒼くんも必死に平静を取り繕っているけど、内心上手くはいかないのだろう。時々自責の念が感じられるし、なんなら、私に1発殴られようとしていたのは驚いた。
確かに言ったけど、私は人を殴りたいだなんて思っていない。そりゃあ、ハルが悲しんでいたり泣いていたらどうなるかはわからないと思うけど、蒼くんがハルのことを故意に悲しませたり傷つけたりすることはないってわかっている。
結局、私も蒼くんも周囲の人間も、ハルの不思議な魅力に惹かれ、翻弄されていたことが分かった。それを気づくのか気づかないのか、脱却するのか心地よく思うのかはその人次第。
惹かれる理由が憧れなのか、恋なのか、あるいはそれ以上の何かなのかはわからないけど。きっと、ハルはこれからもいろんな人を惹きつける。
蒼くんが手放さずにいられるかは今後本当にわからない。大丈夫だとは思うけど。
「ハルのことだしそろそろ連絡は来るわよ」
「な、なんだよ?」
「ハルの心を乱して悩ませるなんて少しムカつくと思っただけ」
「理不尽すぎんだろ...」
蒼くんはげんなりした様子で言った。
確かに、これは理不尽な八つ当たり。私が手を伸ばすことを勝手に諦めていたのに彼は簡単に、とは言わないけど手を伸ばして輪郭に触れることができた。そのことが少しだけムカつく。
「ハルがこんなに長い時間悩むなんて初めてのことなんだから。いつもは考えるよりも行動で即決するのに。はぁ、これがハルの成長なのね」
「えっと?」
「まあ、最後までせいぜい足掻いたらってこと」
蒼くんはよくわからないという表情を浮かべている。
まあ、そうだろうと思う、私だってハルの行動は予測できないし、その心は理解できていない。1番の理解者である要くんでさえよくわからない部分があると言っていたし、ハルのことを全て理解するだなんて不可能に近いのだろう。
蒼くんのスマホから通知音が鳴った。
それを確認した蒼くんの表情は緊張しつつも喜びに満ち溢れていた。
「まい、今大丈夫か?」
「あ、圭吾先輩...。」
放課後、帰る支度をしていると教室に先輩がやって来た。最近、お互い色々とあったため会話をすることは少なかった。
先輩を前に私はいつもと違う緊張をしていた。理由は分かっている。
「なんか、久しぶりに一緒に帰るな」
「うん、そうだね...」
探り探りの会話。
お互いがどう切り出すべきかを必死に見極めている中、先に言葉を発したのは先輩だった。
「まい...何かあったのか?その、いつもと様子が変だなって...元気がないっていうか...」
私は口角を上げたまま固まった。
クラスの誰も気がついていなかったのに先輩には気づかれていたらしい。
「私、先輩に謝らないといけないことがあったの...」
「うん...?ゆっくりで良いからな?」
「私ね、私の中の1番は、ハルだったみたい...」
伝わりにくい訳の分からないことを言ってしまった自覚はある。
でも、その言葉を口にしてしまったら私はきっと崩れてしまう。口にしてはいけない言葉、感情に私は気がついてしまったから。
「そんなの、とっくに知ってたよ」
「え...?」
先輩は苦虫を噛みつぶしたような表情をしていた。
「このまま、まいが気がつかなければいいのにって何度も思ってた...。だけど気づいちゃったんだな」
「うん...。なんで、気がついたの...?」
「まいをずっと見ていたらわかる...早緑も直感的に理解していたからライバル認定していたんだろうな」
「そっか...気づいていないのは本当に私だけだったんだね...。」
こんな気持ちを抱えていたままではきっとすべてが上手くいかなくなる。
ここは、私が勇気を出さないといけない...。
「圭吾先輩、あのね、」
「あ、俺は別れつもりないから」
「え、でも、」
「前にも言っただろ?俺はどんなまいでも好きだって。正直1番じゃなかったのは地味にショックだけど、それならこれからなればいいし...まいを惚れ直させれば俺の勝ちじゃん」
先輩は笑いながら言った。
「だからさ、そんなに思いつめるなよ。俺じゃ代わりにはならないと思うけどさ」
「先輩じゃ、ハルの代わりなんてなれないよ...」
「まあ、知ってるけど」
「だって、先輩は先輩で、ハルはハルだもん...全然違う人間で、私が抱く気持ちも違うもん」
そう、私はハルに幸せになってほしい。
今まで無理してきた分、抑えてきた分心の底から、ハルの幸せを追求してそうなってほしい。
「私は、ハルに幸せになってほしい。だからって、自分の幸せは諦めたくないの」
私も大概阿保だった...。
勝手に先輩の気持ちを分かった気になって余計に傷つけるところだった。
「私、すごく欲張りで我儘なの...きっと、これからも心は揺れると思うし、きれいな思い出を思い出して泣いちゃったり苦しくなるかもしれない...めんどくさいでしょ?それでも、」
「いいじゃん...良いんだよ...まいにとって大切な思い出なら...。その分俺が支えればいいだけだし...、何より、その思い出を上書きするつもりでいるから問題ないな」
ハルに似た、ハルと違う笑顔。
私に安心と、ぬくもりを与えてくれる笑顔。
やっぱり、好きだなぁ...この、先輩の笑顔が。
「先輩、頑張って私を惚れ直させてね?何度でも」
「望むところだな」
先輩は不敵に笑って私の手を取った。
手と顔が、沸騰しそうなくらい熱い...。私のそんな様子を先輩は愛おし気に見た後手を引いて歩き出した。




