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癒しの木  作者:
再び花が咲くように
84/120

19

「よし、それじゃ本題に入るからな」


 さっきの軽口のたたき合いから一転して真面目な雰囲気に戻った。

 だけど、最初の時のような暗さはない。


「まずは、遥稀が蒼のことをどう思ってるかだな。実際どうなんだよ?普通に仲いいだろ?」

「...嫌いじゃない。普通に好きだとは思う」

「え?それじゃあやっぱり両想い!?」

「由愛、落ち着け。随分と歯切れ悪いな?」

「きっと恋情ではないと思う、から。きっと友達として好きなんだろうなって」


 ハルの答えに小泉さんは複雑そうな表情をしている。

 恋情ではなく、友情の延長線上の好意か...。ハルの気持ちは私や小泉さんの目には友情や恋情すら超えた愛情に写っている。それは、恋ではないのだろうか。

 要くんはきっと気がついていない。


「それで、他の人はなんて言っていた?どうせお前のことだからいろんなやつに恋とは何か?とか訳の分からない質問をして余計にこんがらがったんだろ?」

「な、何故分かった?」

「直情的で考えることが下手な阿保が取りそうな行動だから」


 私には思いつかなかったけど...。

 それはハルと要くんの間にある特別な関係性の間でしか理解できないものだと思う。


「とりあえず、部活のメンバーに聞いてみた」

「まあ、コミュ障からしたら妥当だな...」

「さっきからディスって来るのやめてくれる?キズツク」

「嘘つくな。ダイアモンドメンタル」

「何それカッコいい」

「本当に単純な脳みそしてるよな...」

「蒼が誉め言葉は素直に受け取った方が良いって教えてくれた」


 先ほどの落ち込みようが噓みたいにドヤ顔をしている。


「はいはい、それで他の奴はなんて言ってた?」

「えっと、一緒にいると楽しくて、ドキドキする。ずっと頭の中がその人のことでいっぱいになる。行動すべてがカッコよく見える。誰かと話してると不安になる。あ、あと、その、」

「おい、なんだ?良い澱んでどうした?」

「え、えっと、す、好きな人とは、その、チューが、できるし、したくなるって、めぐちゃんが...」


 ハルは顔を赤くして言った。

 その様子にこっちまで少し恥ずかしくなる。小泉さんも顔を真っ赤にしている。要くんもどうにか表情を保っているけど耳は赤い。


「そ、それで、たくさん考えたけど、別に蒼といてもその、ドキドキは特にしないなって。一緒にいるのは楽しいけど、四六時中考えるわけでもないし、他の人と話してても別に不安にはならない」

「お、おう...真っ向から否定してくるじゃん。カッコいいとは思うのか?」

「世間一般的に見たら顔は整ってるし、紳士的だしカッコいいとは思う。でも、蒼ってカッコいいっていうより可愛いタイプじゃないの?」

「遥稀の推し可愛いやつばっかじゃん。やったな」

「推しと好きな人は別だと思う...私、女の子キャラの方が好きだし」


 蒼くんには強く生きてほしいと思う。

 というか、優しくて紳士的なのはハル限定って気がついていないのね...。


「それじゃあ、蒼とキスは出来るのか?」

「でき、ないことはない、んじゃない?ほっぺとかなら。まいにもできる」

「それはそれで問題だろ...え?まじで恋ではないのか...?」


 要くんまで頭を抱えてしまった。


「多分、遥稀ちゃんの場合世間一般からは離れて考えた方が良いんじゃないかな?」

「世間一般から、離れる...?」

「遥稀ちゃんは、早緑さんがもしも隣にいなくなったらいつも通り過ごせる?どんな気持ちになる?」

「多分、普通に過ごせると思う」

「本当に?」


 小泉さんはじっとハルの目を見つめた。その視線に促されるようにハルはしばらくの間深く考え込んだ。

 その間、誰も言葉を発さない。時が止まったみたい。


「...想像、できない」


 ぽつりとハルがつぶやいた。


「遥稀ちゃん、何が想像できないの?」

「想像は得意なはずなのに、蒼が、隣にいないの、想像できない...なんでだろ...」


 それは、きっと、ハルの中で蒼くんがいなくてはならない必要な存在になってしまったから。言わないけど。


「それじゃあ、早緑さんと一緒にいる時、どんな気持ちになるか考えてみよう?」

「楽しくて、心がポカポカして、全然、こわくない。いろんな発見とか面白いことがあって、それから、時間が過ぎるのが早いなって」


 ハルは悩まずに答えた。きっとそれがハルの答えなのだろう。


「遥稀ちゃん、恋愛ってね1つしか答えがないわけじゃないんだよ。正解なんて誰にもわからないの。いろんな答えがあって、いろんな答えに当てはまる人と当てはまらない人がいると思う。ね?清水さん」

「小泉さんの言う通りね...ハルは蒼くんとどうなりたいの?」

「どうって...?」

「もしも、蒼くんが他の子を好きになった場合とか」

「それはそれで、良いと思う。蒼が幸せなら」


 ハルのこの答えは胸を切なく締め付ける。

 誰かの幸せを願うためなら平気で自分の気持ちに蓋をする。


「でも、叶うなら、我儘かも知れないけど、もう少しだけ、隣にいれたらいいなって...」


 控えめに笑うハルの気持ちははっきりわからない。でも、その願いが我儘じゃないことをわかってほしい。

 誰かを選んでも良いって理解してほしい。


「いいんじゃね、我儘になっても」

「でも、」

「そのくらいの我儘、蒼なら受け止めてくれるだろ。言っとくけどそんくらいの覚悟ないとお前に告るとか無理だからな。いっちょ前に申し訳ないとか思うな」

「ハル、自分の気持ちと向き合えるのは自分しかいないの。たくさん迷っても悩んでも良いから考えてみて?」


 大丈夫。ハルならきっと正しいと思える答えを選べるから。


「良いか?遥稀1度しか言わないからしっかり聞いとけよ」

「きゅ、急に何?要」

「俺は、お前以上にかっこいい人間はいないと思う。どんなにバカにされても軽んじられても全部を跳ね返す力をお前は持ってるだろ?それは非常に癪だけどカッコいいと思う」

「褒めたいの褒めたくないのどっち?」

「良いから黙って聞け、阿保。周りを見返す時お前は何を考えていた?黙らせてやるとか、見返したいとか考えたことはあるか?」

「ない、かも?最後の最後は気持ちよかったけど」

「だろ?お前はそういうやつなんだよ」

「どういうやつなんだよ?」

「周りの視線とか評判とか余計なことは考えるな。ウジウジ悩んでるのはらしくないだろ。考えるのが下手なんだから感じたままにいけ。そんで、全部蒼にぶつけてこい」


 要くんはハルに拳を突き出した。

 ハルはその拳に拳を合わせた。


「清水さん、要くんが何言ってるかわかりますか?」

「正直わからないけど、ハルには通じているみたい」


 本当にこういう所羨ましいな...。

 私と小泉さんは2人のその光景を眩しいと思いながらも目を離すことができなかった。

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