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癒しの木  作者:
再び花が咲くように
83/120

18

 要くんがじっとハルの顔を見つめているとハルは観念したように言葉を選びながら話し始める。

 要くんに嘘やごまかしは通用しないのをハルはわかっている。だから、全てを正直に話すしかない。


「...蒼に、好きって、言われた」


 ハルは俯いて小さな声で言った。

 その様子には小泉さんは口を抑えて見開いて、要くんは信じられないようなものを見る目をしていた。呆気に取られていると言った方が良いのかもしれない。

 私が軽く話した事情では半信半疑だったらしい。


「マジだったのかよ...」

「早緑さん、意外と真っすぐ伝えたんだね...遥稀ちゃんは、どう、思ったの?」


 1番重要なのはそこだ。

 ハルが何をもってして答えを出せていないのか解決しないと前には進めない。


「どう、どうって、わからない...頭が、ぐちゃぐちゃになって、言葉が出なくて、それで、」


 遥稀は依然俯いたままでその時に感じたことを話してくれた。


「蒼が、すごく泣きそうな顔、してて、私が、どこか遠くに行っちゃいそうで恐いって...」


 ハルがどこかへ行ってしまいそう。

 その感覚は私にもよくわかる。存在自体が不安定で透明になれる。だからこそ、目を離した隙にどこかへと飛んで行ってしまうかもしれない。

 それが、すごく怖い。

 

 ハルの掴みのどころのない雰囲気や心の奥底が見えづらい精神面がきっと、不安を加速させている。

 本人にはその気がない。それ故にそれが非常に厄介でならない。


「好きってのがよくわからない...今まで誰のことをそんな風に見たことがないから...誰かを特別に思うことも誰かの特別になることも、すごく、こわい」


 ハルの最後の言葉はとても小さかった。

 だけど、その小ささに反して私の胸にずっしりと重たくのしかかってきた。

 わかっている。ハルが話しているのは恋愛面でのこと。友情ではない特別を作ることへの恐怖だと。

 それでも私には重たくて息苦しい。胸を細い針で刺されているみたい。


「遥稀はさ、何がそんなに恐いんだよ?ほれ、言ってみろ」

「きっと、蒼と同じ熱量を返すことは出来ないと思う」

「それで?」

「きっと、同じ気持ちにはなれない、と思う」

「他には?」

「...私以外にも、きっと素敵な人は、たくさんいて、いろんな人に好かれるのに、私を、選ぶ理由が、わからない」


 ああ、ハルは結局、ここに行きついてしまうんだ...。

 自己肯定感が低くて、自信がなくて、今にも折れてしまいそう。必死に強がっているだけで日々倒れてしまいそうなのにどうにか自分を保っている。


「いろんな人が、私のこと、変だって、おかしいって、いろいろ言ってるのも知ってる...」


 ハルの声は震えていた。声だけじゃない。膝の上でぎゅっと強く握っている手も震えている。

 ハルは気にしていないと思っていた。

でも、それはただの思い過ごしで、日々の小さな声に無数に傷をつけられていた。それを誰にも言えずに隠していた。

 少しの衝撃で零れてしまう感情をずっと抱えて隠していた。


「遥稀ちゃん...」


 今のハルの表情を見ることができない。それは小泉さんも同じみたいだ。


「なんだ、それだけのことかよ」

「ちょ、要くん!?」


 要くんだけはいたって冷静だった。

 それどころかハルを煽るような笑みを向けている。


「言っとくけどな、お前が変人でおかしいやつだなんてこっちはずっと昔から知ってるんだよ。今さら変なことで悩むな。変人」


 私と小泉さんは唖然とした。悩んでいる人に向かってここまで言う...?


「どうせ、自分が変な目で見られているから蒼も同じように見られたくないとか思ってるんだろ?本当に今更だな。蒼はな、そんな覚悟とっくにできてるからお前と一緒にいたんだろ」

「え、」

「だから、そんなことで悩む必要ないだろ。自分が変なことを理由に目を逸らそうとするな」


 要くんのその1言で顔を上げたハルの瞳には膜が張っていた。


「それから、安心しろ。お前と仲のいい奴は全員もれなく変人だ」

「みんな...もれなく...なおとか、美波も?」

「明らかにそうだろ。祭りの時の妙なテンションを思い出してみろ」

「まいとか、蒼も?」

「当たり前だな」


 私に変人の自覚はないんだけど...。

 でも、今は何も言わないでおこう。


「要は、元から変人か」

「おい、よし、元の調子に戻ったな、阿保」

「阿保じゃないし、鈍感メンヘラ吸引機」


 一連の流れに小泉さんは目を瞬いて驚いている。かくいう私も驚いている。

 ハルの本音と不安を引き出していつも通りのハルに戻してしまった。鮮やかすぎる手腕。本当の意味で蒼くんのライバルは要くんと言わざるを得ない。


「阿保だろ、阿保。ずっと近くにいたのに気持ちに気づかないとか阿保すぎ。他のことに関しては鋭い癖に気づかないとかお子ちゃまか?」

「お、お子ちゃまじゃないし。少年のような純粋な心を持っているだけだし」

「純粋な心を持っている人間はそんなこと言わねーよ」


 いつもの軽口の応酬が始まった。

 ハルもいつの間にか涙を拭って前を向いている。


「要くんだって、最近になって早緑さんが遥稀ちゃんのこと好きって気づいたばかりなのに」

「いや、それは、」

「そっちこそ鈍感じゃん。お子ちゃま」

「な、俺の場合は俺自身のことじゃないし?気づかなくてもセーフ。無問題」

「お子ちゃま鈍感メンヘラ吸引機」

「阿保に言われたくねーよ」


 私と小泉さんはいつの間にか笑っていた。


「2人とも、高校生でしょ。小学生みたいなしょうもないケンカはしないの」


 私の1言で2人はとりあえず大人しくなった。

 本当に息が合っているというか、波長が合っているだけのことはある。私にはできないことを要くんはやってのけてしまった。

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