15
買い物を終えて私達はまず、室内コースターへと向かった。
ゆっくりとカートに乗って施設内のコースを回るだけのものだけどかなり人気のあるアトラクションらしい。ハルの好きなキャラクターも出てくるからきっと楽しんでくれるはず。
まず、私と先輩が先に乗り、その後ろにハルと蒼くんが座った。
スタッフの人のアナウンスの後にカートはゆっくりと動き出した。
はじめは薄暗い場所を通り徐々に明るい場所に出る。パステル調の壁紙や衣装を着たキャラクターたちのお出迎えを抜けると、今度はシックな雰囲気、ポップな雰囲気と世界観が移り変わるのが楽しい。
ちらりと後ろに視線を向けると、ハルは口を抑えて小さな声で可愛いと連呼している様子がうかがえた。こんなに自分の好きなものに対して熱烈に喜んでいる様子は珍しい...。蒼くんの前では見せているのかな。
「シャッターチャンスだよぉ!せーの!」
コースも終盤に差しかかり、そんなアナウンスが聞こえた。
私は先輩をちらりと見て、そっと手に触れた。先輩は驚いた様子で私を見ている。でも、しっかりと手を繋いでくれた。
私もぎゅっと握り返して正面笑顔を向けた。
きっと素敵な写真になっているはず。購入手続きを取って先に外に出ていたハルと合流した。
蒼くんがいないけど、あ、写真を買っている。
「ハル、楽しめてる?」
「うん!すっごく楽しい!手を振ってくれたし、かわいかった」
ハルはニコニコしながら感想を伝えてくれた。
いつもの様子よりも少し幼く見える。童心に帰っている、ということかしら。いつもよりも手振りが激しいし、本当に楽しんでくれているみたいでほっとした。
「隣で可愛いを連呼してたもんな」
写真を買った蒼くんも合流してそんな話をしている。
ハルは少しだけほおを膨らませて蒼くんをみている。
「写真、多分上手く撮れてないのに...」
「そんなことないって、ほら、良い笑顔してるだろ?」
蒼くんはさっきの写真を見せてくれた。胸の前で手を組んで照れたような笑顔を向けているハルが写っている。写真の中でハルを見つめる蒼くんの表情もとても優しい。
「いい写真ね...ハル、可愛く撮れてるじゃない」
「でも、ポーズ取れなかった...」
ポーズか...。ハルが取るポーズ、昔一緒に撮った写真では確か、ヒーローポーズをしていたっけ?
あ、ダメだ...ハルのポーズ=ヒーローポーズでイメージが固定化されてる。いや、あれも可愛かったけど、たぶん、今やっても可愛いんだろうけど...。
「まい?急に笑い出してどうしたの?」
「う、ううん、何でもない...ふふ、」
「だ、大丈夫?む、むせてる、笑い過ぎてむせてる、」
笑い過ぎて少しむせてしまった私の様子にハルは困惑している。
「ふう、もう平気。ごめん、ハルが写真撮る時のポーズ、ヒーローポーズのイメージがあったから」
「あ、あれは、小さい時の話で、その、兄ちゃんとか優弥がヒーロー好きでそれで、見てただけで、」
ハルは顔を赤くして必死に弁明を始めた、
「特撮ネタが通じるのそれが理由か...」
蒼くんも納得したように呟いている。ハルはその蒼くんのつぶやきに対してさらに顔を真っ赤にした。耳まで赤い。
「いや、俺は遥稀といろんな話出来て楽しいし、嬉しいから、」
ハルが気を悪くしたと思ったのか蒼くんは謎のフォローを始めた。
これは、普通に照れているだけだと思う。きっと小さい頃のハルはヒーローみたいなカッコいいものが好きなのとハルの好きな可愛いキャラクターを好きなのは自分の中で共存できないと思っていたのだろう。
そんなこと、ないのに...。カッコイイも可愛いも全部ハルの好きなもの。おかしなことなんて1つもないのに。
ううん、ここで私が暗い気持ちになってちゃダメよね、
今日はとことん楽しむんだから。
「着ぐるみもいるから一緒に写真撮ってもらったら?」
顔を真っ赤にして戸惑い続けているハルに声を掛けるとハルは驚いた顔をしていた。
「い、いいの...?え、だいじょうぶ?私、今日命日じゃない...?」
「大丈夫よ。もう、大げさなんだから、ほら、一緒に撮ってもらおう?」
私がハルに優しく声を掛けるとハルは緊張した面持ちで頷いた。
そろりそろりと着ぐるみへと接近していく。
着ぐるみがハルに手を差し伸べるとハルは一瞬肩を揺らしたものの、嬉しそうに笑ってその手を取った。しばらく着ぐるみのふわふわとした感触を楽しんでいたみたいだけど、着ぐるみと一緒に蒼くんに視線を向けた。
「蒼、蒼も一緒に撮ろう?」
「え、俺も?」
蒼くんは戸惑ったように言った。
着ぐるみもハルと手を繋いでいな方の手で手招きをしている。
「撮ってあげるからハルの横に並びなさい」
「お、押すなよ」
ハルがせっかく誘ってるのに早く行けと私は蒼くんの背中を押した。
「はーい、笑って」
何枚か撮って上手く撮れているかを確認する。
着ぐるみと蒼くんに挟まれたハルはずっと小さくて、少しだけ不安になった。
「ハル、写真は後で送るね」
「うん、ありがとう、かわいい...」
ハルはニコニコと着ぐるみを見つめている。
その様子に私は胸が締め付けられた。
「早緑、元気出せ」
「あ、川端先輩...」
「それにしても、癒木さん、あんなに表情筋動くと思わなかったんだが...」
「俺も、あんなにニコニコしているのは初めて見ました...ってか、まいは何でウルウルしてるんだよ」
蒼くんに言われて気がついた。
私の視界がぼやけていることに。
「中学のあの時からもう、あんな風に笑うのは無理かもしれないって、勝手に諦めてたから...」
そう、私は勝手に諦めてた、ハルは屈託なく笑うことはもうできないのだと。
ううん、中学の時からじゃない。私がハルから勝手に距離を置いた時、それよりも少し前からハルの笑顔は変わっていた。
笑っているのに、私が惹かれた、空を雲を見つめて楽しそうに、愛おしそうに笑う表情とは違うことは分かっていた。その変化を認めたくなかった。
そして、完全に距離を置いた時に、ハルは笑い方を忘れてしまった、変わってしまったのだと勝手に思い込んでいた。
でも、違った。ハルは笑い方を忘れたわけでも捨てたわけでもない。大切に、大切に心の奥底にしまっていただけなんだ。
陽だまりのように温かくて、花のようにきれいな、私がハルに惹かれた笑顔。それを、見ることができた、
「まい、どうしたの?どこか痛い?」
ハルは私に駆け寄ってハンカチを差し出した。
「ううん、大丈夫。少し嬉しいことがあっただけ」
「そっか。良かったね。でも、もう泣かないで」
ハルは私の涙に弱い。
手を差し伸べてくれたあの日は私以上に怒り、私以上に傷つき、私以上に悲しんでくれた。
優しくて、温かくて、綺麗な心を持っている、不思議な子。
「うん、ありがとう、ハル」
ハルが涙を拭ってくれたけど私の涙がしばらくの間止まることはなかった。
ハルからハンカチを受け取って私は自分で涙をぬぐった。
「遥稀、最後に握手しなくていいのか?」
「うん、蒼もいこう」
「え、ちょ、おい、」
賑やかな会話が聞こえた、
ハルは笑っていて蒼くんは照れている。あの2人の場所がすごく明るく見える。
拗ねた顔も笑った顔もすべてが眩しい。
「まい?」
「ううん、なんでもない...あーあ...ハルに泣かされちゃったなぁ」
私が冗談めかして言うと先輩は笑ってくれた。
ハルは優しい笑顔で蒼くんの手を引いて私達のもとへと駆けよって来た。




