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癒しの木  作者:
再び花が咲くように
73/120

8

 あの後、私達は別行動をとることになった。

 ハルがせっかくのデートを邪魔したくないと言い、蒼くんもそれに便乗する形でハルに賛同したというわけ。

 ハルと2人きりのデート(仮)を実現するために必死に言葉を探し脳をフル稼働させている姿を見てしまえばこちらも引き下がらずを得ないというもの。

 それが周囲には悟られていないのがまた恐ろしいこと。


「まいはどこか回りたいとことかある?」

「うーん、簡単なワークショップとか気になるかも。圭吾先輩は?」

「俺も気になってたんだ。そこから行ってみようか」


 ハルと回りたかったのも事実だけど、圭吾先輩とこうしてゆっくりと回るチャンスがあるのも嬉しい。きっかけをくれたハルに感謝して私は今のこの楽しい時間を満喫することにした。


「なかなかうまくできないな...」

「あ、ここ、編み方が違うよ、逆の方に編むみたい」


 私達が参加しているのは小さなかごバッグを編むワークショップ。手芸同好会が主催しているもので、割と人気があるみたい。

 四苦八苦しながら頑張って編んでいる先輩を見つつ私も自分のものを進めていく。


「清水さん、器用だね。うちに入ってくれたらいいのに...」

「ダンス部が忙しいから、ごめんね?」

「あ、こっちこそ気を遣わせちゃってごめん。それと、優勝おめでとう」


 それとなくコンテストの結果は広まっているらしくさっきから知り合いに会うたびに祝福の言葉を掛けられる。少しだけむず痒いけど、それでも出場して良かったと思えるほどにはいい結果だった、


「結構難しいな...」

「あ、そこは、」


 先輩の籠に手を伸ばした時に指先がすこしだけ手に触れた。


「まい?」

「あ、いや、なんでもない。えっと、そこは、」


 少しだけ熱くなった顔を隠すように私は先輩の視線が籠に向くようにそれとなく話題を逸らした。

 触れた指先が熱くて、私とは違う肌の質感と温度に鼓動が早くなる。

 私は好きな人にこうして少し触れるだけでもこんなに胸が痛いのに、蒼くんはハルに触れるどころか自然と手を繋いだりしている。それも、テレを周囲に一切悟られずに。

 それだけを考えて見ると意外と蒼くんはすごいのかもしれない。

 

 ハルに向ける態度には確かに甘さを含んでいる。それなのに、緊張感や不安が一切感じられない。それが当たり前であるかのようにこなしている。


「まい、どうだ?いい感じじゃないか?」

「え、あ、うん。きちんと編めてるね」

「少し不格好だけどな...まい・どうした?」

「ううん、あの、ね。作った籠、交換したいなって」

「え?俺のと?」


 先輩は驚いた顔を出私を見た。

 私は元々そのつもりで色を選んだ。先輩の好きな落ち着いた色。

 お互いが頑張って作ったものを交換するだなんて素敵な思い出になると思う。先輩の気が進まないならしかたないけど。


「本当に俺のでいいのか?」

「うん。ダメ、かな?」

「ダメじゃないけど、俺のまいのと比べて不格好だから、」

「圭吾先輩が頑張って作ったからいいの。だから、私の籠を貰ってください」


 私が籠を渡すと先輩は困ったような嬉しいようなそんな表情を浮かべて受け取ってくれた。そして、自らが作ったものを私に手渡してくれる。


「これで良かったら、どうぞ」

「ありがとう。すごく嬉しい」


 私がそう言うと先輩はさっきよりも嬉しそうに優しく笑ってくれた。



「あ、このみちゃん遅かったね?どうしたの?」


 クラスメイトが教室の後ろから入ってきた1人の女子生徒に声を掛けた。

 1年生の子、だろうか。見たことがあるような、ないような...。


「え、泣いちゃってどうしたの?怪我でもした?」

「うう、せんぱぁい、聞いてくださいよ」


 1年生の女の子はボロボロと涙を流しながらクラスメイトへと縋り始めた。教室内の空気が少しだけ気まずくなる。


「私、私、振られちゃったんです...」

「えっと?」

「早緑先輩、ステージから私に笑いかけてくれたのに...私に笑ってないって、」


 さっきまでのコンテストを見ていた子で、蒼くんのファンか...。ハル以外に笑いかけるとかありえないと思うけど、え、笑いかけたの?は?


「まい、落ち着け...」

「圭吾先輩、蒼くんがコンテストで笑ったって本当ですか?」

「それは、本当だけど、かんっぜんに癒木さんに向けて笑ってた、あいつ。他の人まるで眼中になかった」


 先輩が遠い目をして言っている。

 ということは、彼女は蒼くんのハルに対するアピールに被弾してしまった哀れな被害者という所だろうか。これだからイケメンは...再三にわたり注意するように言っているのに。


「早緑くんが?え、でもあの人好きな子がいるって噂が...」


 ちなみに、クラス内で蒼くんに想いを寄せる女子は早い段階で全滅した。

 どんなにアピールしてもなびかないどころか時に冷たい視線を向けられて心が折れる子が続出した結果、クラス内で恋愛対象外の認識となっている。

 まあ、友達同士での会話で堂々と好きな子がいると話題に出してむしろあちらから牽制していたからってのもあるだろうけど。


「あー早緑くんね...今日確か彼女?と一緒に回ってるんだっけ?」

「だよね?クラスの方に遊びに来てた子。明らかに特別扱いしてたし」

「うう...」


 余計に泣き出してしまった。


「で、も、私の方が絶対に可愛いのに...」

「はいはい、そこは諦めな。絶対に勝てるのいないって。あの間に入れるのはいないんだから」

「ちょっと、言い方...えっと、元気、出してね?うん、」

「先輩は諦めなければいけると、」

「それは、かなり厳しいかなぁ...」

「そ、そんなぁ...」


 可哀そうだとは思うけど、ハルの方が可愛く見える。

 計算されていない感じとか...人前で泣こうとしない所とかいじらしくていいと思うし。


「えっと、まい、そろそろ移動しないか?」


 女子の涙に弱い先輩は早急にこの空間を脱出したいらしい。

 計算とわかる振る舞いではあるけど、ここは先輩の意思を尊重すべく、私達は別の場所へと移動した。

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