7
ついにコンテストが始まった。
隣の蒼くんは相変わらずやる気に満ち溢れている。
ハルの何気ない一言でここまでやる気を出せるのは単純というか、何というか...。
「なんだよ?」
「いや、蒼くんって本当に単純だなと思って...」
「そりゃあ、遥稀が俺のことを優勝できると断言するくらいにはカッコいいと思ってくれているから。やる気を出さないわけにはいかないだろ?」
言いたいことはわからなくもないけど、ハルも多分そこまで本気で言っていない気がする。本当に何となく、何気なく言っただけの気がする。
まあ、それでやる気を出してくれるならいいけど...。
クラスメイトがどうにか乗り気にさせようといくら言葉を紡いだところで蒼くんは嫌な素振りを隠そうともしなかった。今頃、必死に説得をしていた子たちが驚いていることだろう。
人が変わったようにここまでやる気を出し始めていたら。
「それでは、続いてミスの審査に移ります!」
いつの間にはミスターの審査は終わっていたみたい。
私は思考を切り替えてステージへと上がった。
ステージから会場を見下ろすと思っていたよりも人が集まっていて盛り上がっていた。
高揚薄る気持ちを抑えながらどうにか平静を保つ。
あ、ハルと圭吾先輩だ。
ハルは私に向かって小さく手を振ってスマホを構えている。少し照れるけど、気分は悪くない。
「では、最後に1言お願いします」
最後に言いたいことはクラスメイトと相談をしていて決まっていた。それを言えばいい。
私は少し息を吸い込んで全体を見回しながら話す。そして、最後の言葉を紡ぐときに、愛しい2人に向けて飛び切りの笑顔を向けた。
「投票、お願いします」
今までで1番いい笑顔ができたと思う。
会場全体の雰囲気も悪くない。後は結果を待つだけ。
「おーおつかれ」
「蒼くんもお疲れ」
ステージから降りると気の抜けた様子の蒼くんが椅子に座っていた。
さっきまでのやる気はどこかへと飛んで行ってしまったらしい。
「蒼くん、珍しく張り切ってどうしたの?黄色い歓声飛びまくってたけど」
「遥稀の前でダサい姿見せられないだろ?俺は少しでも照れさせたいし意識してほしいんだよ」
ハルの前でダサい姿を見せたくないのは何となくわかる。
私だってそうだもの。同じ思考をしていたのは癪だけど仕方ないわね。
「なるほどね?まあ、結果的にクラスのためになっているようなものだしハルの情報を少し教えてあげようかしら]
蒼くんは期待のこもった視線を私に向けた。
ハルや圭吾先輩なら可愛く思えるのに、蒼くんだと全くそんな感情が湧いてこない。それどころか少しからかいたい気持ちになるのは何故かしら...。
「ハルは、カッコいい人よりもかわいい人の方が好きらしいわよ」
「それ、俺に勝ち目なくね...?」
蒼くんは顔を引きつらせている。
まあ、今話したのはハルの好きなキャラの話だけど。ネタばらしするのもなんか癪ね...。理由が理由だけど、きちんとした情報も教えてあげよう。
「それがね、この前お泊り会したときに蒼くんの印象を聞いたのよ」
「それで、なんて?」
肩を落としていた蒼くんは直ぐに姿勢よく座った。切り替えの早さは褒めるべき、なのかしら。
「カッコいいし可愛いし面白いって言ってたわ」
これはハルが実際に言っていた言葉。
一般的に見たらカッコいいけど、可愛いものが意外と好きな所はギャップがあって可愛い。あと、話していて面白い。そんな風に楽しげに話していた。
いい印象を抱いていて、蒼くんが大切な存在になりつつあることが分かる。
「これは、脈あり、か?」
「は?あんまり調子乗らないでよ。ってか、ハルと付き合おうなんて5年早いわ」
「そこは10年じゃねーのかよ。ってか、まいは先輩という彼氏がいるだろ、いい加減遥稀の隣を譲れよ」
「それはそれ、よ。まあ、現時点では蒼くんがベターかなって感じかしら?」
ハルを任せるにはまだ頼りない部分もあるけれど、蒼くんなだきっと寄り添ってくれると思う。
だけど、ハルが自らの意思できちんと選択するまではこの隣を譲るわけにはいかないの。私の大切な友達だから。
奪えるものなら奪ってみなさい。きっと、その日は割と早く来るだろうけど。
「2人とも、おめでとう」
結果発表と表彰式の後、ハルはたい焼きを持ってお祝いしてくれた。
めでたいやき...。ハルがたまに急にこぼすダジャレだ。
「まい、おめでとう」
「圭吾先輩もありがとう。ハル、いつの間にたい焼き買ってたの?」
「投票の集計中に急に買ってたんだよ。まさか、2人が本当に優勝するってあてるとは思っていたなかったけど」
多分、ハルがたい焼きが食べたくなったから買っただけだと思う。
どちらかが優勝できなくても渡されていたんだろうな。ハルに貰ったたい焼きを食べながらそんなことを考えていた。
「蒼が良い笑顔していたから撮った」
ハルが蒼くんに写真を見せながら楽しく話している。
蒼くんは耳を少し赤くしてその言葉を噛みしめているようだった。そして、軽くハルの髪に触れた。
「はぁ、そういうとこ、本当に油断ならないなぁ」
「まい?」
「ううん、なんでもない。そろそろ移動しましょうか」
仲良く写真を見ている蒼くんとハルにも声を掛けて移動を促す。
ハルは飛び切りの笑顔で頷いてくれた。




