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味方が増えたことに少しだけ安心していた部分はあると思う。
奈穂ならすぐにでもハルに話しかけて様子を見てくれると思っていた。だけど、私のあては見事に外れた。
奈穂が悪いわけじゃない。さくらに怪しまれないように傷つけられないようにハルと関わる必要がある。それは、私が思っていたよりも随分と難易度の高いことだった。
「ハル!やめて!」
放課後の教室でハルの心は壊れていた。
うわ言を言いながら自らの頭を殴りつける様子は衝撃的で制止する声も震えてしまう。それでも、これ以上ハルが壊れないように、私がハルを守らないといけない。
「ハル、大丈夫、大丈夫だからね」
私はハルを抱きしめて安心させるために頭を撫でた、ハルの身体から徐々に力が抜けていくのが分かる。正気には戻ったみたいだ。
「たすけて、もう、やだ...」
そうしているとハルは小さな声で鳴きながら私に言った。
ハルの言葉が、様子が必死に私にSOSを出している。私の助けを必要としている、
遅すぎるよ...。
1人で傷ついてボロボロになって壊れてようやく助けを求めるなんて...。でも、こうして自分の口で助けを求めてくれてよかった。
「そっか。わかった。ハル、大丈夫だよ。今度は私が絶対に守るから」
私はそう言ってさらに強くハルを抱きしめた。
「ほら、これで目を冷やせよ」
いつの間には教室からいなくなっていた蒼くんは保健室に氷嚢を貰いに行っていたらしい。それを自らのハンカチに包んでハルの目に当てて手渡した。
その様子を見ながら改めてクラスでの奈穂の立ち位置を確認する。
ハルの様子を話したことを隠して奈穂に協力を求めることを提案するとハルは予想通り渋っていた。
迷惑を掛けたくない、板挟みにしたくない、か。
この遠慮はハルの優しさからくるものだと理解している。だけど、今はそれどころじゃない。困っている時に手を差し伸べないのは果たして友達だと言えるのだろうか...?
それはその人との関係性などにもよるのだろうけど、少なくとも奈穂はハルに対して助けたいとの意思を示した。ならば、思いっきり迷惑をかけてもいいと思う。
そして、私から奈穂に協力を働き掛けたとも秘密にしておく。あくまで奈穂がハルの様子が気になって私に聞きに来たことにしてしまえば私や奈穂に対する心の負担も減るだろう。
あくまで私達は自主的にハルを助けたいのだから。
ハルは私が困っていた時に手を差し伸べてくれた。だから、今度は私がハルを助ける番。
大切で愛おしくて最高で最強の友達で私のライバル。小さい頃何気なく交わした会話をハルも覚えていたらしい。瞳を潤ませて頷いていた。
「それじゃあ、帰ろっか。蒼くん、ハルのこと送ってね。私は習い事があるから」
本当はないけど、すぐにでも家に帰ってやらなきゃいけないことがある。蒼くんにハルを託すのは癪だけど仕方がない。
ハルは遠慮しているけどここは押し切らせてもらう。
ハルの蒼くんに対する好感度が意外と高いのが気になるけど、今の現状だと仕方がないのかもしれない。私では引き出すことのできない表情を引き出すことのできる蒼くんが少しだけ羨ましい。
ゆっくりと歩いてく2人を見届けてから私は家へと急いだ。
「ただいま!」
「まい、おかえり。ってどうしたの?」
「ママに聞いてほしいことがあるの!」
「わかったからとりあえず手洗いうがい。そしてカバンも部屋に置いてきなさい」
ママはハルのママと仲が良い。そして、ハルのことも気に入っている。きっとどうしたら良いのか一緒に考えてくれるはずだ。
言われた通り私は手洗いうがいをして、ママの前に座った。
「それで、どうしたの?志望校を変えたいとか?」
「違う。ハルのことで相談が、」
「ハルちゃん!?もしかして恋人でもできた?可愛いもんね。ママてっきりハルちゃんはまいのことが好きだと思ってたんだけど...」
「違うから」
ハルに恋人ができたら本当に騒ぎそうだな、ママは。というか、さり気にすごいこと言ってるな、この人...。
「実は、最近ハルの様子がおかしくて、それで、さっきハルが泣いてて、」
「はぁ?ハルちゃんを泣かせたのはどこの誰よ?もしかして、さくらちゃん?あの子、前にハルちゃんの悪口言ってるってまい言ってたじゃない?」
怒り狂いそうなママをどうにか抑えて最近ハルのクラスでどんなことが起こっていて、そしてハルがどんな様子かを話した。
冷静さを取り戻したママは真剣に話を聞いてくれた。
「なるほどね...先生たちは知っているのかしら?」
「どうだろう...?子どもののっちゃな諍いだと思ってるか気づいてないんだと思う...ハル、我慢強いから、今日初めて助けてって言ったみたいだし」
「わかった。ハルちゃんのお母さんにはママから伝えておくわね」
「うん、お願い。多分、ハルのママも知らないと思う」
ママはまず何をハルのママに伝えるかを教えてくれた。
「それから、まいはハルちゃんといつも通りに接すること」
「いつも通り?」
「過保護になり過ぎたらハルちゃんが気にしちゃうでしょ?だから、いつも通り仲良くして、いつも通り、きちんとハルちゃんが大切な友達だってことを伝えてあげなさい。大丈夫、まいに助けを求めたってことはハルちゃんにとってまいは頼りになる大切な友達だってことだから」
「うん...」
ママは私を労わるように頭を撫でた。
「それにしても、蒼くんだっけ?ハルちゃんと距離を詰めるだなんてなかなかやるわね」
「ただの友達でしょ?」
「でも、ハルちゃんが普段から信頼している子なんでしょ?ハルちゃん、ガードが堅いから波長が合わないとすぐに仲良くなれないと思うんだけど」
「それは、確かに...」
「蒼くんて、ハルちゃんのこと好きなの?え?違う?絶対好きでしょ?」
あ、これは長くなるやつだ...。
ママは人の恋バナが大好物だ。というか、会ってもないのに蒼くんの恋心バレちゃってるけど、まあ、滅多に会うことはないからいいか。
その日のうちにハルのママへ今日のことは伝えられた。多少ショックは受けていたようだけど、かなり怒っていたらしい。
すぐに先生との面会を取り付けて話を聞くと意気込んでいたとママは言っていた。
ハルは、翌日体調を崩して教室にはいなかった。




