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昼ご飯を食べてからはまい達と別行動をとることになった。
一応、Wデートのため、きちんと付き合っている2人には配慮した方が良いと遥稀は考えていたらしい。
「それじゃあ、時間になったら観覧車の前に集合ね」
「わかったけど、なんで観覧車?」
「観覧車から見える景色が凄くきれいなの。ハル好きそうだから1番いい時間帯にね」
遥稀と対面で話せる機会を作ってくれたということらしい。優しいのか何なのかはわからないけど一応感謝はしておくか。
「ハル、蒼くんのそばを離れちゃダメよ?迷子になったら大変なんだから」
「わかってるよ、あとでね」
まいはからかいつつ遥稀の頭を軽く撫でて行ってしまった。
さて、俺達はどこから回ろうか。
「遥稀、行きたいところとかあるか?」
「ある。絶叫系行ってみたい」
「絶叫系か...ここの結構侮れないらしいけど大丈夫か?」
「大丈夫。三半規管は多分強いはず」
ドヤ顔で言ってるのがまたかわいいな。
「そんじゃ、行くか」
俺は遥稀の手を繋いで目的地へと向かった。
いつの間にか緊張感は薄れていて、朝ほど動揺しなくなっていた。慣れとは恐ろしいものだな。
「遥稀って高い所とか平気なのか?」
「平気だし好きだよ。昔はよく木登りとかしてたから」
「想像できないな...。外にいるにしても木陰で本とか読んでそう」
「それも間違ってないけど...。小さい頃はあんまり体が強くなかったから」
「え、それなのに木登りを?」
「うん、だって、周りの子ができるのに私だけができないってなんか悔しくて、それでこっそり練習して登れるようになったの」
「悔しい、か」
「悔しかったよ。私だけ成長していないみたいで、周りに置いてかれた気がして。だから、初めて登れた時、すごく嬉しかった。私でもやればできるんだって。ちゃんと歩いてたんだなって」
「良い思い出だな」
「それに、私には無理って散々バカにしてきた人たちを上から見下ろすのは気分が最高に良かった」
いや、そんな笑顔で言われても...。随分前に要が言ってた通り負けず嫌いなんだな...。
「でも、1番は、滅多に見れない景色が見れるのがいいかも。どうしても皆の目線より下がっちゃうから、皆はどんな景色を見ているのかすごく気になるんだ」
そっか...それもきっと寂しくて悔しいんだろうな。
「だから、蒼がさりげなく目線を合わそうとしてくれるのも嬉しい」
「いつかさ、」
「うん、」
「遥稀が俺と同じ目線で見れるように俺もどうやったらいいか考えてみるな」
「蒼おっきいから気になるかも」
「手っ取り早いのおんぶとかか...?おんぶしてみるか?」
「いや、さすがにここでは恥ずかしいからいいよ」
そんな風に笑いながら話しているといつの間にか順番になっていた。
カップルとかでテーマパークを初デートに選択すると話題に困って気まずくなると聞いたことがあるけど、遥稀との間では気まずくなることはないし、沈黙さえも心地よく思ってしまう。
きっと、遥稀の雰囲気がそうさせてくれるのだろう。
「安全バーをしっかりとおろしてください」
スタッフの指示に従い、コースターへ案内され、安全バーを下ろす。
隣の遥稀の様子を伺うととてもワクワクした表情を浮かべていた。
安全点検が終わり、ついにコースターが動きだした。後ろ向きに。
え?これ、後ろ向きに行くタイプ?想定外のことに俺の頭は一瞬フリーズした。
まて、この状況、遥稀もパニックになっているんじゃ、と横を向くと楽しそうに笑っている遥稀と目が合った。
「たのしみだね」
遥稀の口がそう動いて終わった瞬間にコースターは後ろへと落下していった。その勢いのままに回転や上下運動を繰り返していく。
そんな中笑っていられる遥稀、やはりただものじゃない...。
「お疲れさまでした」
スタッフの声でアトラクションが終わったことをようやく認識した。
所々記憶が飛んでいる気がするが俺は今もこうして生きている。そのことに感謝しなければならない。
「蒼、大丈夫?」
「お、おう、まさか、後ろ向きに進むとは思わなかった」
「ね?びっくりしたよね。面白かった」
遥稀はさりげなく俺を気遣っているようで手を引いてくれる。そして、近くのベンチに座らせた。
「飲み物、買ってくる」
「あ、俺も、」
「蒼の今の気分に合わせて選んでくるから待ってて」
遥稀はそれだけ言うと駆けて行ってしまった。
さっきまでの余韻が残っているのも事実だしここは遥稀に甘えよう。いや、今の俺、もしかして情けない上に格好悪くないか?
やば、これから告白する予定なのに落ち込んできた。
「お兄さん、もしかして1人ですか?」
「は?」
あ、やべ、いつもより低い声が出た。こんなの遥稀には聞かせられないよな、反省だ、反省。
「1人だったら私達と回りませんか?」
声のした方に目を向けると2人組の女子...。
「人と来てるんで」
「えー?でも今は1人じゃないですか」
「あ、もしかしてお連れさんお友達ですか?それならWデートしません?」
そもそもWデートできているんだが。仕方ない、遥稀の所まで行くか。
「お兄さん待ってよ。ほら、こんなかわいい女の子とデートできる機会なんて滅多にないよ?」
腕に纏わりついてきやがった。遥稀以外にされても全く嬉しくないんだよな。
「離れてもらえます?迷惑なんで」
「そ、そんなこと言わないで、」
遥稀にこの状況見られたらかなりまずいんだよ、こっちは。
「蒼、ごめん、混んで、て、あ...お取込み、中?」
「いや、全然。ありがとうな、遥稀」
「あ、うん...えっと、知り合い?」
「違う」
「あ、ちょ、蒼、」
遥稀を腕の中に収め、ぎゅっとすると少しだけイライラがなくなっていった。なんだこれ、魔法か?
腕の中でどうにか抜け出そうと動いているのがさらに癒し効果を増幅させていく。
「連れって、その子?」
「はい。今、俺達デート中なんで」
遥稀の耳を塞いでいい笑顔で言うと女子2人は気まずそうにその場を去った。この至福を邪魔されてたまるか...。
「蒼、ねぇ、なんて言ったの?蒼」
「あ、悪い。遥稀、助かった、ありがとうな」
「何があったの?あ、もしかしてまたナンパ?大変だね」
軽く流しているが俺、今結構遥稀にすごいことをしてしまったのでは...?ストレスがたまり過ぎて結構大胆な行動を取った気がする。
そして、それを遥稀は気に留めていない、だと...?
結構心に来るものがあるな...。
「でも、いきなり抱き着いたりとかやめた方が良いよ?周囲にはそう言うのを勘違いしてこじらせる人とかいるから...」
遥稀が遠い目をしている。想像に難くはないが...。
「いや、勘違いしても良いから」
「え?何か言った?」
「いや、なんでも」
俺の小さな呟きが遥稀に届くことはなかった。飲み物を受け取って次の目的について話し合う。
今度は俺の行きたい場所にしたいらしい。パーク内の地図を見ながら俺はこの後のことについて思いを巡らせた。




