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Wデート当日、柄にもなく俺は緊張していた。
まあ、あんなことを相談しておいて決行する日なんだから当然であるが。それでも、日にちが決まってからずっと気にするくらいには緊張していた。
授業中もぼんやりすることが増えて周囲に心配されたし。
「お待たせ。蒼、相変わらず早いね」
そんな風に今日までの日々を振り返っていると声を掛けられた。
遥稀だ。
「おはよう。全然待ってないけどな」
「いや、30分前にはいたでしょ?今日もナンパされてるなーって思って観察してた」
「着いた時点で声を掛けてくれ」
「考え事してたから声かけづらくて...ごめん」
「いつものことだからいいけど...それじゃ、行くか。遅れたらまいが怖いだろうし」
まい達とはテーマパークの入場ゲートで待ち合わせをしている。
俺と遥稀は駅前で待ち合わせてから電車に乗って向かう。休日のしかもテーマパークへ向かう電車内は満員ではないもののそこそこ人が乗っていて、俺は遥稀を庇うように目の前に立った。
「人、結構いるね」
「だな。イベントの時とかは電車平気なのか?」
「早めに家を出て一緒に行く人もいるから平気。それよりも会場内の方が大変かも」
小声でいつもより近い距離で話すだけでも少し緊張する。
吐息がいつもより近く感じられてその表情も良く見える。俺の心臓の音が聞こえていないか心配になる。
感覚だけで言うと、いつもより早く大きく鳴っている気がする。
「あ、そろそろ着くみたいだよ」
「お、うん、はぐれないよに、」
「なに?」
「いや、何でもない」
いつも通り迷子対策で手を繋ぐだけでも緊張する。
手、こんなに小さかったんだ。それに、俺の手より何倍も柔らかい。強く握り過ぎたら折れたり潰れたりしてしまいそうだ。
「蒼、はやく、はやく」
「わ、わかったって」
遥稀はいつも通りなのに俺だけが変に緊張している。なんか、悔しい...。
「ハル、久しぶり」
「うん、まいおはよう。川端さんも、お久しぶりです」
「久しぶり。今日は急に誘ってごめんね」
「いえ、ここのキャラクター大好きなので誘ってくれて嬉しいです」
「ハル、そうだったの?もっと早く教えてくれたらよかったのに...」
「その、可愛いキャラクターとかマスコット好きなの、私のキャラじゃないかと、思って...」
カッコよくて可愛くない「癒木遥稀」その呪いはまだ続いているんだな...。
「そんなことないよ!っていうか、そのグッズ初めて見た。どこで買ったの?」
「これは、2年前くらいに出てたガチャガチャで、」
「へぇーすごく可愛いね。ハルに似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
遥稀は少しだけ恥ずかしそうにしていた。その姿も凄く愛おしい。
「揃ったみたいだし並ぶか」
川端先輩の声掛けに俺達は列の後ろの方に並んだ。2列のため、必然的の俺と遥稀はペアになる。楽しみにしている表情を眺めながら列が進むのを待つ。
1歩1歩進むたびに高揚感が増していく気がした。それは遥稀も同じみたいで。繋いでいた手が少しだけ揺れている。
「やっぱりハル似合ってるよ」
「本当?」
「本当。ね?蒼くん」
「えー、お、おう、すごく似合ってるし可愛いと、思う」
「蒼とまいが言うならこれにしようかな」
まいによるテーマパークの楽しみ方その1に従い、俺達はエントランスショップで各々身に着けるグッズを購入していた。
俺も小さい頃来た記憶しかなくて遥稀はそもそも初めてのテーマパークらしい。それを知ったまいが最高に楽しませると計画を練ったと言っていた。
カチューシャを着けて少しだけはしゃいでいる姿はいつもより少しだけ幼く見える。何だろう...いつも以上に迷子にならないか心配になる。
「やはり、蒼もカチューシャ?」
「いや、そのリボン付いたやつは俺に難易度が高すぎる」
「似合うと思う。お揃い」
お揃いという言葉に惹かれる気持ちはあるが、これは強い意志を持たないといけない所だ。
俺は意思を曲げなかった。どうにかリボンのついたカチューシャは回避することは出来た。耳はついているが。
何枚かまいの気が済むまで写真を撮ってからアトラクションへと向かう。まずは室内コースターかららしい。
「か、かわいい...あ、手、振ってる...ああ、」
「遥稀、楽しそうだな...」
「み、見た?今こっち見て、手振ってくれた、」
室内コースター、キャラクターの世界に飛び込んで冒険するという設定のものらしい。好きなキャラクターが出るたびに可愛いと声を漏らしていて、なんか、見たことのない一面を見ることができた。
「シャッターチャンスだよぉ!せーの!」
「え、え、シャッターチャンス?」
「遥稀、落ち着け、」
急なアナウンスにびっくりしている。
アワアワしてるのなんか可愛いな。ポーズは取れなかったが笑顔は満点だと思う。
後ほど購入できるらしいので買おう。
「ハル、楽しめてる?」
「うん!すっごく楽しい!手を振ってくれたし、かわいかった」
子供向けとは侮れないほどにはしゃいでいる大人も何人かいたし、テーマパークは童心を思い出させてくれる施設なのだろう...。
「着ぐるみもいるから写真撮ってもらったら?」
「い、いいの...?え、だいじょうぶ?私、今日命日じゃない...?」
「大丈夫よ。もう、大げさなんだから。ほら、撮ってもらおう?」
さて、俺はカメラ係に徹するか...。遥稀の笑顔の写真も撮れるしいいポジションではあるな。
ん?着ぐるみがこっちを見て手招きしている。えっと?」
「蒼、蒼も一緒に撮ろう?」
「え、俺も?」
「撮ってあげるからハルの横に並びなさい」
「お、押すなよ」
「はーい、笑って」
よ、容赦がねぇ。
取り終わったらまいと先輩が撮るらしい。いいけど...。
「ハル、写真は後で送るね」
「うん、ありがとう。かわいい...」
これ、もしや俺キャラクターに負けてるのでは...?あそこまで嬉しそうな顔見たことないんだが...?
見たことがないくらいニコニコしている。...え、俺、勝率絶望的...?
「早緑、元気出せ」
「あ、川端先輩...」
「それにしても、癒木さん、あんなに表情筋動くと思わなかったんだが...」
「俺もあんなにニコニコしているのは初めて見ました...ってか、まいは何でウルウルしてるんだよ」
「だって、ハルがあんなに笑うの久しぶりに見たから...。なんだか、出会った頃に戻ったみたいで...嬉しくて...」
「まい...」
「中学のあの時からもう、あんな風に笑うのは無理かもしれないって、勝手に諦めてたから...」
まいは涙ぐみながら言った。
あの時、何もできない歯がゆさを抱えていたのはまいだけじゃない。俺も不甲斐なさを何度も嘆いた。だけど、こうして、無邪気な屈託のない笑顔を見ることができた。それがすごく嬉しいんだろう。
「まい、どうしたの?どこか痛い?」
「ううん、大丈夫。少し嬉しいことがあっただけ」
「そっか。良かったね。でも、もう泣かないで」
「うん...ありがとう、ハル」
遥稀はまいの涙をハンカチで拭って笑った。それを川端先輩は複雑な表情で見ている。
気持ちはよくわかりますよ、先輩...。先輩が拭いたかったんですよね...。
「遥稀、最後に握手しなくていいのか?」
「うん、蒼もいこう」
「え、ちょ、おい、」
遥稀に手を引かれてキャラクターの前に立つ。いや、一応ライバルなんだけど...。遥稀を笑顔にしていたわけだし。
そんな風に考えていると頭を撫でられた。え、?もしかして慰められてる...?
遥稀、羨ましいって表情に出てるからな...。
「蒼、いいなぁ」
「遥稀、握手してたじゃん」
「でも頭撫でてもらってないし...」
「また来た時に撫でてもらったらいいだろ?」
「...!うん、そうだね」
代わりに俺が頭を撫でると遥稀はふわりと笑った。
さて、そろそろ昼時だな。




