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それから遥稀は大きな音が鳴ったり仕掛けが動くたびに驚き、恐がっている。
俺も多少驚きはするものの、自分よりも驚いている人がいると冷静になるというか、なんというか割と平気だった。
「遥稀、大丈夫か?」
「だいじょばない」
何度目かのそんな会話を交わしつつ進んで行く。
ちなみに現在、手をに繋ぐどころか、恐がり過ぎて腕に抱き着く形になっているわけだが、そこに羞恥心はないらしい。怖がるたびに抱き着く力が強くなっていてそんな中、平静を保っている俺を誰か褒めてほしい。
「そろそろ出口みたいだな」
「ほ、ほんと?長かった...」
遥稀が安堵の息を漏らして力を抜いたその時だった。
「ひ、」
後ろで何かが落ち、血まみれの人間が追いかけてくる。
「ひ、ひぎゃぁー!」
「お、落ち着け、遥稀、」
「む、無理無理無理」
どうにか逃げながら叫んでいるが、途中途中で転びそうになっている。
なんでそんなにバランスを崩しながら転ばないのかが不思議なレベルだ。
「遥稀、大丈夫だから、な」
「だ、だいじょばない...。」
体力が切れたのか、息を切らしながら止まっている。お化け役の人もいつの間にかいなくなっていた。
完全に力が抜けきってしまったようでその場にへたり込んでいる。
「ごめん、少しだけ休憩...」
「いいけど、後ろの人たちに追いつかれるけど大丈夫か?」
「やっぱり大丈夫」
情けない姿を部活の人には見られたくないらしい。相変わらず強がりだよな...。
「あんまり無理はするなって。ほら、おんぶしてもいいから」
「重いからダメ」
「フラフラしてるのが危ないだろ」
「それは、そうかもだけど...。それじゃあ、さっきみたいに肩?腕?かして?」
「わかった。ゆっくり行くけど無理はするなよ?」
結局さっきみたいに遥稀が俺の腕にしがみつく形で歩くことになった。
申し訳なさそうにこちらを見てくるのは小動物みがあってなんかいいな。
「う、眩しい...。」
「ゴールみたいだな...。向こうのベンチで休んどくか」
急な明るさに目がくらんだようだ。目を瞑りながら頷く遥稀を誘導してベンチに座らせた。
お化け屋敷の怖さはまだ残っているらしく、夢に出てきたらどうしようとしきりに呟いている。
「先輩、大丈夫ですか...?」
「うん...大丈夫」
「はるき、全然大丈夫に見えないよ?というか、入る前よりも距離近くない?」
「人が多いとこに行くときはだいたいこんな感じだからいつも通りっちゃいつも通りだな...」
「先輩、人混みを抜ける時だいたいまいさんか蒼さんに手を繋がれてますからね...。迷子防止で」
「遥稀、まだ気分悪いなら飲み物買ってくるか?」
「うう...お願い...種類は任せた...」
そう言い残し、遥稀は突っ伏してしまった...。
これは早く行った方が良いのかもしれない。他にも買う人がいたらついでに行くことを伝えると何人かのものも頼まれたのでまとめていくことにする。
そして、遥稀の友人である村雨さんが手伝いを申し出てくれた。
「っと、あとは遥稀の分か...」
自販機でリクエストされたものを購入し、あとは俺と遥稀のものを選ぶだけとなった。多分、今の気分的には爽やかな飲み口のものが良いだろうな。
でも、ジュースは違いそうだし...。お茶系でほのかな甘さもあって飲み口が爽やかなもの...この中だと...。
「え、ハルちゃんのそれにしたんですか...?」
「え、うん。任せるって言われたし、遥稀こういうの好きだから」
俺が選んだのはジャスミンミルクティー。遥稀が何度か飲んでいるのを見たことがある。俺も飲んだことがあるけど、ハマる人は癖になるんだろうなという味がした。特に、ジャスミンの風味が強い方が好きらしい。
まあ、気分じゃない時のためにアップルティーも買っておくか。俺は両方飲めるし。
「早緑さんは、ハルちゃんとどういう関係なんですか?」
「どうって、」
「付き合ってるんですか?ハルちゃんがあそこまで信頼して気を許す人なんて早々いないのに」
「まあ、それなりに長い時間過ごしてるし、」
「それだけじゃないですよね?」
村雨さんの視線は厳しい。これは彼女が納得する答えを出さないと終わらなそうだな。
タイプ的にはさくらと似ているような気がする。遥稀に対してある種の執着心を抱いていそうな所とか。
「ハルちゃんのことが好きで、恋人になりたいって下心を持っている、違いますか?」
「まあ、間違ってはないけど...」
「やっぱり...」
先ほどよりも眼光が鋭くなった。怖すぎだろ。
そして、彼女はいかに遥稀が素晴らしい人間かを語り出す。所々共感できる部分もあれば、それ、本当に遥稀のことを言っているのか?と疑問を覚える部分もあった。
少なくとも俺からしてみれば遥稀は神々しい存在ではないし、崇拝しているわけでもなかったからだ。遥稀は普通に可愛い少し変わった女の子だから。
「ハルちゃんは、特別な人にしか興味を抱かないんです。特別に面白くて興味深くて、それでいて個性的な人にしか。それなのに、どうして、貴方は簡単にハルちゃんの隣にいられるんですか?」
「いや、どうしてと言われても...?」
「...まさか、ハルちゃんの弱みを握っているんじゃ…」
弱みというか、脆くて弱い所は何度も目にしてきた。今日だってその1つだ。しかし、それをネタに脅したことはないし...うわ、女子の嫉妬って怖っめんどくさっ。
「渉くんやゆかちゃんの目を騙せても私のことは騙せませんから!簡単にハルちゃんを手に入れられると思わないでください!」
村雨さんはそう言い捨てて先に戻ってしまった。
俺はそんな様子に茫然と立ち尽くす。これは、一応遥稀に警戒を促すべきなのだろうか…?いや、でも遥稀の交友関係に口を出して狭めてしまうのは何か違う気がするし...。
遥稀に直接の害がなければ、いい、のか?
そんな風にもんもんと頭を悩ませて戻ると、遥稀は心配の表情を浮かべて俺を待っていた。
「悪い、遅くなった」
「大丈夫だけど、蒼が大丈夫?何か悩み事?」
意外とこういう部分の鋭さには驚かされる。
「いや、飲み物何買うか考えてた。ほら、これ好きだっただろ?」
「うん!蒼、気分にあったの選んでくれるのいつもすごいね」
どうやら正解だったようだ。
「何ですか?...ジャスミンミルクティー...?先輩って変わった味のもの好きですよね」
「え、美味しいのに...。ハマるとすごいよ、これは」
「いや、遠慮しときます」
「えー?美味しいのに...まあ、でも、最初の1口は普通に不味かったかも」
「その割に気に入ってなかったか?」
「飲み進めるうちに美味しくなる不思議。飲み終わる頃にはまた飲みたいに変わって気がついたらハマってた」
相当好きなんだろうな...。
村雨さん、気になるなら会話に混ざればいいのに...。
結局、村雨さんが最後まで会話に加わることはなかった...。




