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できる限りのことはしていると思う。
でも、まだまだ足りなくて、辛そうな顔を失くす事は出来ないでいる。遥稀も少しずつ肩の力の抜き方もわかってきてみたいで、進歩はしているのかもしれないけど。
「クリスマスパーティー?」
「うん!中学最後だし思い出作りと息抜きも兼ねてどうかなって」
「へぇ...他に誰か誘う予定?」
「まずは、要くんでしょ?あとは、佐藤とか、女子はなおに隣のクラスの子数人かな。あ、あと一応遥稀も」
さくらから誘われたクリスマスパーティー。息抜きと思い出作りか。遥稀が参加するなら俺も参加しようかな。要を不憫に思って参加すると思うし。
そんな風に考えて俺は了承した。
「遥稀はどう?参加したい?」
「あ、えっと、何が?」
遥稀にはなおが声を掛けているらしい。まあ、順当だな。
なおもあれから遥稀のことをすっかり気に掛けるようになった。自分がそれだけ見ないふりをしていたのかを痛感したようで、反省と贖罪の気持ち故か遥稀が1人にならないように気を遣っている場面が見られる。
今さら...という気持ちがなくはないが、遥稀がなおのことを大切な友達と思っているので俺が口出すことではないのはわかっている。わかってはいるが...。
同性故に無条件に近い距離にいられるのは正直羨ましい。
「クリスマスパーティーをしようって話。ほら、中学最後だから。勉強の息抜きも兼ねてね」
「日にちが合ったら」
遥稀は手帳を確認しながら言った。どうやら大事な予定があるようでその旨をなおに伝えていた。なおは遥稀の言った日にちを確認してからさくらの方へ予定調整をしに行った。
それを確認して俺は遥稀に話しかける。
「何か大事な予定でもあるのか?」
「うん。オーケストラのクリスマスコンサートを見に行く予定」
「オーケストラ?」
「お母さんがチケット貰ったんだって。前にも行ったことあるけどすごかった」
「へぇ...。遥稀ってクラシックとかも好きなんだな」
「詳しくはないけど、結構好き。あと、演劇とかも」
手元にある本は中世ヨーロッパの音楽史の本らしい。他にも関連しそうな書籍を借りたと楽しげに話している。コンサートをより楽しむための予備知識をつけているところなのだとか。一応、受験生で受験勉強を優先しないといけないはずなのに...。まあ、遥稀の息抜きになっているのなら良いのかもしれないけど。
「クリスマスとか冬休みは?予定あるの?」
「家でゆっくりするくらい、かな。あとは、ばあちゃんの家行ったり。勉強もしないとだし」
「そう、だよな」
「蒼は?」
「俺も似た感じかな。冬休みは短いし」
プレゼント交換とは別に遥稀には何か贈り物をしたいと思っていた。そのためにどうにか一緒に出かける時間を作って好みを把握したいと思っていたんだけど、そんなに上手くはいかないか。
まあ、大抵の受験生の冬休みはそんなものだろう。
そんなことを思いながら遥稀の観察をする。次は最近買ったと話していて本を読むらしい。
「遥稀?」
「ううん、なんでもない、あ...」
「ん?」
少し考えこむようにしていたところで話しかけたらはぐらかされた。俺には言いづらいことだろうか。
今度は本をじっと見つめている。しおりを挟んでいた場所とは違う途中のページっぽいしどうしたんだろう?まさか、机に入れていた本に悪戯でもされたのだろうか?
そこへ、さくらとなおがやって来た。なおは申し訳なさそうな顔をしている。
「遥稀、クリスマスパーティーの日程決まったわよ。残念だけど、あんただけ日にちが合わないみたい」
「あ、うん」
遥稀は上の空で答えている。何か深刻な状態でもあったのではないか心配になる。
「遥稀も参加できないのは、他の日にしても、」
「ちょうど合うのがこの日しかないの!早めがいいでしょ?」
「でも、」
「プレゼント交換、楽しみね。要くんと交換できたらいいな」
なおが別日を提案しても受け入れてもらえなかったらしい。
遥稀はそんな様子には意に介さず手帳を見つめて何かを考えている様子だ。そして、何かをつぶやいている。
「遥稀、そろそろ移動しないと遅れるぞ?」
考え事が終わるまで待とうとも思ったが、それでは遅刻してしまう時間になりそうだ。
「へ、あ、うん。ありがとう」
俺の声に反応して遥稀は急いで移動の準備を始めた。なおはさくらに手を引かれて連れていかれてしまったから今教室には俺と遥稀しかいない。遥稀は準備を終えると俺に向かって頷いて教室の外に出た。
「何か考え込んでたけど大丈夫か?パーティー、遥稀が行かないなら俺も、」
「あ、全然気にしてないよ。楽しんできたら?」
俺が参加を断る旨を伝えようとしたら遥稀はあっけらかんと言った。本当に気にしていないようだ。
でも、俺からしてみれば遥稀がいないのに参加する意味なんてほぼない。
「え、いや、遥稀だけ仲間外れってそんなの、」
「本当に気にしてない。軍資金が増えただけだから」
「軍資金...?」
予想外の言葉が出てきた。
クリスマスパーティーからどうやったらそんな飛躍した言葉が出てくるんだ?
俺が考えていると遥稀も何かを考えこんでいた。遥稀との会話は突飛な話題が飛び出してくるから楽しいではあるが、時折本当に意味の分からない話題になるから困ることもある。
要と女性キャラクターの髪型で何が至高かを真面目な顔で討論していた時も正直ついていけなかった。
だが、今の遥稀はとても真剣な表情をしている。きっと難しいことを考えているに違いない。
「遥稀?」
俺が声を掛けると非常に真剣な顔で遥稀は言葉をつづった。
「蒼、あの、来週の土曜日って空いてる?」
「え、あ、えっと?」
思いがけない言葉に俺の脳は一瞬バグった。これは、もしかして、遥稀からデートの誘いか?
「買い物、付き合ってほしい。まいにクリスマスプレゼントあげたいから手伝ってほしい」
その一言で瞬時に冷静になった。うん、まあ、そっか。遥稀にとって1番はまいだし。デートの認識ではないよな。知ってた。にしも、まいか...。俺が行く必要ないのでは...?
「あ、まいの、プレゼント選び...それなら、女子を誘った方が良いんじゃないか?」
いや、別に拗ねているわけではない。ただ、女子の好みはよくわからないから俺よりも適任がいるのではないかという話だ。
決して、遥稀にとっての1番がまいであるという現実に打ちのめされてメンタルが若干削られたというわけではない。決して。
「あ、いや、蒼のも選びたくて、ごめん、予定があったなら無理にとは、」
しまった、言い方が少し冷たかっただろうか。いくら少し拗ねたからと言って遥稀をしょんぼりさせたいわけではなかったのに。いや、それよりも重要なことがある。
「え?俺の?」
聞き間違えでなければ遥稀は俺のプレゼントも選びたいと言っていた。念のため確認をするために聞き返す。すると、遥稀は少ししょんぼりとした様子で話してくれた。
「う、うん、いつもお世話になってるから。でも、蒼の好きなものわかんないし、どうせなら好きなものの方が良いかなって」
「ちょうど空いているから行くか」
遥稀が提案をなかったことにする前に爆速で答える。食い気味で行ったことを自覚して少しだけ恥ずかしかったけど、その様子を見て遥稀が笑ってくれたからいいだろう。
ついでに遥稀はポップアップショップにも行きたいと話してくれた。好きな作品ではあるものの1人で行くには多少の勇気がいるため俺を誘ったとのこと。
まあ、遥稀に薦められて俺も面白いと思っていた作品だからいいけど。
それよりも、これはもうデートと言っても過言ではないのでは?
遥稀も予定を楽しみにしているみたいで俺も嬉しくなる。
どういう店を中心に回りたいかを案だししながら俺たちは授業へと急いだ。




