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癒しの木  作者:
せめてあなたに優しい風を
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 2学期になっても俺は遥稀の隣の席を死守し続けた。できるだけ遥稀が嫌な思いをするのを減らしたいと思う気持ちが半分、遥稀の隣が居心地が良いのが半分。

 あれからまいからしばらく警戒をされ続けたものの、どうにか警戒心を解くことに成功した。遥稀にとって有害な存在ではないことが証明されたらしい。


「...。蒼、どうしたの?」

「いや、その本面白い?」

「え、うん、なんで?」

「楽しそうに読んでたからおすすめしてよかったなって。その本の作者の他の作品も面白くて、」


 何度目かわからない話をする時、遥稀は少しだけほおを緩めて話を聞いてくれる。話が終わると遥稀は少し頷いてまた本に視線を向けた。

 遥稀は本と向き合う時間が増えたように感じられる。休み時間も話しかけない限りはずっと読書を続けている。物語の中へと逃げているように見えるその様子が少しだけ心配だった。

 もちろん、そんな風に過ごすのが楽で救いになるのならば俺に止める権利はない。でも、読書を中断したり、読む前までがとても辛そうにしているのが気にかかる。



 遥稀のそんな様子が一気に崩れたのは俺がしばらく学校を休んでからだった。

 季節外れのインフルエンザで休んだ後、登校すると遥稀はうつろな瞳をして席に座っていた。


「遥稀、おはよう」

「...蒼、おはよう」


 できるだけ、いつも通りに挨拶をするも遥稀の声に覇気はなかった。聞こえはするけどその声は直ぐに沈んで溶けてしまった。


「元気ないな?何かあったか?」

「何もない...。これ、休んでた分のノート」

「あ、ありがとう。...。遥稀...?」


 普段以上にぼんやりした様子に非常に疲れた表情。

 すべての感情を削ぎ落したような雰囲気。見ていて痛々しい遥稀に俺は胸が痛くなった。何かあったのは明白で俺が休んでいる間に、俺がそばにいない間に傷つけられてしまったんだ。

 そして、小声で何かを呟いている。会話のように聞こえるけど支離滅裂で。隣にいなければ聞こえないようなそんな言葉。まるで呪詛のようだ。

 遥稀は自分自身に呪いをかけているように見えた。

 情けないけれど、俺1人の手には負えないことはわかった。遥稀が1番信頼していて寄りかかることのできる相手は悔しいことに1人しかいない。


「ハル、大丈夫?」


 放課後、どうにかまいを捕まえて遥稀のもとへと連れて行った。俺が話しかけたことに僅かばかり嫌そうな顔をしたけど遥稀の様子を知ると短く舌打ちをしてついてきてくれた。


「...まい.、..。うん、...だいじょうぶ...」


 ぼんやりとした受け答え。単語の意味をなさないただの音を遥稀は発した。大丈夫じゃないのは見ているこっちがよくわかっている。


「...そんなわけないでしょ」


 遥稀は虚ろな視線をまいに向けた。


「蒼くんに聞いたよ。元気がなくていつもよりぼんやりしていて危なっかしいって」

「えっと...。」


 まいの少し怒ったような声音に遥稀ははっと瞳に光を写した。そして、困ったように視線を彷徨わせる。迷子のような不安そうな瞳。

 ただ、それも一瞬で切り替わった。急に頭を抑えて、何かを呟いた後に自らの頭を殴りつけた。何度も、何度も。


「ハル?」


 まいは困惑したように遥稀に声を掛けた。でも、遥稀の行動は止まることはない。虚ろは瞳で手を握り、その拳を自らの頭に打ち付ける。

 虚ろな中に見えたのは恐怖と悲しみ、そして絶望だった。


「ハル!やめて!」

「エ...?」

「ハル、大丈夫、もう、大丈夫だから...」


 まいが遥稀を包み込むと遥稀は動きを止めた。虚ろな瞳に振借りが宿っていく。そして、安心したのかまいに身を預け静かに目を閉じた。

 その間、まいは遥稀を安心させるようにその頭を労わるように優しく撫で続ける。


「ハル、落ち着いた?」

「...うん」」


 遥稀の身体から力が抜けて行く様子を見て、俺は保健室へと走って行った。あれだけ頭を打ち付けていたのならばきっと、正気に戻った時は物凄く痛いはずだ。

 俺はまいにみたいに安心を与える事は出来ない。それなら、今俺にしかできないことをすべきだと判断した。

 保健室の先生には軽く事情を話して氷嚢を貰った。階段の件から心配していたようで氷嚢はあっさりもらうことができた。遥稀がもしも教室にいることが辛いならば保健室登校も視野に入れた提案をしてくれるとの約束もしてくれた。

 遥稀にはこんなにも味方がいるということを少しでも知ってほしい。今は信じれれなくても。俺だって最大の味方であることを伝えたい。


「まい、...たすけて...もう、もう、やだ...」


 俺が教室に戻ると遥稀はまいにSOSを出していた。俺の方に出してほしかった、という気持ちが0ではないが、それでも遥稀がはっきりと助けを求められたことに対して俺もこみ上げてくるものがあった。


「そっか、わかった。ハル、大丈夫だよ。今度は私が絶対に守るから」


 まいも泣きながら答えた。

 そして、俺も心に誓う。今度こそは必ず守ってみせると。フォローだとか庇うなんて表現には逃げない。遥稀がこれ以上傷を負うことがないように守って見せると。自分自身に誓った。


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