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世界は変わらない。私の中の世界が色を帯びても周りの世界は変わらない。
個に世界を変える力なんてないから。世界を変えるのはいつだって数の力で、賛同者がいなければどんな英雄だって何も成すことはできないであろう。英雄たちが踏み出した一歩は何歩目なのだろう。
限りある時間は消費されていき、受験日まであと1週間となった。私に対する嫌がらせが止むことはなく、そのたびに蒼やなおが助け舟を出してくれた。
「遥稀、大丈夫?もしかして眠たい?」
「少しだけ...最近、朝に勉強してるから」
「それじゃあ、夜は早めに寝てるの?」
「うん...眠れなくなるから早めにベッドに入ってる。寝つきもあまり良くないし、何かしてたら余計に眠れなくなりそうで」
「ストレスかもな...カウンセリングの方は上手くいってるのか?」
「わかんない。変な夢を見るのは減ったかも...」
「そんじゃ、あとは学校でのストレスをどうにかしないとって感じか」
あと1週間か...。先生には数学は基礎問題だけを完壁にこなすように言われた。先生いわく、数学で失った点数は他の科目で十分にリカバリーできるらしい。
その事実に担任も数学担当の先生も苦笑いしていた。
「遥稀、過去問だと国・社・英はほぼ満点だったもんね。理科はそこそこできるし、何故ここまで数学との差が開いてるんだろ...」
「そんなの、私が1番知りたい」
「休憩したら基礎のおさらいするからな」
「はーい、蒼せんせー」
今は自習時間に蒼が数学を教えてくれている。基礎力をきちんと身に着けるためには何度も繰り返し問題を解くことが大切らしい。
そこで似たような基礎問題を繰り返し解いている。
「蒼くんも遥稀のために健気だよね」
「別に、遥稀の得意科目は教えてもらってるしこのくらい返すのが当たり前だから。それに、高校行ったら離れ離れだし、今を大切にしたいっていうか、」
「それなら、遥稀と同じ志望校にしたらよかったのに」
「それは、なんか違うじゃん。せっかく知っている人がいないところで頑張りたいって前向きになってるのに俺が邪魔するわけにはいかないだろ」
「その割に第2志望は同じとこだよね」
「偶然だな」
2人が話している間に出された問題を集中して解く。2人に教えてもらってからはケアレスミスが減った気がするし、正答率も上がってきた気がする。
「解けた。どう?」
「うーん、惜しい。あと1問で全問正解だったのに。公式が1つだけ間違ってる。これはこの公式を使ったら答えが出るよ」
「やってみる」
なおに教えてもらった公式を使って再チャレンジする。計算ミスがないかもきちんと確かめて落ち着いて。これで、いいかな。
「うん、正解。公式の見極め方はね、」
説明を聞いて、メモを取ってインプット。家に帰っても復習を欠かさずに行う。公式も忘れないように何度もノートに書き起こす。
「うう...公式をきちんと覚えられる人が凄すぎる...」
「英単語と古文用語をいくつも覚えている方が普通にすごいと思うけどな...」
「物理分野の公式は覚えてるのになんで数学の公式は覚えられないの?謎なんだけど...」
「それな。物理分野は公式教えたらすぐに覚えて使いこないしてたのに...数学だけ...」
そんなの私が1番知りたい謎だけど。
でも、そっか。高校に入ったら頼れる人はいなくなるから、なんでも自分でできるようにならないといけない。2人からきちんと学んで吸収しなければ。
「きちんとできるように頑張る」
「そうだな。でも、本番まではペースを乱さないようにして万全の状態で挑めるようにしないと。だから、いきなり夜更かしして勉強するとかはなしな?体調を崩したら元も子もないし」
「うん。元々夜更かしできないから大丈夫。10時くらいになるとうとうとして何もできなくなるし」
「もしかして、それが私と遥稀の差?」
「なお?」
悲しい顔をして胸元を見てる。なお、大丈夫かな...?
「そうだ、これ」
「なに?」
「御守り。姉ちゃんが前に神社に行って鉛筆買って来たんだよ」
「え、でもそれ、蒼が貰ったものじゃ、」
「俺も同じ日に別のとこで買ったから、俺が買った方は遥稀にあげようと思って。鉛筆はなおにも」
「え、ありがとう。ほら、遥稀も貰ってあげなよ。蒼くんの気持ちなんだから」
「ありがとう。大切にする」
「おう。それじゃあ、もうひと踏ん張りだな」
青色の御守り。大切なものがまた増えてしまった。
教えてくれている2人に報いるためにも頑張らないと。そんな風に決意を固めて今度は2人に教えるべく英語の問題集に私は手を伸ばした。




