19
ひんやりとした空気の中にじんわりとあたたかい何かを感じる。
それが私を温めることはないけれど、それでも少しだけ胸が躍る。キラキラと輝く周囲と薄暗い私の対比は残酷だけれどそれでも眺めて手を伸ばしたくなる。
今はきっとそんな季節。
待ち合わせの時間よりも早くに蒼はいた。
現在は待ち合わせ時間の5分前。私も待たせるのはしのびないと思い早めに家を出たのにそれよりも早くいるとは思わなかった。
お、また女の子に声を掛けられている。これで3組目。さすがのモテっぷり。
やば、気づかれて目が合った。
仕方なく私は観察を終えて蒼のもとへ向かった。
「おはよう」
「いつから見てた?」
「ええっと、今去ったので3組目だから、」
「最初の方から見てたのかよ。見てたなら止めてくれよ」
「さすがに怖いって」
あのキラキラの中に突っ込むのはさすがに気が引ける。怖すぎる。
考え込んでいると視線を感じて蒼に目を向けるとこっちをじっと見ていた。おかしい所でもあるのか、はたまた私の後ろに幽霊か誰かいるのか。
後ろを見ても何もいない。
「どうしたの?なにか変なとこある?」
「あ、いや、私服姿なんか新鮮だと思って。その、そういうの着るんだって」
「そういうのって、これ従姉からのお下がりだよ。結構気に入ってはいるけど」
冬物の襟付きワンピにブーツ。確かに、普段の私からは想像つかない服装なのかもしれない。おしゃれに疎そうとなおに言われたことがあるし。実際、よくわかっていない。
「うん、似合ってる」
「まあ、さすがに人と出かける時くらいは最低限の身だしなみは気を付けないとなって思って」
「そこら辺の気遣いは遥稀らしいな。それじゃあ、普段はどんな格好をしているんだ?」
「普段...パーカーとか?兄ちゃんのお下がりとか、あとは普通にシャツとかが多いかな。ワンピースはあまり着ないかも」
「え、じゃあ、結構今日レア?」
「まあ...そう、なるのかな?」
「服とかそんなに興味ない、とか?」
「んーどうコーディネートしたらいいのかよくわかんないから、困る」
「それじゃあ、時間あったら服も見てみるのはどう?」
蒼が楽しげに言うので了承しておく。私のわがままにも付き合ってもらうわけだし、これくらいは構わないだろう。
話しながら移動している内にいつの間にか目的地にはついていた。まずは、まいのクリスマスプレゼントを選ぶべく雑貨屋へと向かった。
一通り店内を見て回ったけど、何を買うべきか悩む...。頭を悩ませていると蒼が横から遠慮がちに言った。
「プレゼントって意味があるらしいぞ」
「意味?」
「贈るものに込められた意味があるらしくて、例えば、指輪とかだったら愛を誓うとか、絆を深めるとか、」
「指輪はプロポーズの時に渡すもんね。他にもあるの?」
「まあ、あるみたいだな。あんまり気にしすぎない方が良いと思うけど」
「なんで?」
「だって、遥稀がまいに渡すんだから嫌な意味をわざわざ込めたり考えたりしないだろ?向こうだって気にしないで受け取るだろうし」
蒼の言葉には一理ある、でも、悪い意味があるものはできるだけ渡したくないかも。
こういう時に蒼がいてくれてよかった。なんとか絞り込めそうな気がする。
「お、ハンドクリームにするのか?」
「うん、大切に思っているって意味があるんでしょ?まいは大好きで大切な友達だから」
「なるほどな。それで迷ってる理由は?」
「香り。甘い香りは好きそうだけど、まいの普段の匂いとケンカしないかなって」
「普段の、匂い?」
「うん、温かくて少しだけ甘い安心する匂い」
「なるほど...わからん」
蒼は首をかしげている。
普段のまいの匂いと調和がとれてなおかつ、しつこすぎたり苦手に思われない匂いを選ばなければ。
「遥稀はどんな匂いが好きなんだ?」
「私?んー甘い匂いも好きだけど甘すぎるのは苦手かも。あとは、イランイランとか癖の強い匂いも。ウッド系も好きだし、でも、良く買うのは柑橘系かな...?え、何?」
「いや、意外とその方面も詳しいのが意外で」
「あー最近、眠れないことが多いから、その、安眠するために調べてて、アロマとか焚いてるからかな」
「アロマか...リラックスするには良いって聞くよな。後で教えてくれないか?」
蒼の申し出に驚きつつも了承する。確かに、リラックスできる空間を作ることは大切だもんね。
もう一度吟味して、フローラル系の香りの物に決めた。パッケージもかわいいし、喜んでくれるといいな。
ついでに自分のも買えたし、蒼も同じメーカーのを買ってた。最近、静電気と乾燥が気になっていたらしい.。
「いつまで笑ってるんだよ」
「だって、ふふ、彼女さんへのプレゼントですか?素敵ですね、って、ふふ、可愛いパッケージだもんね」
「それは、遥稀のおすすめだって言うから、その、」
「パッケージも可愛いし、使いやすくてオススメなのは本当だよ。使ってみたら?」
「おう、そうしてみる」
脱力したように言って早速使用してみるようだ。
とはいえ、使い慣れていないみたいで出し過ぎて困っている。その姿は面白くて何だか可愛かった。
「出し過ぎだよ。少しちょうだい」
「あ、う、うん、悪い、な」
「ほら、こうやって手に馴染ませて、指先もきちんと塗らないとダメだよ」
余分なクリームを貰いつつむらなく馴染ませていく。うん、良い感じだ。
「どう?あんまりべたつかなくていいでしょ?」
「ああ、えっと、その、うん。遥稀、あのさ、」
「うん?」
「その、誰にでもこういうことしてるのか?」
「こういうことって?」
「ほら、その、ハンドクリームを人に、塗ってあげたり、とか?」
歯切れ悪く蒼が言う。
「あ、ごめん、嫌だった?」
「あ、いや、嫌じゃなくて、その、あんまり男子にはやらない方が良いぞって、その、勘違いするやつとか出てきそうだし」
「勘違い...?」
「あーまあ、ほら、結果的に手を握るわけじゃん?それで、自分に好意があるんじゃないかって、」
「よくわかんないけど、蒼が言うなら気を付ける」
「それならいいや。にしても、これいいな」
さっきのしどろもどろした様子とは打って変わって明るく蒼は言った。
耳は少し赤いけど。
「次は遥稀の行きたかったところだろ?ほら、行こうぜ」
「うん」
蒼はとても頼もしい。まいとは違う安心感を与えてくれる。
安心する空間が終わらなければいいのに。そんな風に、時々思ってしまう。




