17
ぬくもりが無くなった時、私は少しだけ絶望する。
ぬくもりは安心するから。優しいから。良い匂いがするから。心地よいから。温かい空気の匂いが好きだから。
それが無くなった時、少しだけ絶望する。
不安になるから。怖いから。全てが冷たくなる気がするから。
「遅かったな。って、どうした?」
「髪の毛も濡れてるけど、タオル借りる?」
「持ってるから平気。それよりも、学ラン、濡らしたら悪いから、」
「え?ちょ、ちょっとストップ。借りてていいから、な?」
私が返そうとすると蒼が必死に止めてきた。こんな表情を見るのは初めてだ。
「でも...」
「遥稀、制服の中は長袖のインナー着てるよね?」
「え、うん。中までは濡れてないから早めに返して方が、」
「それじゃあ、制服だけ脱いで上から学ランを羽織ってボタンをきちんと留めて。制服は乾きやすい所に置いておこう」
本当に借りたままでいいのだろうか?チラリと蒼の様子を伺うと頷いていた。
「なおの言う通りそれが良いな」
「わかった...」
蒼も言っているのでとりあえず従うことにする。
制服の上だけを脱いでいる時、何故か蒼は顔を反らしていた。別に中に着ているから気にしなくてもいいのに。
いや、こうして相手に気を遣えるからモテるのか。今後の参考にしよう。使える機会はないと思うけど。
それにしても、
「...。やっぱり袖長いし裾も長い」
「丈的には短めのワンピースみたいだよね」
裾の長さはちょうど太ももの下あたり。確かにそう言われるとそうかもしれない。
「...。推しみたいな美少女が着ると可愛い上に庇護欲と支配欲がそそられるのに...。現実は非情...」
「わかる。彼シャツとは彼ジャージは萌える」
普段は見られない格好+チラリズムが非常に良いと思う。
今の私の格好は下は制服のスカートだから普通に制服の上から学ランを借りている格好にしか見えないけれども。
芸能人や2次元キャラでもない一般人がチラリズムを狙ったことろで何にもならないが。
「遥稀と要くんってたまによくわからない会話するよね」
「...現実もなかなか良いと思うけどな...」
「...蒼くん?」
「え、あ、いや、何でも。改めて小さいなって思って」
「ふーん?ねえ、遥稀」
要と彼シャツの魅力について語っているとなおに声を掛けられた。もしかして、会話に混ざりたいとか?
「なに?なお」
「口元を手で押さえてみて」
「え?こう?」
なおに言われた通りのポーズをとる。指先を伸ばしても袖から指が見えることはない。指定されたポーズは指を曲げているので余計に見えない。
幽霊みたいだな。
それにしてもこのポーズは最新刊のヒロインのポーズと通じるものがある。何度も読み返して何度も泣いたシーンが蘇ってくる。覚醒...良き。
「...。今、カシャって音しなかった?」
「あ、バレた。はい、蒼くん。スマホ返すね」
「え、うん」
「何故撮った?」
ジト目でなおを見つめる。怯む様子は全くない。
「なんとなくだよ。蒼くん、最近絵を描くのにハマっているらしくて。ね?」
「ああ、うん、」
理由になっていないし、蒼もあからさまに目を反らしている。絵を描くのに私の写真はいらないと思うのだけど。
「はーい、みんな遅れてごめんね」
講師役の大学生がやって来てこの話題は終わった。
今日の予定を話してから勉強が始まった。




