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真っ白でまっさら。私の夢はいつも同じ風景から始まる。ここが夢の中だと教えてくれる現実味の一切ない世界。
なにもない。まるで本当の私みたい。
夢の中で私は壁に寄りかかって座って周囲を見渡した。
静かで暗すぎなくて明るすぎない。落ち着く空間。
だけど、その優しくて何もない世界はもうすぐ崩壊する。夢の中でどれだけ抗ってもそれは変わらなかった。
今日は地面から融けていった。そして、吸い込まれるようにどこまでも堕ちていく。
今回はどこまで堕ちるのかを他人事のように思考する。
気がつくと私は階段にいた。
よく見覚えのある学校の階段。夢の中だからか普段よりも不気味で恐怖心が煽られる。
赤黒い風景。私の足音だけがその場に響き渡る。私しかいない不気味な学校。
細心の注意を払いながら階段を下っていく。何故か、そうしないといけない気がした。
だけど、足元に集中しすぎていたのが良くなかった。背中に衝撃が走る。
とっさに手すりを掴む。あの日のように。
でも、あの日のように上手くいかなかった。手すりはそんな私の回避行動を嘲笑うかのように握った途端に消えてしまった。
体が反転しながら落ちていく過程で私は階段に立っている人物と目が合った。逆光で顔がはっきりとは見えない。
でも、その人物が笑っていることだけはわかった。そして、その笑い声を聞きながら私は意識を飛ばした。
「ん、」
目を開けると蛍光灯の光が飛び込んできてその眩しさに思わず目を瞑る。
「あ、遥稀おはよう。もういいの?」
「うん...どのくらい寝てた?」
「10分くらいかな?遥稀?」
「ううん、何でもない。ちょっと顔を洗ってくる」
「え、うん...。」
夢見が悪かった。
起きたばかりの頭はまだぼんやりとしている。
顔を洗うために蛇口から水を出そうとしてふと気づく。学ランを借りたままだったことを。
借り物を濡らしてはいけない。そう考え、脱いでから台に置く。そして、制服の袖をまくって冷たい水をすくって顔を洗った。そうすると水の冷たさが頭をすっきりさせてくれた気がした。
顔から落ちてくる水滴は少ししょっぱくて、それを洗い流すためにもう一度水をすくった。
何度か同じ動作を繰り返して落ち着いたころ、戻るのが遅いと心配したのかなおがやって来た。
「遥稀、どうしたの?」
「顔洗ってただけ」
「そうじゃなくて、制服びしょ濡れじゃん」
なおにそう言われて見るとセーラー服のスカーフや胸元が濡れていた。何度も顔を洗ったからだろう。
「カバンにタオルあるから平気」
「そうじゃなくて、まあ、いいや。とりあえず借りた学ランはおって!」
なおにそう促されて言われるがままに学ランを羽織った。
少し前まではとても温かかったのに学ランはもう冷たくなっていた。




