12
あたたかくて幸せな陽だまり。雲がさしてしまえばそこは冷たくなってしまうことは知っていた。
でも、私はそのことから目を背けて知らんぷりをしていた。
そんなことは許されないのに。
ある日を境に私の温かな夢は醒めて冷たい日常へと引きずり戻された。
今までの日々が本当に夢だったのではないだろうかと思えるほどその温度差は明らかだった。
3階の窓から外を見るたびに鳥のように飛んで空気のように消えてしまいたいと思うようになってしまった。
「遥稀、おはよう」
「...蒼、おはよう」
「元気ないな?何かあったか?」
「何もない...。これ、休んでた分のノート」
「あ、ありがとう。...。遥稀...?」
頭がぼんやりする。
知らない声が頭の中で私を攻撃する。声を消したくて、家で1人の時に自らの手で頭を何度も殴った。
でも、そんな私の行動を嘲笑うように、声はさらに酷い言葉を私に浴びせた。
日に日に体のいろんな部分の感覚が鈍く、温度が低くなっていっているような気がする。
「ハル、大丈夫?」
「...まい、...。うん、...だいじょうぶ...」
「...そんなわけないでしょ」
気がつくともう放課後になっていた。
目の前には少し怒った表情のまいと心配したような表情の蒼がいた。
「蒼くんに聞いたよ。元気がなくていつもよりぼんやりしていて危なっかしいって」
「えっと、」
どうしよう...。1日を過ごしていたはずなのに頭の中に靄がかかっているみたいで思い出せない。授業も私じゃない誰かが受けていて、私はそれを俯瞰で見ている感覚...。
あ、また、頭の中で悪口が響き始めた...。頭が、イタイ...。
「ハル?」
消さないと、声を消さないと。早く、はやく、ハヤク、でないと、頭がおかしくなる。
頭に鈍い痛みが走る。気を失いさえすれば、きっと楽になれる。
あと何発か殴ればきっと、キット...
「ハル!やめて!」
「エ...?」
「ハル、大丈夫、もう、大丈夫だから...」
頭と手が痛い。
まいは私を包み込んで優しく頭を撫でた。失った温度が戻って靄が晴れていくみたい...。
私は優しいぬくもりに身を任せて目を閉じた。その間もまいは私を強く抱きしめて頭を撫で続けた。
「ハル、落ち着いた?」
「...うん」
少ししてまいがそう声を掛けた。
「大丈夫、大丈夫だからね」
体は力が入っては抜けてを繰り返している。
私は平気、大丈夫だよ。そう伝えたいのに、口は動くのに言葉が出てこない。
「...。まい、」
「ハル、なに?」
私は平気、大丈夫。だから、心配しないで。そう伝えよう。
そしたらきっと、安心してくれる。面倒ごとに巻き込まなくて済む。
心の痛みは少しの間我慢したら感じなくなる。だから、
「まい、...たすけて...もう、もう、やだ...」
ちがう、こんなことが言いたいんじゃない。
弱音は吐かないって決めたのに。弱音なんて、泣き言なんていらないのに。
「そっか、わかった。ハル、大丈夫だよ。今度は私が絶対に守るから」
最後の方はまいも涙声でうまく聞き取れなかった。
まいに強く抱きしめられ、その腕の中で情けなく泣いた。
涙なんて枯れたと思っていたのに次から次へとあふれ出て止まらない。
そして、いつの間にか日は傾いて下校時刻になっていた。




