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癒しの木  作者:
枝は折られた
26/120

11

 手を伸ばした先にあった陽だまりはあたたかくて凍った心を溶かしていった。

 触れている間はあたたかくて私の全てを許してくれているようなそんな安心するようなぬくもり。

 失ってしまったらもう2度と立ち上がることはできないのはわかってる。それでも求めてしまう。

 優しい日の光を。





 まいに打ち明けたあの日からまいはよく私のクラスを訪れるようになった。

 大抵は他愛のない話をして帰っていく。そんな時間が私は大好きだった。


「遥稀とまいちゃんって仲良かったんだね」

「あ、うん」


 なおが意外そうにそう言った。そっか。なおは私とまいが話しているところをあまり見たことがないから意外に思っているのかもしれない。


「ね?タイプ違いすぎだよね。クラスの中心にいるような子が真ん中どころか端の端にいるような子に話しかけるだなんて本当に優しいんだね。同情?あ、それとも点数稼ぎ?遥稀ってばかわいそーまいちゃんのいい子アピールに利用されて、」

「あのさ、まいはさくらに嫌な事でもしたの?」

「は?何急に?」

「あまり勝手なこと言わないで。まいが私に話しかけてくれるのは同情じゃないし点数稼ぎでもない。まいのこと、悪く言わないで」

「は?ウッザ。チビの癖に調子乗らないでよ」

「あ、ちょ、さくら、」


 さすがにまいのことを悪く言われるのは許せなかった。私の大切な友達で、とても優しくて素敵な子だから。

 さくらは拗ねたようにどこかへと行ってしまった。その後をおいかけてなおも。


「あー大丈夫か?お前が切れてんの久しぶりに見たわ。冷静過ぎて逆に怖い」

「遥稀っていう時は結構言うよな。そういうとこ、カッコよくて、その、良いと思うけど」

「ありがとう、蒼」

「お、本持って図書館にでも行くのか?」


 要が私の持った本を数冊指さしてそう言った。要はもう教室に戻るらしい。珍しい。


「うん、今日の放課後は休館らしいから」

「まじ?俺も返さなきゃいけない本が...」

「借りる本も選ぶなら遥稀と一緒に行った方が良いんじゃね?」

「うん、そうする」


 

 図書館へと向かうために階段を下る。

 慎重に、踏み外さないように。


「前から思ってたけど、階段に来ると緊張しているように見えるの、気のせい?」

「...落ちる夢、見たから怖くて」

「なるほど。たまに蹲っていたのはそれか」

「見れれてたんだ...」

「あ、でも、クラスだと多分俺しか知らないと思う。ほら、あまり使われてない階段の方から行くことが多いだろ?」


 蒼は目をそらしながら言った。

 図書館はそれなりに混んでいて返却手続きを手早く終わらせてから借りる本を探す。

 まずは古典コーナーを見て、それから歴史系の本を探そうかと考えていると何故か蒼もついてきた。


「遥稀って古典とかも好きだったっけ?あ、いや、楽しそうに読んでたからおすすめってあるかなって」


 まさか、古典文学に興味を示す人がいるなんて意外だった。

 ここはひとます現代語訳がわかりやすく書かれているシリーズを薦めておこう。

 私が読んでいるのを見て古臭いだの暗いだの言ってくる人もいたのに、それでも読んでみたいだなんて蒼はやっぱり変わってる。これを逃がす手はない。

 その後もいくつかの本棚を見て借りる本を探していく。


「...。あ、」


 棚の1番上。背伸びをしても届きそうにないし脚立も近くにない。仕方がない。


「...。蒼、あの本取って」

「えっと、どれ?」

「1番上の棚の、それ、」

「えっと、これ?」

「うん、ありがとう」


 気になっていた本の続き。人気でなかなか借りることができなかったのにラッキーだ。でも、前に置かれていた場所と違うからきっと戻す時に間違えられたのだろう。


「...なに?」

「いや、そのシリーズって面白い?」

「私は好き。好みは結構分かれると思うけど、ハマる人はハマると思う」

「へー俺も読んでみようかな」

「どれから読んでもいいけど、おすすめは赤から読むと世界観を理解しやすくなるかも」

「なるほど。読んでみる」


 本をパラパラとめくりながら蒼は言った。

 おすすめを否定されることなく一旦は受け入れてもらえるのは嬉しい。蒼は中身をきちんと読んで自分に合うか合わないかを判断できる人だ。

 ハマればきっと似た系統のおすすめも聞きに来てくれるだろう。


「あ、ハル。ハルも本を借りに来たの?」

「うん、まいも?」

「朝読書用の本をね。ね、ハル、何かおすすめってある?」


 私を見つけたまいは嬉しそうのそう声を掛けてくれた。私も嬉しい気持ちになる。

 それにしても、まいにおすすめする本。これはなかなかにハードルの高い問題だ。まいの好きなジャンルは恋愛系。ホラーは薦めずらいし、ラノベも人を選ぶ。


「ハル?」

「...あ、ファンタジー系のオススメなら、」


 少し前に読んだ恋愛要素が薄めだけど入っているシリーズなら多分、大丈夫なはずだ。あらすじを少し話すとまいはその本を探しに行った。目立たない所に置かれていたから多分すぐに借りれると思う。

 去り際に


「ハル、ありがとう」


 と言って頭を優しく撫でて行った。


「...本当に仲いいんだな...。俺、空気だったし」

「確かに、まいは友達が多くていつも人の輪の中心にいるから、私とは正反対だよね」


 まいと私。不釣り合いなのはなんとなく自分でもわかっている。それでも隣に立つことはできなくてもまいの1番の友達にはなれなくても友達でいたいと思うのは贅沢な望みなのかもしれない。


「つーか、俺、一瞬睨まれたような気がする」

「そんなこと、まいはしないと思うけど」


 クラスでのことを心配していたから今も声を掛けてくれたのかもしれない。


「あと、スキンシップとるのも意外」

「え?」

「いや、遥稀は女子特有のそういうの、やらなそうなイメージあったから」

「あ...。クラスではしないかも。する人もいないし」

「クラス外ではやってるの?」

「うん、部活の時とかは後輩がハグしてきてたから。心を許してくれてるみたいで、嬉しいなって。自分からは、その、まい以外は少し怖いけど」

「一応、受け入れる、みたいな?」

「うん、まあ、お互いの好感度が高めで激しくなければ...」

「ギャルゲーか」

「いや、ゲームと現実は、」

「マジレスやめて」

「まあ、...まいは、私にとって特別だから」

「特別...。」

「うん、特別」


 蒼はよくわからないというような表情を浮かべている。でも、それでいいと思う。

 片側から向けられた気持ちはきっと不格好で歪であまり理解されることはないけれど、それでいい。


「それ、遥稀よりもまいの方が感情重そうだけどな」

「え、何それ」

「何でも。本決まったなら戻ろうぜ」

「うん」


 時計を見ると休み時間はもう少しで終わりそうだった。貸し出し手続きをしてまたゆっくりと教室へ戻る。遅刻しない程度に適度に休憩をはさんで心を落ち着かせながら。

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