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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
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 遥稀の相談に乗ってからしばらく経った頃、オレは蒼と近況報告も兼ねつつ映画を見に来ていた。

本当は由愛と見に行きたかったが、予定があると断れてしかたなく予定が合った蒼と来ているだけだ。蒼も遥稀に予定があるからと断られたらしい。


 少し落ち込んでいるのがなんか、かわいそうだ。オレもだけど。


「結局、関係性は変わらないって感じか?」

「いや、変わったよ。だって、遥稀が、俺に多分恋してるって、言ってくれたんだぞ?かなり変わっただろ」


 付き合うことになったと簡潔には聞いていたが、今のところ蒼の気持ちの方が大きいように見えて少し心配になる。

 流れというか、空気に押されたということはないと思うが、大丈夫か?あいつ。「多分」という言葉を付けてはっきりと言い切らないあたりは遥稀らしいと言えばらしいが。蒼もはっきりとした言葉じゃないのに喜んでいるあたり、相性は問題ないのかもしれない。


「まあ、要もありがとうな。俺、かなり焦って告白しちゃったから、遥稀のこと、恐がらせたり、困らせたりしてないかなって、心配だったから」

「ああ、困ってはいたけど。まあ、脳がキャパオーバー起こしてただけだから蒼が悪いわけじゃないと思う」

「それでも、だよ。一瞬、遥稀が消えそうで怖かったんだ。だから、つい、いなくならないでほしくて」

「…遥稀って、そんなに儚い?」


 蒼の言葉を聞いて思わず聞いてしまった。

 周囲の認識とオレの認識にズレがあると知って以来、聞きたかったことだ。周囲が抱く遥稀像とオレが持っている遥稀像はかなりズレているらしい。


「儚い、とは、少し違うけど…なんていうか、たまに、すごく寂しそうな顔するんだよな。別世界を見ているみたいな」


 蒼は考え込んでしまった。遥稀の見え方というものは結構人によって違っている。

 そんな風に考えた方が良い気がする。


「蒼ってさ、いつから遥稀のこと、好きだったんだ?」

「き、急になんだよ?」

「いや、オレ、今まで気づかなかったから」


 オレがそう言うと蒼は不思議な顔をしていた。蒼としては、周囲に結構バレバレでなんなら牽制じみたこともたびたびしていたらしい。なおやまいはもちろん、蒼と同じ高校のクラスメイトにも即バレしたのだとか。


 それなのに気がつかなかったのか…オレは…。


「きっかけ、は、そうだな…。たぶん、中1の時には少し気になってかも」

「結構、早い段階だったんだな?」

「遥稀、自分では地味だって言ってたけど、それなりに注目されてただろ?小さくて守りたくなるとか、不思議な子って感じで」


 蒼に言われても、遥稀が恋愛的にモテていた記憶は特にない。後輩とか、一部女子からは人気があったと思うが、男子からはそこまで話題に上がることも少なかったような。


「まあ、中2までは要が近くにいて、手を出すやつなんていなかったけど。あと、1学年下で入って来た優弥も遥稀に懐いてたじゃん?それもあったみたいでさ」

「優弥はともかく、オレも?全くそんな気はなかったのに?」

「それは、見る側が感じることだろ?外から見たことなんてそんなもんで中の事情は考慮されないんだよ」


 蒼は肩をすくめて言った。もしかすると、蒼はオレのことをライバルとして認識して警戒していたのかもしれない。蒼だけは敵に回したくなかったから誤解が解けてまだ良かった。


「それで、要狙いの一部女子が騒いだり、」

「一部って、さくらだろ。あれは、オレが好きって言うよりも遥稀への憧れが歪んだだけで、」

「よくわかってるじゃん。さくらはそんな感じだけど他にもいたんだよ。そこは、遥稀の部活仲間がどうにかフォローしてたらしいけどな」

「知らなかった…。遥稀も言えばいいのに」

「いや、遥稀も要と付き合ってるのか?って聞かれて即否定して終わらせてたって言ってた。一度否定したら付きまとわれることは少なくなったって言ってたから放置してたんじゃないか?」

「そこは放置するなよな…」


 絶対考えるのがめんどくさくなっただけだ。ついでに遥稀自身にそこまでの被害が出なかったからこれ以上は放っておいてもいいと思ったんだろう。バレンタインになって急にもらえる機会が増えたのはこれが原因かよ。


「まあ、俺としては、要がライバルじゃなくて安心したというか。要とだけは絶対に争いたくないって思ってたし」

「別に争うことはないだろ。遥稀がオレを選ぶことはないんだから」


 オレの言葉に蒼は複雑な表情をしていたが、これは紛れもない事実だ。なにせ、オレは遥稀に男として認識されていないからだ。ついでに、オレが周囲にイケメンだと言われると遥稀はオレの顔をまじまじと見て「要ってイケメン?」と聞いてきた。


 本人に直接聞くのはマジでどうかと思う。


「外から見たらマジで要は強敵に見えたんだって。二人にしかわからない会話とかしてたし」

「あ、あれは…」


 言えない…。グループワークが早く終わって暇だった時に漫画の設定について議論したり、女性キャラクターの服装と髪型について熱く議論を交わしていただなんて。

 蒼にバレているかもしれないが、口に出したくはない。


「あと、俺、遥稀が道場に通ってるって中3になるまでちゃんと知らなかった」

「そんな、拗ねたように言われても…」


 こいつも大概自分の顔の良さを自覚していないのが非常に厄介だ。頬を少し膨らませた間抜け寄りになる顔が絵になるってどういうことだよ。


「そ、そんで、いつ好きだって認識したんだ?遥稀のこと」


 とりあえず話題を逸らすことにした。これ以上、蒼の拗ねや嫉妬の対象にされたくはない。


「い、いつって、それは、中2の時、俺が落ち込んでた時、」

「あ、あの時か。遥稀に泣かされてた、」

「言い方!確かに、遥稀の優しさに泣いたけど、ってか、そこを掘り下げるな。一人でいる時に思い出してたまに情けなくなるんだよ」

「蒼、人間はそうやって強くなるもんだ」

「ぐ、余裕ぶってるのがムカつく」


 蒼は恥ずかしそうにしているが、気持ちは分かる。

 オレも同じ状況で同じことをされたら泣くかもしれない。


「はぁ、あの時、本当に学校に行くのが嫌で。あ、いや、誰も悪くなくて、優しさから慰めてくれてるのは分かってたんだけどさ。なんとなく惨めで、その優しさすら受け取れない自分がどんどん嫌になってたんだよ」


 蒼の言い分は分かる。

 あの時の蒼はあからさまに元気がなかった。


「それなのに、遥稀と要はいつも通り接してくれたじゃん?図書館に新しい本が出たとか、次の問題の解き方教えてくれ、とか。あれ、地味に救われてたんだよな」

「まあ、オレも結構落ち込んだことがあったから気持ちは分かるし。遥稀は蒼のこと、強いから自分で立ち直れるって言ってたからな」

「はは、多分、それなりに時間が経って、練習して自信が持てたら立ち直れてたかもな。だけど、遥稀がいなかったらあそこまで早く立ち直れてなかったよ」

「そうか?遥稀がやったことと言えば、ハンカチ貸して、頭撫でたくらいだろ?完全に泣く子どもを宥めるやり方だろ、それ」

「まあ、そうなんだけど。お疲れ様、とか、ドンマイ、って遥稀は言わなかったんだよ。よくやった、大丈夫。その言葉が嬉しかったというか。あと、頑張って背伸びして頭を撫でるとか、なんか、それだけで安心したんだよな」


 確かに、あの時の遥稀の手つきは優しかった。

 同じ道場に通ってた年下の子を褒める時の手付きに似ていたように思う。


「それで、ようやく、自分を許せる気がしたんだ。精いっぱいやり切ったって、ようやく思えた。でも、もう少し堪能したかったのに、邪魔が入るんだもんな?」


 蒼がじろりこちらを睨んだ。


「あ、あれは、仕方なかったというか、稽古に遅れると怒られるし、オレあの後めっちゃ走ってギリギリだったんだからな」

「ふふ、わかってるって。優弥と要と遥稀が焦ったように走って行ったの見て、涙も引っ込んだし。それに、遥稀のまた明日、って言葉で学校に行くのが少しだけ楽しみになったんだよな」

「それが、好きになったきっかけ?」

「大まかにはな、本当は、遥稀にはもっと笑って中学生活を終えて欲しかったけど」


 蒼は少しだけうつむいて呟いた。


「要、俺はさ、遥稀の笑った顔が1番可愛くて好きなんだよ」

「その気持ちはよくわかる。オレも由愛の笑った顔が一番好きだからな」

「だから、これからはもっと笑ってほしいなって。中3の1年間は遥稀にとってすごく辛いもので、遥稀も、その、もっと笑いたかったって言ってたから。俺にその時間を取り戻させるくらいのことは出来るかわかんないけど」


 それくらいのこと、蒼はもうにやってのけていると思う。


 まいやなおから聞く遥稀の様子や、遥稀から聞く蒼について。蒼は遥稀にとって必要不可欠な存在になっている。それは間違いない。

 人や場所にあまり執着しない遥稀が「蒼の隣は自分が良い」と言い切るくらいには蒼に愛着を持っている。過去に遥稀が抱えた傷がどれほどのものかオレにはわからないけど、蒼といることで少しは癒されているのではないかと思う。


「まあ、蒼はこれからも苦労が絶えないんだろうな」

「それは、まあ、わかってる。はぁ、なんで遥稀はああも厄介な人間に好かれるんだろうな」

「なに?高校の方で何かあったのか?あれ?でも高校違かったよな?」

「遥稀の友だちに出くわした時に牽制じみたことされたんだよ。しかも女子」

「厄介なことになってるな…。マジで人間ブラックホールじゃん、遥稀」


 蒼は肩をすくめて頷いた。


 大型ショッピングモールに来たついでに買い物を提案すると蒼は快く頷いてくれた。オレは由愛の誕生日プレゼントを選びたいし蒼は遥稀の誕生日プレゼントの候補を探したいらしい。遥稀の誕生日はまだまだ先なのに結構なことだ。

 いくつかの店を回りつつ、見て行くも目ぼしいものが見つからない。ふと、目に入った雑貨屋へ入ると、見慣れた人物がいた。


 遥稀だ。声を掛けようとすると、その隣には男子がいた。優弥でなければ、遥稀のお兄さんでもない。どこかで見たことがある気もするが、覚えていない。

 果たして、この光景を見た蒼がどのような反応をするのか考えたくもない。恐ろしい。


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