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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
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「要くん?」

「あ、なんか言ったか?」

「ううん、要くんまで泣きそうな顔してるから、なんでかなって、」

「オレが…?泣きそう…?」


 由愛に言われると、目頭が熱くなってきた気がした。

 理由はなんとなくわかっている。


 まいと同じで、オレも後悔している。もちろん、蒼やまいと同じ気持ちではない。ただ、大切な友人を傷つけていたかもしれない事実が胸に重たくのしかかった。


 遥稀は常に「普通」を切望していた。そのことをよくわかっていたはずなのに、結局オレも周りのやつらと同じように遥稀を「特別な人間」として認識し、観察を続けていた。オレは勝手に自分自身は他のやつらとは違うと思っていた。それなのに、自分でも気づかないうちに同じことをしていた。


 この事実が、恥ずかしくて情けない。


「要くん?大丈夫?」

「あ、ああ。だい、じょうぶ」


 正直、胸が細い針で刺されているみたいに痛い。だけど、これはきっと、遥稀が抱え続けていた痛みを無視した罰だ。


 改めて、遥稀の恐ろしさを痛感した。


 あいつは他人の醜い部分、特に見たくない部分を突き付ける。

最初はまったく突き付けられていることに気がつかない。だけど、最も痛い瞬間はいきなりやってくる。

 気がついてしまったら最後、自己嫌悪と羞恥に襲われる。


 こうなるくらいならば気がつかない方が幸せなのだろうが、そんなことほぼほぼ不可能だ。小さな違和感は徐々に無視できない大きなものへと変わっていく。そこに人間の好奇心が合わさると、自己の破滅へと導かれる。


 少なくとも、心は元の形ではいられなくなる。


 それが、遥稀が本当に恐ろしい理由だ。一見無害そうに見えて確実に人間を壊す方法を持っている。

まいは遥稀の笑顔は向日葵のようだと例えていた。けれど、本質的には鈴蘭や薔薇に近いと思う。より深く知ろうとするとその毒や棘で攻撃してくる。

 それも全く悪気なく。


 本質が表に漏れ出ることが少ないから油断される、そしてまた、同じことを繰り返す。

 蒼はその毒に侵されることなく、棘に傷つけられることなく遥稀の一番近くまで歩み寄ることができた。素直にすごいことだと改めて突き付けられた気分だ。


 さっきまで、頭の片隅でまいが蒼に勝てた可能性も考えていたが結局は無駄だ。 

 最初からだ。いや、蒼と出会う前から勝ち目なんてものは存在していなかった。

 遥稀がまいを大切に思い続ける限り、最後の一線は遥稀自身が無意識に守り続けるのだろう。

 まいを破滅させないために。


「要くん?」

「なんか、今日は疲れたな」

「え?うん?でも、私は楽しかったよ」

「そうか?結局、遥稀の答えの分かり切った相談に乗って、まいの話を聞いただけで、内容的にも、結構重ためというか」

「内容は少し重たかったかもしれないけどね、それでも楽しかったよ。だって、」

「だって?」

「あんなに可愛い遥稀ちゃん、早緑さんの前以外で見たの、始めてだったから」

「遥稀の表情って、そんなに違うのか?」

「もう、全然違うよ。遥稀ちゃんって、人懐っこいように見えて薄い壁を作ってるみたいなんだよね。それが、早緑さんといる時は一気に緩むの。要くんとか清水さんといる時も若干緩んでる気がするけど、早緑さんは特別なんだと思う」


 気がつかなかった。いつだって遥稀は遥稀で何も変わらなかったから。


「要くんも遥稀ちゃんに信頼されててすごいなって思ってたんだよ」

「信頼、されてると思うか?」


 さっき気がついてしまった過ちを考えるとそんな風には思えない。


「だって、要くんと遥稀ちゃんの会話って、私達ではついていけないし、」


 由愛は拗ねたように言った。


「すぐに遥稀ちゃんの元気を取り戻せちゃうし、纏まってない考えを纏めたり。私と清水さんは見てることしかできなかったんだよ?」

「だって、遥稀は意外と考えるのが苦手だし、言語化するのも得意じゃないから、ヒントを貰いつつ解いてくのがいいかと思って、」

「だから、そこだよ。そもそも、ヒントを貰ったくらいで解けるものでもないのに、それを自然にやっちゃうんだもん。遥稀ちゃんだって、質問に正直に答えてたし」

「遥稀もどうにかしたいって思ってたからじゃないか?」


 オレの言葉に由愛は頭を抱えた。


 おかしなことは言っていないはずだ。…そう思いたかったのかもしれない。


 感覚で動く遥稀は考えるよりも行動させる方が良い方向に転びやすい。

 まいを助けた時や、蒼の心を救った時も同じだ。深く考えることも誰かに相談することもなく、行動して良い結果を生み出した。少しは考えて動いてほしい気持ちもあるが、それで何もできなくなったら本末転倒というもの。

 行動で誰かを救ってきた遥稀にはそっちの方が向いている。


「要くん、やっぱり遥稀ちゃんのこと一番理解してるじゃん。羨ましいな…」

「由愛?」

「ほんとに、羨ましい」

「オレは、由愛とか、蒼、美波の、誰かを真っすぐ見れるところがすごく羨ましいよ」

「要くん?」

「近くにいたのに、理解できたと思ってて自惚れてた。遥稀自身が自分のこと理解できてないのに、他人が理解するなんて無理だよな」

「それでも、要くんが一番近い所にいるんだよ。はぁ…早緑さんに早く遥稀ちゃんを夢中にさせてって話したのに」

「え?」

「だって、いくら友達で、仲が良くて私から見ても魅力的な人でも、私的には複雑だもん」

「えっと?」

「要くんは、私の彼氏なのに。要くんを分かってる遥稀ちゃんも、遥稀ちゃんを分かってる要くんも、どっちも羨ましいってこと」


 由愛は拗ねたように言ってオレの手を取った。


「遥稀ちゃんと早緑さんなら大丈夫だよ、きっと」


 そして、微笑んでオレの手を引いて歩き出した。


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