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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
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26

 遥稀を追いかけようとしていたまいを止めて、オレ達は少し思い出話をしていた。具体的には、遥稀との出会いについて。


 まいが語る最初の遥稀はどこか儚げでこの世のものとは思えない不思議さを抱えていたらしい。オレが知らない遥稀とまいは最初に出会っていた。

 懐かしそうに愛おしそうに語るその姿からオレは一つの間違いに気がついてしまった。最初から完全に誤解していたんだ。


 オレも、遥稀も、そして、まい自身も。


 よくよく考えてみると遥稀はともかく、オレは察しが良い方だと思っていた。

 中学の頃の一時期、美波が蒼に好意を抱いてたのもなんとなくわかっていたし、それ以外にも、クラス内で誰が誰を好きとか、そういうのによく気がつく方だった。


 それなのに、今回の蒼の場合は由愛に話を聞いてもどこか現実感がなかった。

 

 当事者である遥稀に話を聞き、遥稀の様子を見ることでようやく現実だと思い知った。思い返してみると、蒼の遥稀に対するアプローチはあからさまだったし、気がつかない遥稀はやはり規格外の鈍さだから置いておくとして、なおとまいが気がついていたのにオレだけが気付かなかったのはやはりおかしい。

 

 つまり、重大な見落としがあった。いや、錯覚に囚われていたと言った方が正確かもしれない。

 オレは、蒼が遥稀に向けている感情を熱い友情の一種、あるいは庇護欲からくる親愛だと思っていた。


 それが間違いだった。


 確かに、遥稀の見た目は幼くて、まとう空気は人を惹きつける。それ故に他人に様々な感情を抱かせやすい。そこから、好意を持ってもおかしくないことは遥稀とその周囲を観察してわかっていたことだった。

 しかし、蒼に対しては全くその気配を感じ取ることは出来なかった。

 オレは、既に蒼が遥稀に対して向けている感情と同じものを遥稀に向けていた人物を知っていたからだ。

 蒼と出会う以前に、いや、オレと出会う以前に遥稀はその感情を向けられていた。それを遥稀は「友情」と認識し、受け取り、オレもまた、「強烈な友情」として見ていた。そこからが間違っていたんだ。

 まいは、遥稀の一番近くで、蒼と同じ気持ちをずっと遥稀に向け続けていた。まい自身も気づかないうちに。


 それに気がついて、まいは今、涙を流している。


「まいは、遥稀のことが、」

「やめて、言わないで…」


 オレの言葉はまいの悲痛な叫びに遮られた。瞳に涙を浮かべながら歯を食いしばっている。今、自分の気持ちに気がついて、理解したと訴えるような表情だった。。これ以上、オレが事実を突きつけることは出来ない。

 してしまったら、まいは今以上に傷つくし、遥稀は心を閉ざしてしまうかもしれない。大切な友達を知らない間に傷づけてしまった、と。


「わかってるの…見ないふりをしてたのは、私だから…」


 まいはゆっくりと遥稀への届かない思いを吐き出した。


 最初は周囲から変わり者と言われ、塞ぎ込んでいたこと。

 話をして心を開いてくれた時の悦び。

 そして、小さい体で必死にまいを庇って立ち、まいを傷つけた者から守ってくれたこと。

 そのどれが、友情を越えた気持ちが伝わってきた。


 蒼を警戒していたのも、遥稀の中三の時のクラスメイトに腹を立てていたのもすべてが納得できる。すべて、遥稀に対する恩義と愛情に溢れていたからだ。

 遥稀はまいのことをすごいと言うけど、まいからすると遥稀こそ唯一無二ですごい人間だったのだろう。

 まいが、今まで自分の気持ちに気がつかなかったのは、最初に見た遥稀の笑顔を壊したくなかったからだと言っていた。


 最初の笑顔、というものがオレにはわからない。オレの記憶だと、遥稀は結構頻繁に笑っていた気がする。好きな漫画のことを話す時も、まいや友達のことを話す時も、美味しいものを食べて喜んでいる時もよく笑っていた。

 まいは遥稀の笑顔が美しいと評しているが、それもよく理解できない。あいつの笑い方は常に感情を解放したような少し子どもっぽいあどけなさを感じさせるものだったから。


「ハルの笑顔は、私の心を温かくしてくれたの。そして、言葉は、心をすくって、世界の、色を、彩度を上げてくれたの…」

「彩度を上げる、か…遥稀ちゃんってすごいんですね。要くん?」

「あ、いや、」


 まいと由愛の会話で先生と話したことを思いだした。

 遥稀が纏う色。演舞の時以外、いや、道場に通う前からも色を纏うことができた。それに一番初めに触れたのはまいだった。

 それは透明になろうともがいていた時よりも鮮烈なものだったのだろう。それを見れなかったことが少し悔しい。


「ずっと、そばにいられると、思ってたのにな…」

「いや、それは無理だろ」

「少しは、慰めなさいよ…要くんの阿保」

「無理だって…」


 まいは泣きながら遥稀への気持ちを吐き出す。


 だけど、それをオレが慰めることはない。オレが慰めたところでまいはうれしくないだろう。そして、なにより、まいのことを救ってきたのはいつも遥稀の阿保みたいに無謀な行動だったから。それはオレにできっこない。


 後悔しても何も変えられない。わかっているけどまいは後悔せずにはいられない。


 もしも、まいが遥稀への思いを自覚して、遥稀が蒼に好意を抱く前だったなら可能性はあったのかもしれない。だが、その未来が来ることはもう二度と訪れない。

 そのことを一番理解しているのはまいだ。だから、痛みを受け入れて向き合わないといけない。

 厳しいことかもしれないが、仕方のないことでもある。

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