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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
110/120

20

 それから、オレと遥稀、蒼の関係は特に変化することなく、2年生へと進級した。

 蒼は月日が増すごとに更に人気に拍車をかけていき、遥稀は遥稀でマイペースに日々を過ごしている。かく言うオレも特段変わったことはなく、過ごしていた、のだが、まさか進級と共に悩みの種が増えるとは思ってもいなかった。


「要くん、移動教室一緒に行かない?」

「いや、寄るとこあるから遠慮しとく」

「それじゃあ、昼休みなんだけど、」

「先生に呼び出されてるから」


 オレは同じクラスになったさくらに付きまとわれていた。


「遥稀、あの子は?」

「ああ。小川さくら。要のことが好きでアタックしては玉砕してる」

「ぎょ、玉砕…」


 遥稀は蒼に解説をしていた。あまりにもドライで端的な説明に蒼は少し引いている。

 同じクラスになった遥稀もさくらの反応に面食らっていた。小学校での「廊下凍らせ事件」などまるでなかったかのように遥稀に話しかけてきたからだ。

 事情を知っている美波も同じく驚いていた。

 「嘘だろ…メンタル太すぎだろ」と。

 なおだけがイマイチ状況を呑み込めていない様子ではあったが、さくらの態度や各々の対応や空気感にある程度察したらしい。


「それにしても、遥稀と同じクラスになれてうれしいなぁ」

「私も美波となおと同じクラスで嬉しい」

「お前の場合は世話してくれるやつが増えて嬉しいだけだろ」

「要、うるさい。苦手科目教えてあげないよ?」

「な、そういうこっちこそ数学の面倒…いや、なんでもないです…」


 同じ手段で対抗しようと思ったが、ダメだった。よくよく考えて見ると遥稀の苦手科目は数学のみ。数学だけならば、蒼やなおも教えることは出来る。詰んだ…。

 いや、むしろなんで苦手科目が数学しかないんだよ。数学が苦手なら理科も苦手であれよ。国・社・英が学年上位なのはまあわかる。何で理科は普通なんだよ。


「あ、春の学力テストの貼り出しって今日だったよね?見に行かないの?」


 なおの問いかけに真っ先に首を振ったのは遥稀だった。


「後でゆっくり見ようかなって。人混み凄そうだし」

「去年、遥稀見に行けなかったもんね。要くんにお願いしてたし」

「美波、世の中にはね、適材適所というものがあって、」

「それで、オレをパシるのはどうかと思いますけどね?遥稀さん?」

「さん付けやめてよ、寒気がする」


 相変わらずオレに対しては容赦がなかった。


「でも、結果って早めに知りたくない?今回は科目も増えてるわけだし」


 進級して行われた科目は5科目。確かに、人によっては順位が大きく変わることだろう。結局、遥稀はなおのお願いに屈して一緒に結果を見に行くことになった。遥稀はなおや美波に甘い所があるらしい。

 非常に羨ましい。



 昨年同様、掲示板の前は賑わっていた。人混みのせいでなかなか結果を見ることができない。


「相変わらずすごい混みようだな…おい、阿保、背伸びしてもお前じゃ見えないからな」

「わかってる、だけど、ふ、希望を捨ててはいけないと思わんかね?要」

「なんだ、その話し方。バランス崩すぞ。あ、言わんこっちゃない」

 少しふらついた遥稀は美波に支えられていた。

「もう、危なっかしいんだから」

「ごめんね、ママ」

「誰がママじゃい、このこの、」

「ほっぺ、伸びちゃう」


 いつものやり取りだ。蒼は初めて見るのか目を丸くしている。


「いつものことだ。気にするな」

「いつものこと?」

「美波は猛獣使いだよな。あの遥稀を簡単にあやせるとは、なかなかやるな」

「要も遥稀に対して結構容赦ないよな…」


 これもいつものことである。


「要、私の順位確認してきて」

「またかよっ。自分で行こうと思わないのか?」

「逆に行けると思ってるのか?人混みに流されて死ぬぞ」

「自信満々に言うな、阿保」

「はいはい、二人ともケンカしないの。いっつも煽り合うんだから」

「これがオレらのコミュニケーションだ」

「そうだよ、美波」

「褒められたことじゃないのわかってるの?そんなんだから変な噂が流れたりするの少しは自覚しなさい」

「いひゃいいひゃい、ごめんなさい、ママ」

「だから、ママじゃないっての、もう」


 怒る素振りをしながら美波は遥稀の頬を堪能している。むしろ、遥稀が他人に対してここまでスキンシップを許していたことが結構驚きというか未だに慣れない部分がある。


「ほら、流されないように手は繋いであげるから一緒に見に行こうね?」

「え?美波、神?」

「大げさ。ほら、なおは逆の手繋いであげて」

「はいはーい」


 和気あいあいと人混みの中に行ってしまったが、その光景はまるで、


「完全に幼稚園児とその家族、」

「蒼、やめろ、それを遥稀が聞いたら恐ろしいことになる」


 今見た面白い光景を払拭すべく、オレたちも自分の順位の確認に向かった。

 今回、オレが100位以内に入っていたのは数学と理科だった。数学が、15位、理科が30位、まあまあの結果だろう。蒼は数学8位、理科10位、それから、社会が20位などさすがというべきかなんなのか。なおもちゃっかり入ってるし。

 そして、驚くべきことに遥稀は理科で50位に入っていた。これは、数学が足を引っ張っても総合ではそこそこ上の方にいるんだろうな。


「要、どうしたんだ?」

「いや、なんか、遥稀に負けてる気がして…」

「いや、まだ全科目見れたわけじゃないから、落ち込むのは…いや、あとは全部遥稀の得意科目か…」


 人混みから少し距離を置いて次が文系科目を見るべく休憩する。

 あいつ、得意科目の中に理科も入れるべきだろ。


「蒼は何でそんなに嬉しそうなんだよ?」

「いや、去年理科を少しだけ遥稀に教えてたから結果出てて嬉しいなって」

「黒幕お前かよ」

「黒幕って失礼だな。交換条件を出されたんだよ。数学以外の苦手科目を教えるから計算式について教えてほしいって」

「あいつ、理科の計算はできるのになんで数学出来ないんだよ…」


 普通に理科の方が厄介な気がする。


「それを俺に聞かれても…」


 蒼も困ったように言った。

 文系科目はオレは社会だけ68位にランクインし、蒼は国語が42位、社会が38位だった。遥稀はさすがというべきか、国語が2位、社会が5位、そして、英語は12位とかなりの好成績を収めていた。去年よりも明らかに順位が上がっている。


「うわっ、勉強の仕方が分からんとの言っていたくせにこの順位かよ…テスト前に教えてもらうか」

「遥稀、すごいな…社会のノート見やすくてわかりやすかったし、テスト、ほぼ無敵なんじゃ」

「これで数学だけできないのは普通に何かのバグなんじゃね?」

「うう、人ごみ、だっしゅつ…」

「遥稀、大丈夫?」

「だいじょばない…」

「はいはい、お疲れ。総合順位までどうにか見れて良かったね」

「遥稀、上の方だったからね…私に付き合わせちゃってごめんね?」

「ううん、平気、なお、25位おめでとう」

「私より高い遥稀に言われるのは少し微妙だけどありがとう。遥稀も15位おめでとう。去年よりも上がっててすごいじゃん」

「ありがとう…数学がかなり足を引っ張ったっぽい」


 なおと遥稀はぐったりとした様子でお互いの健闘をたたえている。それにしても15位か…。ランクインした科目の結果を踏まえると数学がかなり足を引っ張ってるのが分かる。こいつ、数学抜きじゃもっと上まで行けたんだろうな。

 残念なやつめ。


「要と蒼はどうだったの?」

「俺たちは今から見に行くんだよ。おめでとう、遥稀」

「ありがとう、蒼」

「総合順位見てきたならオレらのも見えたんじゃねーの?」

「蒼のは見えた気がするけど、人波に押されてはっきり見えなかった。要は知らん」

「おい、言い方雑だな?」

「順位もなおのところまでしか見に行ってないから全部見えたわけじゃないんだよね」

「なるほどな。ひとまず行ってくるか」


 オレと蒼は先ほどよりも騒がしくなった総合順位の掲示板に向かって足を進めた。

 総合順位の結果を確認したところ、オレはランクインはしているものの、70位という心理的にはなんとも微妙な結果だった。遥稀レベルで高順位につけるとは思っていなかったけど、何とも微妙な気持ちだ。一方の蒼は17位。これも地味に悔しい。


「あ、要が悔しがってる。珍しい」

「え?要悔しがってるのか?全然そんな風には見えないけど」

「ポーカーフェイスが上手いんだよ、要は」


 人混みから脱出して遥稀達と合流すると早速言われてしまった。遥稀以外は気がついていなかったのにバラしやがった。


「悔しいって言っても100位以内に入るだけでかなりすごいことではあるんだけどね…。はあ、なおも遥稀も入ってるのに私だけ…」


 オレが悔しがっている様子に今度は美波が落ち込んでしまった。


「大丈夫だよ。私達と一緒に勉強しよう。ね?遥稀も教えてくれるよね?」

「もちろん。ノートは見やすいって言われたから安心していいよ」

「もう、二人が優しすぎてマジ天使」


 美波はそう言って2人に抱き着いた。なおが天使なのはまだわかる。  

 だが、遥稀は絶対に天使ではないと思う。

 人の傷口に塩を刷り込み、抉ってくるあたりむしろ悪魔だろ。


「…要には苦手科目教えてやんない」


 オレの思考を呼んだのが遥稀が不機嫌そうにつぶやいた。


「遥稀、要くんにも優しくしないとダメでしょ?」

「だ、だって、要、意地悪ばっか言うんだよ、美波」

「いや、意地悪ばっかいうのは遥稀の方だろ。阿保」

「ほら、また意地悪言った。要の阿保」

「どっちもどっちなんだからやめなさい。子どもか」

「中学生はまだ子どもですー」

「開き直らないの、まったく」


 本当にガキだとしみじみ思う。

 蒼は直接被害を受けない位置にいるからか余裕そうに笑っているのも少し腹立つ。いつか、遥稀の理不尽を食らうがいい。

 いつもよりも少し騒がしい中、オレ達は教室へと戻っていった。次こそは勝ってやる。

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