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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
109/120

19

 蒼と遥稀はオレが思っていたよりも早く仲良くなっていた。

 遥稀は蒼が警戒しなくても良い人物だと認めたのか心を開くのが意外と早かったし、蒼は蒼で遥稀の無防備さというか危うさを感じ取ったのだろう。なんだかんだ世話を焼いている。

 しかもその世話の焼き方が紳士的すぎてさらに女子人気を上げている始末。羨ましいし、イケメンってすごいと思わざるを得ない。


「要、落ち込んでどうしたの?」

「いや、何でも…蒼は凄いなって思って」

「はあ?何を今さら」


 オレが落ち込んでいる様子に興味を示した遥稀は内容を聞く前にすぐさま興味を失くしたみたいだ。

 薄情すぎる。


「いいだろ?少しは聞けよ。仲間だろ?」

「しょーがないな。聞くだけ聞くから話してみたら?」

「本を開きながら言うことじゃないだろ。阿保」


 まあ、聞き流してくれてもいいので話せるだけ話してみる。もてない男の僻みってやつを。蒼に聞かれない分まだマシなのかもしれない。

 話し終えると、遥稀は憐れむような視線をオレに向けていた。


「な、なんだよ?その目は」

「いや、要って意外と阿保だよなって思って」

「お前に言われたくないからな?」


 さらにため息まで吐かれた。遺憾だ。阿保に阿保と言われたり鈍感に鈍いと言われるのは悔しい。


「そもそも、蒼と比べること自体がおかしいんだって。違う人間なのにさ」

「それは、確かに、蒼はイケメンでオレとは違うけど、そこまで正論パンチで殴ることはないだろ?」

「解釈が違っていることが分かった。要の阿保」


 また罵倒された。なんだ、こいつ。


「蒼と要ってそもそものタイプというか、系統が違うじゃん」

「タイプ?」

「ほら、蒼は、こう、キラキラというか、あれだ、夏の草原みたいな感じで、要は、えっと、こう、紅葉で彩られた公園のベンチみたいな雰囲気」

「なるほど、よくわからん」


 こいつ、知識を身に着けるごとに比喩が複雑化してやがる。

 オレの言葉に遥稀は必死に脳をフル回転させている。「わかりやすく、わかりやすく」と呟きながら。


「蒼は黒猫で、要はサバトラ」

「猫で例えるな」

「ほ、ほら、猫って、色とか模様とか違くてもそれぞれいいなって思うじゃん?」

「お、おう?今回は勢いで押してくるな?」

「そもそもの種類が違うから比べようがないんだよね」

「何の話してんの?」


 遥稀が必死に説明をしている中で蒼がやって来た。これは、この難解な比喩を解読するのに協力してくれるかもしれない。


「遥稀が蒼は夏の草原とか黒猫みたいで、オレは紅葉がいっぱい乗ったベンチとかサバトラの猫とかってよくわからないことを言いだしてな」

「え、えっと?」


 いきなりすぎて蒼も困惑してしまった。


「要が落ち込んでた」

「う、うん?」

「比べることないのによくわからんことで落ち込んでるから、」

「つまり、人は違うからそれぞれいい面があるってことを言おうとした、?ってこと?」

「おお!蒼正解」

「マジかよ…」


 蒼は遥稀の言いたいことを汲み取ってしまった。この中でのマイノリティはオレ、だと?


「そういう時は遥稀の思う、要のいい所を教えたらいいんじゃないか?」

「要のいい所…?」


 遥稀が黙り込んでしまった…。

 考えて見ると、直接誉め言葉というものを遥稀からもらったことはあまりないかもしれない。期待を込めた視線を送るが、遥稀は何も言わない。


「え?もしかして、思いつかない…?」


 蒼が困ったように呟いた。それはそれで地味にショックだ。


「あるはあるけど、要から反論が来そうだなって思って」

「いや、しねーよ、とにかくオレを褒めて自己肯定感を上げてくれ」

「横暴な…。えっと、まず、意外と面倒見がいい。小さい子に優しい、あと、意外と向上心とか改善意識が高い。言語化とか分析が上手いし、目標設定とかも上手い方だと思う」

 遥稀の口から出てくるオレのいい所、嬉しいような恥ずかしいような。くすぐったい気分になる。

「あと、一番良いと思う所、それは、」

「それは?」

「変人で面白い。とてもまともな人間とは思えない」

「お前、褒める気ないだろ」

「そんなことないよ。煽るとすぐ反応するガキっぽい所もいいよね」

「お前…」

「でも、そういう真っすぐな所、そこが1番の長所じゃない?蒼は?要のいい所教えてあげなよ」

「遥稀にほぼほぼ言われちゃったな…」


 蒼は頬を掻きながら言った。


「まあ、変なところで落ち込むなんてらしくないと。要はさ、自分では気づいてないけどすごいところある。私や蒼に負けないくらいに」

「それは、お前もだろうが」


 少しムカついたのでオレは遥稀にデコピンをした。それなりに痛かったらしい、遥稀が睨んでくる。今日は少しも怖くない。


「遥稀って要のことよく見てるんだね」


 遥稀が呼ばれて席を外した時、蒼が不意に言った。


「どこまでが本心が分からないけどな…あの阿保は」

「その割に、要嬉しそうだけどな」

「そんなことないって。でも、まあ、あの阿保さ見てたら悩むの阿保らしくなるんだよな」

「なんだそれ…でも、少し羨ましいな」


 蒼はぼんやりと呟いた。その表情が不意に誰かと重なった。見たことがある気がするけど上手く思い出せなくてオレはそのまま流した。

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