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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
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18

 遥稀に上手く乗せられた男子はそれ以来、意気揚々と代表者集会があるたびに率先して参加しているらしい。


 遥稀はそのことには大した興味を持っていないようで、微笑みはするが直接的に何か言う素振りは一向に見せない。美人な先輩の情報に関してもあの一回きりしか話していないし、先輩との仲を取り持つ気もさらさらないらしい。ただ、煩わしい話し合いを速やかに終わらせるための行動だったのだろう。


「日浦、少しいいか?」

「あ、早緑、どうしたんだ?」

「いや、癒木さん、知らないかなって」

「癒木さん?あ、遥稀のことか。あいつそんな苗字だったっけ」

「普段仲良く話してるのになんで忘れてるんだよ」


 話しかけてきた早緑は呆れたように言った。たびたび話すようにはなったが少しだけ心の壁を感じるのはオレだけなのだろうか。


「遥稀がどうしたんだ?多分、隣の教室か図書館だと思うけど」

「次の委員会のペア一緒になったから一応話しとこうと思って…どんな子なのかイマイチわからないし」


 どんな子、か。

 あの一連の流れで早緑が何を感じたのかオレは分からないが、それを抜きにしても遥稀が少し変わっているのはある程度鋭いやつなら察することができる。ただ、「どんな子」と言われると少し難しい。


「早緑から見て遥稀はどんなやつだと思った?」


 なんとなく、聞いてみたくなった。遥稀は周囲から実際どのように見られているのか。


「どんな子って、不思議な子だと思うよ。癒木さんがいると、空気が軽くなるっていうか、柔らかくなるというか、あと、普通の女子とは違うなって、」

「へぇ?どこら辺が?」

「騒がしくないっていうか、すごく普通に接してくれるあたり?」

「あ、騒がれてたもんな…」

「うん、だから、そういう所が新鮮だなって」


 それは、遥稀の興味関心が向いていなかったからだと言ったらショックを受けるだろうか。

 うん、言わないでおこう。あまりにも不憫すぎる。


「日浦はどう思う?」

「オレね…オレは、ってか、要でいいよ、堅苦しい」

「え、いや、わかった。要。俺も蒼でいいよ」


 苗字呼びをやめさせてから改めて考える。「癒木遥稀」という人物について。


 「癒木遥稀」出会ったあの日からやつが変人であるという評価は変わらない。そのおかしさを必死に隠そうとしているのも変人であることの証明となりつつある。ただ、オレの個人的な考えとしては普通の変人と断定してしまうのは少し惜しい気がしてならない。

 現状、好みや強み、弱点は少しずつ分かってはきたが、どのような人間に惹かれるのかは未知数だ。特に自身に対して向けられている感情についてどう認識しているのか、普段の様子や道場での様子からもまったくわからない。


「遥稀は、そうだな…変人で、物凄い阿保だな…うん」

「えっと?」


 蒼が困惑したような声を漏らした。

 やばい、傍から聞くとただの悪口になってしまっただろうか。


「えっと、つまり、そう、侮れないというか、なんだ、常人の感覚では測れない部分があるというか、」

「変わった人ってこと?そんな変な子には見えないけど」

「と、とにかく、悪いやつではない。そこは保証する」


 基本的に害悪になるような行動はとらないはずだと信じたい。不器用なだけで。


「あ、要いた」

「遥稀、どこに行ってたんだよ?」

「どこって、図書館行って、美波に捕まってた」


 ウキウキ顔で本を持ってきた遥稀はそう答えた。髪型が変わっているのはそのせいなのだろう。


「あ、これ?フィッシュボーンって言うらしい。魚の骨」


 髪を見過ぎたのか遥稀がそう言って後ろの編み込み部分を見せてきた。確かに、複雑そうに上手く編めている。魚の骨、日本語にすると少し残念な響きだな。


「その本はどうした?」

「あ、そうそう、これを知らせたくて借りてきた。漫画の原作本、全シリーズ揃ってた」

「マジか。続き気になってたんだよな」

「司書の先生が新刊も入れていく予定って言ってた。ラッキー」


 いつの間にか司書の先生と仲良くなっていたらしい。こういうコミュ力はあるのに日常で発揮されないのは残念な部分だよな。


「癒木さん、いいかな?」

「あ、えっと、さ、早緑くん、だよね」


 蒼の声に反応して若干後ずさりつつ遥稀はこちらに確認するように言った。何度か話しているならきちんと覚えてあげて欲しい。仮にもクラスメイトで同じ委員会なのに。


「うん。次の委員会、ペアになったから話しておこうと思って」

「おー真面目だね。よろしく」

「遥稀、お前は蒼の真面目さを少しは見習った方が良いと思う」

「要には言われたくない。あれ?名前呼び?」

「オレたちはもう友達だからな」

「要、友達少ない同盟を裏切ったな」

「なんだよ、そのダサくて不名誉極まりない同盟は?入った覚えないからな?」

「私は友達が少ない。要も友達が少ない。つまり仲間」

「今すぐ解散だ。そんな同盟は。ってか、お前、まいとか美波とかなおとかとは友達だろ」

「だから、少ないって話じゃん。美波はコミュ力高いし、なおは可愛いから友達が多そう。まいに至っては人気者だから友達いっぱいいるもん。私の中で友達が少ない友達は要しかいない」


 随分と不名誉な認識をされていたらしい。悲しい。


 こいつ、自分がどれだけ注目されていて友達になろうと画策している人間がいるのかわかっていないな。

 確かに、オレも遥稀も友達意識のハードルが他よりも高めに設定されている自覚はある。クラスメイト全員と友達になれるだなんて少しも思っていないし、出会って仲良くなってからもし少し警戒してしまう節があるのもわかっている。だからと言ってこんな不名誉な同盟を勝手に結成されているとは思っていなかった。


「ふふ、要の言った通り、癒木さんって少し変わってるね」

「要、いったい何を吹き込んだの?」


 蒼が笑ったのを見て遥稀がオレの方を軽くにらんだ。今回に関してはオレは悪くない。


「うるせー阿保。自業自得だ」

「ひ、ひどい、普段どれだけ要に優しく接していると、」

「アドバイスを求めるたびにボロクソに貶してくるのが優しさだとは思わなかったよ」

「だって、要率直な意見が欲しいって言うじゃん」

「限度があるわ限度が」

「だって、要、姿勢が悪いし」


 開き直りやがった。

 そのやり取りをみてまた蒼は笑った。


「癒木さん、俺と要は友達になったんだ」

「え、うん」


 遥稀は少し何かを考えるようにして蒼に視線を送った。


「要と癒木さんは友達、というか、仲間なんだよね?」

「まあ、うん。仲間、仲間…早緑くんも、仲間に入りたい?」

「正気か?蒼」

「だって、二人のやり取り面白いし、俺も仲間に入れてほしいなって。ダメかな?」


 イケメンの上目遣い。同性ながら凄まじい威力だと思う。

 一方の遥稀はまったく照れていない。それどころか別のことを考えていそうだ。


「早緑くんも友達少ないの?」


 そして、あまりにも直球過ぎる質問をぶつけた。


「うん、少ないよ」


 蒼は今度は真剣な表情をして遥稀を見つめる。その瞳には寂しさが宿っていた。


「まあ、要の友達なら悪い人じゃないよね。悪い人だったら要に全責任を押し付けられるし」

「おい、」


 一瞬、感動的な言葉の後に恐ろしいことを言っている気がした。気のせいだと信じたい。


「いいよ、早緑くんも仲間。今日から友達だね」

「え、いいの?」

「え?そっちから言い出したんじゃん。よろしく。私、癒木遥稀」

「それは知ってる」

「蒼、フルネームを名乗ってやれ。こいつ、多分覚えてない」

「え、あ、早緑、蒼。よろしくね」


 遥稀は蒼のフルネームを聞いて頷いた。


「苗字、長いから蒼って呼ぶ。蒼も私のこと名前でいいよ。さん付けも友達にされると少しぞわぞわする」

「わ、わかった。よろしく、遥稀」


 二人は固く握手を交わしていた。

 感動的なシーンではあるが、所々会話が微妙にズレていて感動的な気分になれない。何故だ。

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