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癒しの木  作者:
ふつうを求めた、オレの友達
107/120

17

 教室に戻ると、今度は後ろの方に人だかりができていた。どうやら、委員会の配属表を見ているらしい。例に漏れず、遥稀は視線でオレに確認してくるように訴えかけていた。

 仕方がないのでその頼みは引き受ける。

 結果に一喜一憂する声が聞こえるが、気にせずに表を眺める。オレは第二希望の美化委員。遥稀は図書委員に配属されていた。

 仮決定のため、今日中に理由を担任に告げれば変更の可能性があると表記されてはいるが、滅多なことで変更は起きないだろう。ついでに同じ委員会に誰がいるのかを確認してからオレは席に戻った。


「どうだった?オレは美化、お前は図書な」

「要が倍率高いって言ってたから心配してたけどラッキー」

「本当にこういう運は良いよな」

「他で悪いからね。ランダムは欲しいのなかなか来ないし、抽選は外れるし」

「物欲センサーだな。諦めろ」

「ひ、ひどい…」




 一部ごねた人間はいたようだが、委員会はこのまま決定となり、各委員会での集まりがあるとのことだった。クラスからそれぞれ一名代表者を出さないといけないらしく、じゃんけんの結果、オレが選ばれ、クラスメイトに押し付けられる形で遥稀も参加することとなった。

 正直面倒ではあるが、仕方がない。遥稀もよく受け入れたものだ。適当な方便を使って逃げ切ると思っていたのに。



「え?逃げなかった理由?んー逃げる理由が特になかったのもあるし、断って摩擦を起こすのもなって、思っただけ。ほら、いろんな人に怖がられてるらしいし」


 遥稀は少し俯いてから笑った。

 ついに自身について流されている噂を耳にしてしまったらしい。オレや美波、なおは出来るだけ話題にしなかったし、聞こえそうになったのを阻止することもあったが無駄だったみたいだ。


「あ、別に気にしてないから、本当に」

 気にしていないようには見えないが、オレにできることはない。

「ま、気楽にいけよ。人の噂も七十五日って言うだろ?そのうち別のことに書き換わるって」

「なに?要慰めてくれてるの?」

「ちげーよ。お前が暗い顔してたらまいとか、美波が怖いんだよ。関係ないのにオレが責められるし」

「二人はそんなことしないと思うけど」


 こいつ、無自覚にもほどがあるだろ。まいには気に掛けられてるし、美波には散々世話されているのに。自分がいろんな人間のいろんな感情を引き寄せていることに全く気がついている様子を見せない。


「ま、要の言う通り気楽に行くよ。考えるのは苦手だし、考えたところでどうにもならないからね」

「阿保は阿保らしく、ってことだな」

「やっぱり、要とは一度きちんと話し合った方が良いか?」

「じょ、冗談だって…。あ、ほら、最近新作のアイスがコンビニで出たらしいな?気にならないか?」

「話題逸らすの下手だな…」


 遥稀はそう言って少し笑った。さっきまでの陰のある笑顔じゃない。そのことにオレは少しほっとした。


 代表者集会といってもそこまで難しいものでも固いものでもなく、各委員会の役割の説明や委員会活動時の当番などの決定などがあるだけだ。

 美化委員は教室の掃除道具の管理や、大掃除の際の道具の準備などが主な役割で通常時はそこまでやることのない楽な委員会だった。

 対して図書委員は昼休みや放課後の貸し出し、返却業務や読書週間に向けた取り組みなど日頃から忙しい方ではあるらしい。とはいえ、各クラスでひと月に二名ほど係を出せばいいらしく、そこが上手く回れば大したことはないと遥稀は話していた。


 そして今、同じ委員会になったクラスメイトに遥稀はどうにか話しかけている。


「うん、それで、係の人を出さないといけなくて、」

「えー?結構めんどくさいんだな。癒木さんやっといてくんない?」

「ずっと私がやるのは難しいかな。図書館の先生が名簿を持ってて偏りのないようにチェックするって言ってたし」

「いや、そこは代表者なんだからさ、」

「ちょっと、遥稀ちゃんに無理やり押し付けといてそれはないでしょ?委員会くらい真面目にやんなさいよ」

「はあ?うるせーな」


 話し合いは上手く進んでいないみたいだ。めんどくささを露骨に出す男子とそれを諫める女子。そして、何を考えているのかよくわからない早緑蒼。


「早緑だって、面倒だと思うだろ?癒木さん、読書好きならいいじゃん。な?オレの分の当番引き受けてよ」

「だから、そういうことができないようになってるってさっき遥稀ちゃんが言ってたでしょ。いい加減にしなさいよ」

「はあ?お前こそ早緑とペアになりたいからって必死過ぎなんだよ」

「な、そ、そんなことないし。私は、その、誰とでも良いって言うか、あ、遥稀ちゃん一緒に組もうよ」

「え、あ、うん、いいけど」


 女子は遥稀の手を握ってそう言った。

 遥稀は心なしか疲れた表情をしている。さっさと終わらせたいのにまったく話が進まないんじゃ仕方がない。


「…そういえば、2年にすごく美人な先輩がいたなぁ」

「癒木さん、それまじ?」


 話が平行線のまま終わりそうにない時、遥稀が何気なく呟いた。そして、その一言に男子が食いついた。


「うん、確か、副委員長の先輩で、手際よく話を進めていてすごかったな」

「そ、その人の当番の日って、」


 先ほどまでまったくやる気を見せなくてなんならサボろうとしていたやつとは思えないほどの変わりようだ。年上の美人に憧れを抱く気持ちはすごくわかる。


「ちらって聞こえたけど、その先輩、真面目にやるべきことをやる人が好きって言ってた気がする」


 ここからは遥稀の独壇場だった。委員会の仕事ではなくどんな先輩がいたかに興味を持たせ、委員会活動という目的ではなく先輩に会えるかもしれないという興味と欲望を刺激している。


 その操作に誰も気がついていない。だからこそ指摘しない。


「へぇ…そっか…。癒木さん、次の代表者集会、オレが参加してもいいか?」

「いいけど、いいの?めんどくさいって、」

「いやいや、やっぱり中学生になったんだし、こういうことはきちんとしないとダメだよな。次からはオレに任せてほしい」


 遥稀の誘導にまんまと乗せられた哀れな男子にオレは少し同情した。

 女子も早緑も呆れながら彼を見ている。


「それじゃあ、よろしくね」


 遥稀は邪気のない笑みを見せた。計算なのか素なのかはわからない。一言いえるのは。完全に場の空気を掌握して相手を意のままに操る。それを自然な形でやってのけたということ。誰も疑問を抱かないように、徹底して。


 果たしてこの凄さに気付いているのはいったいどのくらいいるのだろう。

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