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「要、どうだった?」
元の場所に戻ると、遥稀がすぐに駆け寄って来た。
「国語が3位で社会が8位だった。お前が得意なのは知ってたけどここまでとは思わなかった」
「うん、私もびっくり。要は?」
「オレは数学が二20だな」
「おーさすが」
国語3位で社会8位のやつに褒められてもなんだか微妙な気持ちになるな。
喜んでいいことなんだろうけど。
「総合順位、やはり見えぬ…」
オレの少しの落ち込みを察することなく遥稀は背伸びをしてどうにか総合順位を見ようとしている。結構なことだ。一位は「清水舞依」という名前が見えた。
予想通りというか、優等生は中学に上がっても優等生みたいだ。
「むぅ…総合順位は後ででもいいかも」
「急にどうした?」
すこしすると、遥稀が急に退屈そうにつぶやいた。
「背伸びしすぎて足つりそう。あと、騒がしくなってきたし」
ちらりと一際騒がしくなっているところに視線を向ける。女子の集団が黄色い歓声を上げて盛り上がっている。
廊下を歩いている生徒が何人か驚いたように視線を向けたりあからさまに顔をしかめているのもいる。確かに、異常に盛り上がっている印象があるな。
「順位発表であそこまで盛り上がったり喜んだりできる自信がないから後でひっそりと見ようかと思って」
「な、なるほどな…」
オレも順位高かったからといってあそこまで喜べる自信はない。遥稀の気持ちは分からなくもない。
「それなら、そろそろ教室に戻るか…すげーうるさいし」
「同意」
「あれ?2人とももう戻るの?」
オレたちが離れようとしていると人混みの中から美波となおが顔を出した。
「うん、総合順位は後で見ようかと思って」
「そうなんだ。遥稀、すごかったよ」
「え?なにが?」
「美波、ちゃんと主語を言わないと伝わらないよ。今ね、総合順位を見てきたの。遥稀、18位だったよ」
「そうだったんだ。教えてくれてありがとう」
「あれ?意外とリアクション薄い?」
「なお、遥稀多分、騒がしさと人混みにメンタル削られてるんだと思う」
「え?そうだったの?大丈夫?」
「うん…周囲からの圧が凄くて…」
ちっさいからか、遥稀。
心の中でつぶやいた途端、睨まれた。なに?こいつエスパー?
「だから、要くんさっきから声に出てるんだよ。なお、この人が要くんだよ」
「う、うん…」
なんだか警戒されている気がする。
「ああ...。なお、デリカシーのない人が苦手だから…」
「それじゃあ、要のこと苦手かもね」
美波の遠慮がちなセリフがオレの心を僅かばかり抉った。
どうやらオレはデリカシーのない男だと思われているらしい。そして、この中で1番なさそうな遥稀に同意された。実に遺憾だ。
「要、阿保だけど怖い人じゃないから大丈夫だよ」
「阿保に阿保って言われたくねーよ」
「要くん、そういう所だよ。遥稀と付き合いが長いから軽口のやり取りが普通になってると思うけど、傍から見たらたまに、その、」
美波は言葉を選びつつ濁しながら言っているが、大体わかった。ようは怖がられているのだろう。遥稀に対しても最初ぎこちなかったし、小学校であったあの恐さに尾ひれがついて噂が流されているのかもしれない。これは気をつけないといけないな。
「それにしても、結構前の方騒がしいのに行けるって2人ともすごいね」
遥稀がさりげなく話題を逸らしてくれた。それに対して美波となおは苦笑いしている。
「まあ、見てからすぐに抜けてきたからね」
「美波の先導がなかったら危なかったかも。それにしても、早緑くんってすごいんだね」
「早緑、くん?」
「あれ?遥稀たしか同じクラスだったよね?」
「ま、まだ、顔と名前を憶えていないだけ、だから」
「少しはクラスメイトに興味を持ちなさい。この、この、」
「いひゃいいひゃい。ほっぺのびちゃう」
いつもの絡みが始まった。なおは驚きつつも微笑ましげに見ている。
「ふふ、美波、遥稀のほっぺ伸びちゃうよ?」
「餅みたいで気持ちいいんだよね。ごめん、ごめん」
「うう…早緑くん?って有名人?知らないんだけど...」
遥稀はオレにそう疑問を投げかけた。その様子に美波は少し呆れている。
前に少しだけ話したのにもう忘れているとは...。
「遥稀、噂話とか興味ないよね…。まあ、今回はそれでいいかもしれないけど」
「美波?」
「ううん、なんでもない。早緑蒼くん、すっごくカッコいい男の子って女子の間で話題になってるんだよ」
「カッコいい、って、それだけで話題になるの?」
「えっと、まあ、うん。それだけじゃなくてね、ほら、総合順位だって25位で高いって、遥稀の方が高かったか」
早緑蒼のすごさについて説明を試みてはいるが、遥稀がそれを上回ってしまった故か今度は美波が頭を抱えている。いや、100位以内に入るのは普通にすごいことだろ。
「カッコいいで、噂になるなら要も何か噂になってるの?要ってイケメンらしいよ」
「らしいって…まあ、要くんもカッコいい認定されてるけど、」
「へぇ、良かったじゃん、要」
「何がだよ?というか思ってもないことを口にするな。お前、オレのことカッコいいと思ったことないだろ」
「…ないな」
「じっくり考えてから言うな。余計に傷つくわ」
オレの噂が立たない理由は、わかっている。遥稀が目立ちすぎているのと蒼が同じクラスにいるからだ。二人のおかげでオレの存在は霞んでいるに違いない。
一部で恐怖の対象になっている遥稀に、入学前から容姿が整っていると話題になっていた蒼。遥稀の噂に関してはクラス外で認知している人間の方が多いらしい。同じクラスの人間はまず噂の人物か探りを入れつつ普段の様子からあれがデマだったと感じる人が結構な数いてすぐに払拭された。
「ま、まあ、要くんの場合はほら、一部に熱烈なファンと言うか、好意を寄せる人がいるから、その人の話ばっかりで、ね、要くん本人にフォーカスされないというか、」
美波はしどろもどろにそう言った。
熱烈な好意を寄せてくれているなら非常に喜ばしいことではある、美波の口ぶり的にあまりよろしくない方向に向かっているのが伺えた。遥稀はその人物に心当たりがあるのが若干表情が引きつっている。
「要、あんまり気にしすぎない方が良いと思う」
「お、おう?」
「ほら、えっと、良いことも悪いこともあるのが人生というか、」
「急にどうした?気味が悪いな」
「大丈夫大丈夫。極力味方でいるから」
「そこは絶対的な味方でいてくれ」
オレのつぶやきは騒がしさの中に消えていった。




