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翌日、遥稀はやはり遠目に見られていた。居心地が悪そうだけど、気にしても仕方ないと腹を括ったのはマイペースに過ごし始めた。
「遥稀ちゃん、お話しない?」
「あ、えっと、美波、ちゃん?」
だが、遠目で見られている中でも遥稀の引力は働いているようで孤立するということはなかった。
「うん、前から話してみたいって思ってたんだよね」
「わ、私、と?」
「うん。だけど、さくらがずっと隣にいたから話しかけづらくて」
藤井美波は困ったようにそう言った。後ろでその様子を眺めていた何人かも頷いている。
さくらが隣からいなくなったことで話しかけやすさが増したというのは何というか、喜ぶべきなのか憐れむべきなのか。
「それと、美波でいいよ。要くんのこと呼び捨てにしてるでしょ?」
「あ、やっぱり、君付けしないと、へん?」
「そんなことないよ。二人のやり取り見てて面白いし、無理に変えなくてもいいんだよ?」
「そっか。うん、美波って優しいんだね」
「そ、そうかな?なんか照れる」
美波はそう笑いながら遥稀の頭を優しく撫でた。
あまりにも自然過ぎて誰も違和感を抱いていない。え、これは、ツッコむべきなのか?
「あ、ごめんね、つい、」
しばらくして頭を撫でていた美波自身が気付いて動きを止めた。
「へ、平気。その、わるくない」
「ほんと?なんか、見てると癒されるんだよね。それでつい、撫でたくなっちゃって、」
「あにまるせらぴー?」
「そんな感じ!遥稀って面白いね」
「そ、そうかなぁ?」
なんて手腕だ。あの警戒心の強い遥稀が一気に絆された。あれが包容力と姉力の高さか。
「ほんとに小っちゃくて可愛い」
「ち、小っちゃいはやだ。おっきくなる予定だから」
「そっか。ほっぺも柔らかい。むにむに」
「むぅ、」
そして、されるがままの遥稀。これは実に珍しい光景だ。
普段は人を振り回して意のままに空気をコントロールしているように見えるのに、他者に身を委ねてなすがままになっている。
つーか、こいつオレが小さいとか言ったらキレてくるのに何だこの差は。差別か?差別だな。それにしても餅みたいに柔らかそうだな。
休み時間のたびに美波は遥稀に構い倒していた。遥稀は驚きつつもそれを嬉しそうに受け入れていて、久しぶりに道場以外で肩の力を抜いた様子を見た気がする。
「美波、って面白いね。もっと早く仲良くなればよかった」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しい。でも、遥稀に話しかけるのって結構勇気がいるんだよ?」
「そう、なの?」
「大人しいから迷惑じゃないかな?とか、恐がられないかな?とか。」
「びっくりはするけど、迷惑じゃない。私、人見知りで、どうやって話しかけたらいいかわからなくて、」
「そっか。そういう時はね、ニコニコしてたらいいんだよ」
「ニコニコ?」
「うん。楽しそうな空気を醸しだすの。そしたらきっと、誰かしら話しかけると思うんだ。笑ってた方が楽しいし、楽しい方が嬉しいでしょ?」
「うん」
美波は優しく諭すように遥稀に話した。
美波と話している遥稀は楽しそうで自然と他の人も寄ってくる。道場での強さでも教室での弱々しさとは違う、穏やかで優しい空気。笑うことで遥稀はその空気をいとも簡単に作り出した。
「あれ?癒木って、普段あんな感じだったっけ?」
「癒木さん、なんか、可愛いよね」
「ね?やっぱりさくらちゃんが無理させてたからじゃない?」
「そうかも。私も話してみようかな」
徐々に遥稀に興味を持つ人間も増えてきた。遥稀は最初驚きつつも嬉しそうに会話をしている。
まだ一部その様子を睨んでいるのもいるけど取るに足らない問題なのだろう。ゆっくりと遥稀は前へと歩き出した。




