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第35話 炎と濡れ衣

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 無数の悲鳴が響いた。

 赤く激しく燃える炎が,人々を包み込む。

 為す術の無い僕達は,それを呆然と眺めていた。


「__助けなきゃっ」

 誰よりも早く正気に戻ったリリーが駆け出す。

 咄嗟に連携を取ったリベが障壁を消し,熱風が押し寄せた。

 その中を突き進み,リリーは逃げ遅れた人々の方に駆け寄る。

 屋根の上のヒロ君は,僕に視線で何かを合図した。

(……オレはコイツを引き付けておくから__まではわかるんだけど)

 彼は僕に,何を求めているんだろう。


 僕が微動だにせず眺めていると,状況がどんどん変化しているのがわかった。

 水や氷の魔法を使えないリベ達が炎に苦戦しており,魔法の障壁を自分の周囲に張って進んでいる。

 炎の中で悪餓鬼集団を見つけたのか,二人が叫ぶように会話していた。

 一瞬,リベの懇願するような視線が向く。

 唐突に自分のやるべきことを理解した僕は,大きく剣を振った。

 すると,渦巻いていた炎が剣に吸収される。

 使用されていた炎は元は僕の魔力なので,此方に馴染むのだ。


 炎が晴れたことで,惨状が明らかになる。

 僕の炎は対人用ではないので,人的被害は少なかったようだ。

 それでも家々は焼け落ち,残っていた人々は喉を押さえて呻いている。

「誰かっ! あそこに子供が……!」

 突如,女性の悲鳴のような声が響いた。

 彼女が指差した方に視線を向けると,子供が崩れ落ちて燃える家の下敷きになっている。

 よく見ると,それは悪餓鬼集団の筆頭格の少年だった。

 取り巻き二人が慌てふためく中で,リリーが駆け寄って鎮火を始める。

 魔力を吸収すれば炎が消えることに気付いたらしい。

「……悪いな。君は()()()()()なんだ」

 頭上から,声が降った。

 ヒロ君を振り切ったラオネールが,意味有りげに口角を上げて笑う。

 その意味を理解する前に,彼が腕を振った。

 僕から奪った炎が再び渦巻き,少年を更に瓦礫が覆う。

「____!!」

 周囲から声にならない悲鳴が上がった。


 瓦礫の隙間から,少年の腕しか見えない。

 先程まで聞こえていた苦しげな声が,やがて途絶えた。


(……()()()()()? ……真逆)

 僕の中で,幾つもの不可解な点が繋がる。


 内通者。ローブの少年。サンクチュアリー。

 盗られた炎。無数の野次馬。悪餓鬼集団。


 無数の点は,一つの結論に辿り着く。


 “嵌められた”。


 気付いた時にはもう遅い。

 冷たく嗤うラオネールの姿は消えていた。

 殆ど屋根の上にいた彼の姿は,野次馬達には見えなかっただろう。

 そもそも大多数の人間は,サンクチュアリーという極悪組織を知らない。

 何より重要なのが,この惨事に使用されたのは僕の炎だという事実。


 次第に状況を理解した人々が叫んだ。

「人殺し!」

「最低だ!」

 彼等は,最初の僕達と悪餓鬼集団の接触を見ている。

 彼等の目には,こう映るだろう。

 “生意気な子供達を殺した,最悪な冒険者”だと。

「違うっ。私達は対サンクチュアリーの」

 そこまで言って,リベの言葉が途切れた。

 対サンクチュアリー冒険者であることは,一般の人間に知らされない。

 上は,サンクチュアリーという存在を知らせたくないから。


 その全てが,仕組まれたパズルのように現実を作っている。

 こうして僕達を嵌めたのは,ラオネールなのだろうか。

(……いや。あの口振りからして,上の人間なんだろうね)

 正直なところ,サンクチュアリーを舐めていたのかもしれない。

 武力行使だけが,戦いの術ではないのだ。


「……行こう。長居は無用だよ」

 僕は,自分の声が冷たいことに気付く。

 それは,よく知る声に酷似していた。

 ヒロ君達が驚いたような表情を浮かべる。

「でも……」

 そう言いかけたリリーが,僕を見て言葉を切った。

 それから,少し辛そうな顔をして小さく続ける。

「……せめて,皇帝さんに言った方が良いんじゃないかな。私達は悪者じゃないって,証明しに行きたい」

 普段は底抜けに明るい声が,震えていた。

 僕は言葉を返しかけて,口を噤む。

 どう考えても,リリーに言うべき言葉ではない。

 何より,主人公(フレイム)らしくなかった。


(……主人公らしさ?)


 自分で自分に困惑を覚えつつ,駆け出した三人に続く。

 後ろの方で,無数の罵声が聞こえた。


 途中で騒ぎを聞きつけた騎士達とすれ違いながら宮殿に向かう。

 騎士から見れば,僕達は対サンクチュアリー冒険者だ。

 故に疑いもせず,視線すら向けない。


 宮殿の方は,混乱の極みだった。

「あのっ,何かあったんですか?」

 リベが慌てた様子で通りかかった騎士に尋ねる。

「知らないのか!? 皇子殿下が行方不明なんだよ!」

「は……!?」

 騎士はそれだけ言って去って行った。

「……皇子殿下って,あれだよな」

 戦いの途中で,ヒロ君もローブの少年の姿を捉えていたらしい。

 間違いなく,セアリアス皇子は自らの意思で行方を晦ましている。

 そして,このタイミング的にほぼ間違いないのが。

「サンクチュアリーの内通者って,もしかして……」

 リリーが青褪めて呟く。

 信じたくない,と言いたげに頭を左右に振るが,まず間違いないだろう。

 それを含めて報告しに行かなくてはならない。

 僕達はそう判断して,謁見の間に急いだ。



最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:シリアス……。

   今作トップレベルに重いパートに突入しているかもしれない様子です。

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