第36話 交渉
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予め騎士を通じて話しておいたので,皇帝は謁見の間で待っていた。
その隣には憂いを含んだ表情の皇妃が座っている。
対応に追われているのか,後ろ三人は不在だった。
皇妃とは対称的に,普段と変わらぬ様子の皇帝が口を開く。
「此度の件は聞いている。我々が予想もしなかった手口だ」
重々しく告げられた言葉に,僕は僅かに眉を顰めた。
「……内通者がいるとわかっていた時点で,私達が危険因子と判断されることは見えてましたよね?」
珍しくリベが攻撃的な口調で答える。
それに対して,皇帝は首を横に振った。
「いや。これまでにも対サンクチュアリー冒険者はいた。その時は,このような事は無かった」
そう言って,僕達に視線を向ける。
その目は懐疑的で,どこか引っかかるものがあった。
「……オレ達がやったと思ってるんですか?」
ヒロ君が低く唸るように返すと,周囲の騎士の表情が引き攣る。
どこからどう見ても無礼な態度だが,皇帝は軽く頷いた。
「そうだな。アルベル辺りがそう言っていた。アンリエットやアスセーラは否定的だったが」
出てきた名前は,大陸で最も力のある三人である。
こういう時は,色んな人と関わっていて良かったと思う。
人脈の重要さに納得しながら,僕は意識を目の前に戻した。
「まぁ,我は其方等を疑ってはいない。だが,皇妃は尋ねたいことがあるようだ」
皇帝がそう言うと,皇妃が立ち上がって段を降りる。
僕達の前に来てから,祈るように視線を向けた。
「……皆様は,セアリアスの動向をご存知だったでしょう? 今回何故いなくなったのか,わかるのではなくて?」
切羽詰まった様子に,此方が困惑する。
だが,困惑したのは僕だけだったようだ。
三人は少し考えるように間を空ける。
「……フレイム,言って良いと思う?」
何故かヒロ君が小声で僕に尋ねてきた。
何で僕? という視線を向けるが,特に効果はないらしい。
仕方なく小さく頷いてみせた。
酷いようかもしれないが,少しでも皇族からの信頼を得るために,嘘はつけない。
ヒロ君は一度逡巡したあと,淡々と語り始めた。
皇帝直轄領の街で,冒険者に扮した彼に出会ったこと。
宿屋の主人に秘密裏に会おうとしていたこと。
先程の騒動の時にいたこと。
イレックスに関しての謎発言も念の為伝えておく。
皇妃は目を見開いた状態で固まり,皇帝は静かに聞いていた。
謎発言のところで,一瞬だけ皇帝が眉を上げる。
だが,それ以上の反応はない。
「……つまり,アリーは自分から姿を消したということですか?」
震えた声で問う皇妃に,僕は小さく頷く。
それから,蛇足かもしれないと思いながら続けた。
「恐らく,内通者というのも皇子殿下かと。元々繋がっていたのかもしれません」
あの子に限ってそんなことを,と言いたげな表情だが,皇妃は反論材料がないのだろう。
彼の中の何が捻じ曲がってこんなことなったのかは知らない。
でも,原因はわかる気がした。
「僕達が知っているのはこれだけです」
リリー達が余計なことを言わないように,早々に発言権を返す。
皇帝は何か考えるように視線を伏せていた。
わざとらしい間を空けてから,瞳に冷たい光を浮かべる。
「セアリアスから皇位継承権を剥奪する。今後の行動によっては,皇族からの追放も視野に入れる」
周囲が息を呑んだ。
皇妃が驚愕したように口を開きかけるが,発言権はない。
命を取られないだけでマシだと思うのは,薄情だろうか。
それはともかく,皇帝の発言には疑問が残る。
やけに,あっさりしている気がするのだ。
まるで,初めから決定していたことを実行するだけ,のような。
同時に,皇帝の養女であるアンリエットさんを思い出す。
(……これだから,陰謀とかそういうのは嫌いなんだよな。ややこしいし,考えたくもない)
当の本人達はどう思うんだろうか。
アンリエットさんが野心云々の前に,皇子を兄として慕っていたのは事実だろう。
暗い気持ちになった僕に気付かず,ヒロ君は少し困ったように発言した。
「あの,セアリアス殿下が操られているという可能性はないんですか?」
「否定は出来ない。だが,本人がいない以上,判断することも出来ないだろう」
皇帝の言葉は拒絶的で冷たい。
確かにその態度は,国を統べる者としては素晴らしいだろう。
だからか,妙に癇に障る。
なんとなく,既視感があった。
(……子が子なら,親も親だ)
どうにでもなれば良い,と思ってしまう。
所謂,魔が差したという奴だ。
「……では,僕達が公認の冒険者として,皇子を捜索するというのはどうでしょうか?」
低温の笑みを浮かべて告げると,皇帝が僅かに眉を上げる。
「だが,其方等は今や世間の敵だ。そう簡単に動けるものではない」
その答えは予想済みだ。
「だからです。行方不明になってしまった皇子殿下を捜索する。そういう大義名分を頂けば,我々は動きやすくなります」
「え? 何で?」
頭に疑問符を浮かべていたリリーが思わず呟く。
僕はそれに答えるように,皇帝に向かって続けた。
「そうすれば,僕達が皇族に認められた冒険者であり,“人殺しの冒険者”ではなくなる。対サンクチュアリーとしても動きやすくなるでしょう」
正直に言うと,殆どは僕達のためである。
名誉回復が一番の大きな理由だ。
前の僕なら,自分の利益を第一優先にしたかもしれない。
ただ何と言うか,主人公三人の真摯な思いは心に響くものがある。
アニメを見ている時は,周囲の人の態度がご都合主義過ぎるだと思っていたが,少し理解できた。
彼等には,邪気というものが欠片もない。
それこそ,太陽のようだった。
僕が言葉を切ると,皇帝は軽く目を伏せる。
それから少し経って,少し期待外れだと言いたげな表情を浮かべた。
「良かろう。皇帝の名において,第一王子セアリアスの捜索を任ずる」
(……うわっ,めっちゃ嫌そうな顔してる。政治,お疲れ様ですって感じ)
これから貴族達への対応に追われるのだろう。
皇帝には若干苦手意識が芽生えてしまったので,良い気味だとか思わないでもない。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:終わり方がキレ悪し。
多分今回,フレイムの目のハイライトが家出してます。




