第34話 盗られた炎
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僕がローブを纏った人物に気を取られている間に,ラオネールは懐から何かを取り出す。
掌ほどの大きさの丸いそれは,膨大な魔力を宿していた。
ラオネールは球体を見せびらかすように振ってから,勢いをつけて投げる。
「____逃げてっ!!」
誰よりも速く理解したリベが叫んだ。
だが,それでは遅い。
爆発した球体から火花が散り,薄緑の霧が溢れる。
それらは一瞬で広がり,街を,人々を襲った。
(……これは毒?)
頭痛を感じて,咄嗟に口元を手で覆う。
一瞬の間を置いて,何が起こったのか理解した人々が騒ぎ出した。
喉を押さえ,叫び,混乱したように動き回る。
視線を向ければ,口元に笑みを浮かべて去ろうとするラオネールが見えた。
「待っ……!?」
炎剣を取り出して踏み出すと,目の前を漂っていた火花が突然爆発する。
それを見たラオネールが,わざとらしく驚いたような表情を浮かべた。
「あー,そうか。それ,炎系の魔術に反応するらしいんだよね。相性最悪だなー」
予め知っていたと言わんばかりの口調からして,それを狙っていたのだろう。
皇帝直轄領に来てから僕が炎系の魔術を使ったのは宮殿が最初だ。
考えたくないが,内通者がいるのは宮殿かもしれない。
「……とりあえず皆を避難させてくるね!」
状況を把握したリリーが駆け出して,人々に逃げるよう誘導する。
それを見たリベが,杖を構えて魔術を行使した。
「心機一転!」
軽やかな声とともに,何処からか記号の波が押し寄せる。
一瞬で消え去った波は,同時に薄緑の霧を消し去った。
「おー……リベ姉凄い」
リリーが感嘆したようにその様子を眺めると,リベが苦笑を浮かべる。
「元に戻しただけだから,消したわけじゃないの。そこのところ気をつけてね!」
いまいち理屈はわからないが,多分かなりの大技だったのだろう。
少し面白くなさそうに目を細めたラオネールを逃がすまいと,ヒロ君が屋根の方に走った。
壁を垂直に登るという人間離れした動きを見せつつ,鋭い拳を突きつける。
軽く飛んで躱したラオネールは空中で数度回転し,反対側の屋根に立った。
(……炎が使えないと,この剣は使い物にならないんだよなー……)
僕の剣は,普段は炎の魔術を纏わせているものの,元々の性質が火である。
でなければ『炎剣』という名前がつくわけがない。
性質が火ということは,常に炎と同質の状態なのだ。
それを持って動き回るのは自殺行為になる。
「……私も手伝ってきた方が良いよね?」
大人しく魔力を回復させていたリベが,屋根の上の戦いを見て呟いた。
リベと誘導作業に当たっていた僕はヒロ君達を一瞥してから,軽く頷く。
音符の形状をした魔力に乗って上がっていったリベから視線を外して,目の前の野次馬達を見た。
大多数は身の危険を感じてリリーの誘導に従っているが,数人__主に悪餓鬼集団が残っている。
「……君達も早く避難してくれない?」
僕が駄目元で問うと,悪餓鬼集団のリーダー格の少年が口を尖らせた。
「やだね! ボク達はお前達が悪者じゃないと認めたわけじゃないからな!」
「そうだそうだ! 怪しい奴は悪いんだぞ!」
子供達の声を耳に入れたリリーが,ダークリリーになりかけている。
ボクがそれを手で示すと,悪餓鬼集団はさっと青褪めてリリーから距離を取った。
それでもここから離れようとはしない。
殆どの野次馬を避難させ終わった頃,ラオネールとヒロ君達の間に変化があった。
轟音が響き,家が丸ごと破壊される。
ヒロ君とリベが弾き飛ばされ,そこを中心に炎が渦巻いていた。
(……炎? って真逆……)
咄嗟に自分の剣を見る。
普段から前もって剣に溜めていた魔力が減っていた。
「……盗まれたってことか」
あのサンクチュアリーは,恐らく相手の魔力を奪う__盗むような魔術を使っている。
リベの杖を盗った感じからして,実際の手癖も悪いのかもしれない。
ただヒロ君にはそこまで優勢ではないので,彼のような物理攻撃は効くのだろう。
(……待って。炎を盗まれたって……不味くない?)
ふと,最悪の予想が浮かんでしまった。
周囲を散る火花。
赤く染まった砂埃。
そして,敵が自由に操る火。
「……! リベ!」
咄嗟に叫ぶと,心得たとばかりにリベが杖を振る。
「音障壁!」
僕がまだ見たことのない魔法が発動し,半透明の障壁が逃げていない人々を覆った。
安心したのも束の間,リベが顔色を変える。
「……ヤバい,盗られそう!」
障壁が大きく揺らぎ,何度か明滅した。
ヒロ君の拳を避け続けるラオネールが,小さく笑う。
「__無駄だよ。そんな魔法では,俺には勝てない」
明滅する障壁をすり抜けたのか,人々の前で火花が散った。
それは一瞬で膨張し,障壁の内部を橙に染める。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ずっっと戦ってますね……。
だいぶ文章がぐるぐるしています。




