第30話 正餐
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「……まぁ君達については,よくわからないということがわかったよ」
セアリアス殿下はそう曖昧に区切って,話を終わらせる。
「父上も何か考えているようだし,多分君達はもう少し此処にいるだろう? また話が出来ると嬉しい」
どうやら彼は,敬意の欠片もない僕達の態度を気に入ったようだ。
何処か晴れやかな笑みを浮かべたセアリアス殿下の前を辞して,部屋に戻る。
お決まりと言っては何だが,夕食はやはり皇族に招かれ,わかりやすく華国との差を見せつけられた。
皇帝は特に何か語ることもなく,まだ若干背後に暗雲が見える皇妃と,その視線を避ける皇子が僕達に会話を振る。
「____じゃあリベラルさんとリリカルさんが,あの桃色音楽姉妹なの?」
「そうなりますね。桃色じゃなくて珊瑚ですけど」
目を輝かせた皇妃に,リベが訂正を入れつつ頷いた。
皇妃はどうやら芸術に造詣が深いらしく,リベに幾つも質問を投げる。
リベは適当に相槌を打ちながら質問に丁重に答えており,何となく意気投合しているようだった。
ちなみに同じ桃色音楽姉妹のリリーは,料理から視線を上げていない。
「ヒロろん見てー! めっちゃ綺麗な色してるー!」
「ん? 本当だ,手が凝ってる」
リリーが感嘆の声を漏らして皿を指差し,隣で肉料理を堪能していたヒロ君に声をかける。
ヒロ君もそれを見て,同意するように笑った。
「……フレイム,口に合わなかった?」
僕の手が止まっているのに気付いたらしいセアリアス殿下が首を傾げる。
「いえ。とても美味しいですよ」
慌てて首を振って否定すると,じゃあ何で? と言いたげな視線を感じた。
「……三人が,自由すぎて申し訳ないなと」
完全に嘘ではないが,若干脚色を加えて答えると,セアリアス殿下が少し目を細める。
「そんなことはないよ。慇懃と無礼を履き違えてる老獪貴族達より,余程良い」
その物言いはどうかと思うが,会話が聞こえているであろう皇帝が何も言わない。
「……四方八方大変ですね」
取り敢えずそう返すと,セアリアス殿下は苦笑を深めた。
「まぁ,僕はまだ自由だけどね。それに諸国の王は比較的話が通じる人が多いし,本当に面倒なのは皇族派を自称する年寄り達。派閥の長はまともなのにね」
カトラリーを動かしながら呆れたように告げるが,それは僕に言って良いのだろうか。
そんな疑問に気付いたのか,セアリアス殿下が言葉を続ける。
「フレイムは賢い上に,政治的な面にも詳しそうじゃないか。それに僕が言わなくても,いずれ君の母から聞いていたと思うよ」
相変わらず母さんには無類の信頼が寄せられていた。
(……文献か何かで探してみるのも良いかもしれない)
そんな事を考えつつ,セアリアス殿下の言葉の意味を咀嚼する。
「……ん? 別に政治に詳しくはないんですが」
僕が正直に答えると,皇帝が少し眉を上げた。
セアリアス殿下もあからさまに困惑を浮かべている。
「え? でも,父上に対するあの態度はかなり政治慣れしてるように見えたけど……」
「……殿下は冗談が御上手ですね」
若干笑みを引き攣らせて答えると,セアリアス殿下の瞳が腑に落ちないと言いたげに細まった。
(……いや,僕は政治の場に出たことはないよ? てかあれは政治なのか?)
困惑したいのはこちらである。
そういう意図を込めた視線を送ると,殿下は一旦追求を諦めたようにカトラリーを動かし始めた。
「本日は非常に有意義な時間を過ごせた。礼を言おう」
終始沈黙を貫いていた皇帝がそう締め,僕達は部屋に戻ろうとする。
広間を出たところで,一人の少女に呼び止められた。
誰だろうと思って記憶を探る。
(……あ,陛下の後ろにアスセーラさんと一緒に並んでた人か)
如何にも立場の高そうな三人の一人で,僕達がアスセーラさんと戦っている時も観戦していた。
全体的に儚い雰囲気を纏っており,アスセーラさんとは違って本当の貴族令嬢に見える。
年齢は僕達と同じか,少し上くらいだろうか。
小動物のように揺れる深い茶色の瞳は,彼女を妙に幼く見せる。
「……あの,この後少しお時間を頂いても?」
やけに芯の通った話し方だと思いつつ,僕達は軽く了承した。
「お疲れかと思いますが,少しだけお話させて頂きますね」
長い廊下の中の一つの部屋に入り,少女がそう告げる。
通されたのは応接室のようで,とりあえず少女の反対側に並べられた椅子に腰掛けた。
部屋には僕達四人と,目の前の少女しかいない。
「私は雅神,アンリエットと申します。主に社交界を取り仕切っています」
さらっと告げられたが,知らない単語が紛れている。
「……雅神?」
ヒロ君が首を傾げて問うと,アンリエットと名乗った少女は言葉を続けた。
「この大陸を治める皇帝陛下にお使えする三人の実力者のことです。アスセーラ様が武神で,アルベル様が智神。そして私が雅神です」
自分で実力者というのはあれなのか,少し目が虚ろになっている。
「……つまり,大陸で一番凄い三人組ってこと?」
リリーが直球で尋ねると,アンリエットさんは目を瞬いた後,軽く頷いた。
「まぁ,そうなりますね。ただ私みたいに,家柄だけの成り上がりもいますが……」
確かに,社交界を取り仕切るような役は老獪な貴族の方が良いだろう。
「……ここからはお話の本題になるのですが。皆様は地位や身分を気にされますか?」
確認するようにそう問われ,僕達は顔を見合わせる。
「そんなことはないですよ。私達だって結構身分が違うので」
リベが代表して強かに述べると,アンリエットさんは少しホッとしたような表情になった。
「もしかしたらご存知かもしれませんが……。私は普通の伯爵家の娘だったのですが,わけあって皇帝陛下と養子縁組をしています」
(……まさかの裏設定来たよ)
アニメの皇族説明では子供は一人だったはず。
もしかしてこれも物語が進むことで明らかになっていたのだろうか。
「ただ養子縁組するだけでは不審に思われるので,苦肉の策としてこの地位を与えられました。ただ,それはこの際どうでも良くて」
そう言って話を区切り,アンリエットさんは少し視線を下げる。
「……皆様にお伺いしたいのは,義兄であるセアリアス様のことです」
「……?」
僕達が口を挟まずに続きを待つと,彼女は少し逡巡するように頭を振った。
それからややあって,静かに口を開く。
「端的に問います。お義兄様は皆様と,どんなお話をされたのですか?」
真剣な表情で問われたが,僕達は困惑を隠せず顔を見合わせた。
「……皆様とお義兄様は初対面,ではないのですか? 少々打ち解けるのが速いように感じます」
アンリエットさんが慌ててそう付け加えた。
それに対して僕達は何度か瞬いて返答を探す。
「そうですね。詳細は多分お話できないんですが,私達は城下町でセアリアス殿下にお会いしています」
脳内で文章を組み立てるのが一番速かったリベがそう述べると,アンリエットさんの表情が更に曇った。
何か不味いことを言ってしまったのかと焦るリベを,アンリエットさんが小さく否定する。
「……最近,少々お義兄様が不安なのです。何か思い詰めていらっしゃることや,あからさまに隠していることが多く……」
何となくですが,私も避けられているみたいで。
アンリエットさんは小さくそう付け加えて,憂い気に息を吐いた。
(……あぁ,そういうことか)
思わず冷めかけた目に生気を戻す。
アニメのお決まりで,ある意味定めだ。
これは,騒動の前触れと見て間違いないだろう。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:新キャラ続々……。
アンリエットのキャラが曖昧ですね。




