第27話 拳と剣と
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最初に動いたのは,アスセーラさんの方だった。
軽い風の音と共にその場から消え失せる。
「……後ろ!」
鋭いリベの声と同時に,振り返ったヒロ君の拳が空を切った。
その少し後ろに,魔力による認識阻害を解いたアスセーラさんの影が一瞬だけ現れる。
(……先に後衛を狙うのは常套手段だね)
実際,リベとリリーの個人の武力は低い。
続けて狙われる前に,此方から仕掛けた方が良いだろう。
「正々堂々!」
これは特殊魔術【火炎】と炎剣の合わせ技の一つだ。
真正面から斬りつける物で,かつて剣道で習った技に似ている。
かなりの隙が出来るが,それはヒロ君を信頼することにした。
僕の技は軽く避けられたが,それをカバーするように背後に回っていたリベが魔術を行使する。
「音刃__!」
前にも見たことのある,音符のような形状の無数の矢がアスセーラさんを襲った。
アスセーラさんはその数個は避けつつ,幾つかをレイピアで捌く。
一瞬視線が逸れたのを見逃さず,ヒロ君がレイピア目掛けて拳を振るった。
流石にアスセーラさん本人を倒すのは無理だと理解しているので,戦闘不能状態方向なのだろう。
視線を向けていなくてもそれに気付いたのか,アスセーラさんは軽く後退してそれをいなした。
「……凄い」
僕達が戦闘を続けていると,後ろからそんな声が聞こえる。
それは幼く高い声で,皇族の後ろに控えている大人しそうな少女のものだった。
皇帝はそれに対して,軽く同意するように頷く。
「普通の冒険者であれば,彼女の動きを読むことすら叶わない。実戦経験は豊富なのだろう」
若干棘を感じなくもない評価を下しつつ,皇帝は僕達に視線を戻した。
一瞬目があって気まずかったが,すぐに視線を戻して目の前に集中する。
「激怒!」
何度目かになるリベの技が避けられた所で,ずっと魔力を溜めていたらしいリリーが動いた。
風船のような球体が無数に浮かび上がり,アスセーラさんの周囲を取り囲む。
流石に【ファンタスティック】は所見なのか,警戒しているようだった。
(……風船みたいで,激怒ってことは……)
次の瞬間,予想通り風船は大きな音を立てて弾ける。
無数の爆音と共に,破片が硬く尖って降り注いだ。
「……えげつないね」
「舐めない方が良いよ,あれ」
未解明の部分が非常に多いからこそ,余計怖い。
ある意味,無邪気で得意げな笑みを浮かべる彼女らしかった。
「……父上,あれは本当に子供……なのでしょうか?」
不意に,僕に聞こえるか聞こえないか微妙なくらい小さな声が耳に入る。
一瞬視線を向けると,皇帝の隣に座っている皇子と思われる少年が困惑気味な表情で首を傾げていた。
(……あー,そういうことか)
少しズレた所で納得している僕には気付かず,皇子はさらに続ける。
「彼等は僕と同じくらいの,少し年下の冒険者です。何故アスセーラとあそこまで渡り合うことが出来るのでしょうか……」
最後の方で,声のトーンが少し落ちた。
多分,皇子は彼女の戦っても渡り合うことが出来ないのだろう。
皇帝はそれを聞いて,特に何か返すこともなく視線を僕達に移した。
(……これ以上関わりたくないんだけどなぁ)
その間にも,戦況は変化している。
いつの間にか認識阻害を止めていたアスセーラさんは,真正面からヒロ君とやり合っていた。
鋭いレイピアを拳でいなすという若干人間離れした技を披露しつつ,魔術を邪魔されかけていたリベを庇う。
「良い連携が取れてる……! きっと伸びるよ,君達!」
淑女らしい口調を捨てたのか,明るい声音でアスセーラさんが笑った。
楽しげにレイピアを操る姿は,何処か美しく完成されているように見える。
ただどうしても,彼女に決定的な一撃を入れることが出来ない。
あの認識阻害の魔術の影響が強すぎるのだ。
「……四方八方に分散できる技とかない?」
僕が考えていると,同じ結論に至ったらしいリベがそう尋ねる。
「オレはまだ無いかな」
ヒロ君が少し悔しそうに答えた。
まだ,ということは,練習中なのだろうか。
「あるにはあるけど,魔力が足りなくて使えない!」
神速で迫るレイピアを熊のぬいぐるみのような綿で防ぎつつ,リリーも答える。
特殊魔術を連発しているから,四方八方に分散するような大技は魔力量的にきついのだろう。
それは僕達も例外ではない。
多分,リベもそういう技は持っていると思う。
魔力量が足りなくて使えないだけだ。
(……これ,消去法で僕になるやつだね)
三人の視線と,話を聞いていたらしいアスセーラさんの視線が此方を向いている。
皇族達の視線も,此方に釘付けになっていた。
「……まぁ,良いけど。ちょっと危険だよ?」
「大丈夫! こっちは何とかするから!」
僕が一応問うと,リベが期待に満ちた目で返してくる。
それを聞いて,僕はとりあえず炎剣をしまった。
その隙を狙って跳んで来たアスセーラさんをヒロ君が阻害し,僕から距離を取る。
完璧に僕が大技披露するだけの空間になっている気がするが,まぁ良いだろう。
そう割り切って,僕は一つ息を吐いた。
「火炎」
まず始めに,掌に拳くらいの大きさの炎の玉を形成する。
これは特殊魔術【火炎】の最初級だ。
フレイムに転生してから最初に練習したので,今では息をするように操れる。
普段はこれを剣に移して使用するのだが,この魔術は剣を使わない。
瞬く間に,無数の炎が形成される。
「爆発」
僕がそう呟くと,炎はすぐに人間の顔程の大きさになった。
爆発のギリギリで押し留めている状態にしてから,少しだけ周囲を見回す。
ヒロ君はアスセーラさんの妨害を防ぐ為に頑張っているが,リベとリリーは完全に視線が此方を向いていた。
それに,アスセーラさんも本気で妨害する気がなさそうで,興味津々という感じなのが見て取れる。
ヒロ君はかなり実践慣れした強者であるはずだが,それを軽くいなせるアスセーラさんは,やはり只者ではない。
(……皇族の皆さんも,僕等が戦ってる理由を忘れてませんかね?)
折角四人で挑戦する権利を貰ったのに,これでは意味がない気がする。
ただ,途中で止めるのもあれなので,どうせなら最後までやらせてもらう。
「……喝采!」
魔力を込めてそう唱えると,巨大な炎の玉が形を崩し,僕の周囲で派手に弾けた。
高らかな音と共に,炎の群れが潮のように周囲を渦巻く。
とにかく距離を取らなければ炎に巻き込まれて焼き尽くされる,かなり凶悪な技だ。
しかし,黄色や橙が混ざった赤い波が揺れ動く様は幻想的で,儚い美しさがある。
巨大なぬいぐるみに乗って,地面から離れて回避したリリーとリベは目を輝かせていた。
アスセーラさんを止めていたヒロ君は,咄嗟に跳躍して避ける。
明らかに人間離れした脚力だが,もう驚かなくなった。
ただ,ヒロ君に集中していたのか,あるいは魔法の効果に意識が行っていなかったのか,アスセーラさんは動きが一瞬遅れる。
僕の視界で,彼女が炎に呑み込まれるのが見えた。
(…………!)
次の瞬間,僕は目を見開いてその場を飛び退る。
上からリリーとリベの攻撃が来たことで問題はなかったが,内心の驚愕は隠せない。
アスセーラさんは,炎の中を移動して僕に肉薄していたのだ。
それに気付いたらしいヒロ君は,炎の合間を縫ってアスセーラさんに攻撃を仕掛ける。
(……あ,いけるかも)
いくら常識離れしたアスセーラさんでも炎の中では動きが鈍い。
しかも今はヒロ君と上から落ちてくる魔術に意識を向けており,僕のことは魔力の動きを探っているだけだ。
彼女は多分,僕が武器を持っていることを忘却している。
“相手の隙を見逃すことは,即ち己の隙を作ること”
皮肉にも,父親の言葉が蘇った。
当時は意味がよくわからず,兄に呆れられていたのを覚えている。
(……どうせ兄上も,わかってなかったんだろうね)
苦笑とも嘲笑とも言えない笑みが浮かんだ。
僕は殆ど何も考えず,炎剣を構える。
気付けば,振り返ったアスセーラさんのレイピアを弾いていた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ずっと戦っている……。
まぁ今まで戦わなさすぎたんですよ。多分。




