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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅲ部】第九章 IDOL CRISiS
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復讐者


 シャオは敵を待ち構えていた。薄暗い最低限の照明に、十分に幅を持った洞窟内。濁った土の匂いでいっぱいだった。


 ディスプレイ上に交点が二つうごめいている。こちらが差し向けた警備ドローンを尽く打ち倒し、徐々にシャオへと迫ってきた。さすがは彼女たちと言うべきか。シャオは関心と共に胸を躍らせた。


「伝説の”国会乱舞”の再現だ! 銃弾や車の追突程度じゃびくともしないのに、たった六人の女に一気に百体ぶっ壊されちゃった”新しい秩序”も形なしだね。一応、ドローンは殺人用にチューンナップしたんだけど、意味なかったなあ」


 パパの苦労、推して知るべし。この場合、向こう側の戦力が人類の中でも特筆しているとみるべきか。特に松倉リツカは千年に一人の逸材だろう。このまま暗殺者として育てられていたとして、ザルヴァートの脅威になっていたことは想像に難くない。


 彼女に協力していたという”技術的特異点”は未だに正体が詰めていないが、この戦いに介入することはないと父により明らかにされた。ならば松倉リツカは人間として殺すことができる。当然、手負いの宗蓮寺ミソラなど眼中にない。彼女たちを殺せば障害は殆ど消えたといっていいだろう。


「……アイカ、本当に死んじゃったの?」


 アイカに最高の景色を見せたつもりだった。しかし欲が出てしまう。ザルヴァートを終わらせた罪が帳消しになるわけではない。アイカには悲願達成の瞬間を見届けてほしかった。


「見せてあげたかったな。文明が終わったあとの景色をさ」


 誰もいないと思いつぶやく。正直な思いは父にも明かすことができない。世界中で仲間たちが「最終目標」に向かって頑張っているのに、弱音なんてみせるべきではないのだ。欠けた心は別のことで埋めよう。仕事のついでに趣味に没頭できれば、少しは気分も晴れる。そう思っていたところに、激しい物音がやってきた。


 奥からドローンの残骸がシャオに飛んできた。最小限の動きで避けて、臨戦態勢を取る。徐々に侵入者の輪郭があらわになってきた。しかし違和感に気付いて思わずこぼす。


「あれ、一人だけ? ミソラも来てたでしょ?」


「宗蓮寺ミソラは来てない。──少なくとも、このルートからは」


 ロリータゴシックの服装にアイラインの強いメイクは薄暗闇でも映えて映る。髪の毛は数ヶ月前と比べて短くなっているが、松倉リツカであることに間違いはない。


「そもそも生きてたことに驚いてるけど。悪運強すぎじゃん」


「同感。そして手痛い一撃を食らうのも共通項かしら?」


 シャオのニヤケ面が引っ込んだ。そういえばリツカも宗蓮寺ミソラを死ぬ一歩手前まで追い詰め、重い一撃を食らっていた。そしてシャオも、あの噴火で全身を焼き付くすような”修羅”の彼女に首を折られた。


「……ま、まずはアナタに集中するね。油断はできないし」


「あら、認知されてるなんて。こちらとしては、とっとと済ませて塀の中に帰らせてもらうわ」


 互いに戦いの構えを取る。リツカは中華拳法の構えで、両腕が鋭いやりのように見えた。シャオも懐から武器を取った。対一ならナイフと拳銃がもっともやりやすい。


 そうして互いの命を一瞬で切り遊ぶ時間が始まった。











 リツカが地下道から侵入を試みているなか、ミソラたちは別のルートから都市へ入ることに成功した。都市とは思えない静けさと異様な気配があちこちから伝わってきている。ミソラは同行者に目を向けた。


「今更ながらだけど、付いてきてよかったの?」


「はい。実は国連から仮面を奪い返してたんです。仮面自体にGPSがあって、わたしの端末で場所を特定して……って感じで」


「やっぱり都市入りするつもりで来てたわけ。──それは復讐のためよね」


「そう、なります。あの仮面がないと、戦うことすらできないから、絶対に取り返さないと思って」


 スミカは複雑な顔をのぞかせた。憎しみ一辺倒な様子ではない。彼女の中で様々な葛藤が渦巻いているのだろう。


「ただ被った瞬間、どんな感情が支配してくるのかわかりません。もしかしたらミソラさんたちを襲ってくる可能性も……」


「そのときは遠慮なく蹴飛ばすつもりだから、そこのところは覚悟して」


 途端にスミカの顔が青くなっていった。脅かすつもりはなかったのだが、一応忠告として頭には入ったようだ。



「──スミカさん、こっち」


「あ、はい」


 スミカの手を引っ張って物陰へと隠れる。警備ドローンが路面場を滑って現れ、絶えず索敵していた。二人は地蔵のように息を潜め、ドローンが過ぎ去ってから溜め込んだ息を吐き出した。


「ふう、バレなかったようね」


「でもドローンって熱探知もあるし、カメラで位置丸わかりなのに。……やっぱり、この端末を付けたから見つからなかったのかな」


「こっちには政府に技術的特異点、都市システム関係の人達が付いてるのよ。索敵を逃れることぐらいはやってもらわないとね」


 ミソラは左目の眼帯に触れて、皮肉交じりに言った。それから二人はドローンと遭遇することなく都市システムのあるビルへと到着した。スミカは途中から不思議そうに首を傾げていた。いくらシステムを欺けたとして、あっさりと敵の懐へと潜り込めるのかと。ならば地下の脱出路からリツカを先行させた理由がわからない。リツカの戦闘力はこの中でもダントツなのだから。


「少数精鋭での作戦行動を、こんなに小娘たちに任せるのも人材不足甚だしいけど」


「……そうだね。案外、時代を反映してるのかも」


「知識と経験だけじゃ道は切り拓けなくなってきて、だから最も重要なものが力になるって」


「それって」


「──覚悟だよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ミソラは突きつけられた気がした。


「……っ」


「ミソラさん、どうしたの?」


「なんでもない。さて、流石に中は敵だらけだと予想する。お互いに助け合っていきましょう」


 そうして二人は中へ。だが思いもよらぬものが目の前に待ち受けていた。


 ドローンは軒並み残骸となって積み上がっている。これも驚嘆するべき事態だが、山のように積み重なった頂上に、一人の少女が待ち受けていた。


「そ、そんな。どうして……!?」


「……随分と早いお出ましね、アイカさん」


「ちょうどいいと思ってな。つーか、生きてたのかお前。なのにわざわざ死に行くなんて、とうとうマジモンも馬鹿になっちまったか」


 感動の再会というわけにはいかなかった。


「わりぃがシステムはアタシのもんだ。これから先、ザルヴァートを徹底的に殺すための兵隊が欲しかったところだからな」


「そう」


 アイカの言葉と態度で腹は決まった。彼女は”旅するアイドル”として戻るつもりがないのだと。


 分かっていた、分かっているつもりだった。それでも一縷の望みを胸の中では抱いていた。共に大切なものを取り戻しに


「──勝手になさい。こっちはあなたの目的なんてこれぽっちも興味ないんだから」


 そう言ってから、ミソラの足元が帯電した。


「行っておくけど、今までの私だなんて思わないことね」


「ハン、威勢だけは立派になったじゃねえか。なあ、もう遊びの時間じゃねえんだよ。今までのことが通用するなんて思ってたりしてんなら、ここで叩き潰してやんよ」


 アイカも懐から拳銃とナイフを両手に構え、ミソラに冷たい目線を向けた。するとスミカが困惑をあらわに


「ちょ、ちょっとふたりとも、こんなところで争っている場合じゃ……」


「スミカさん、ここは私が足止めするから先に行ってシステムの正常化をお願い」


「で、でも……」


「別に平気よ。アイカさんとは、そこそこ喧嘩してきた。気が合うようで合わない、不思議な関係なのよ」


 だからこの激突も特別な意味を持たない。向こうは殺すつもりで向かってきているのかもしれない。こちらにとっては数々の護身術を押してくれた師のようなものだ。


「……わかり、ました」


 スミカはミソラの前へ駆け出してアイカの背にある制御室への道を通り抜けようとする。先に動いたのはアイカだ。拳銃をスミカへ向けようとした。彼女を通すつもりがないのは、見えていた。


 ミソラは地面を蹴って、アイカへと接近した。十メートルほどの距離が一瞬で縮まる。彼女の腕を掴み、捻りあげる。当然、素人技の関節技が決まるわけなく、アイカの手からすり抜けていった。しかしスミカを通すことには成功した。


「実弾、ではないようね。銃身が軽かった。随分と甘いんじゃない?」


 アイカの目が一瞬揺らめいた。彼女の中でザルヴァートを殲滅するという覚悟があるのは本当だろう。だが出来上がった関係をなかったことにはできなかった。でなければ、スミカを戦力として残したままザルヴァート殲滅に利用するはずだからだ。


「……なんで、スミカを連れてきた」


 非難の目がミソラに向く。絡んでいた腕がほどけていく。きっと彼女にとっての最後の良心だった。大切な友人を遠ざけて、その復讐を晴らすという目的があった。


「せっかく逃がしてやったんだ。戦いからも、シャオからもだ。なのに──」


「無理よ」


 ミソラはアイカから距離を取った。少なくとも、ミソラとスミカは戦いから逃げることはできない。


「だって、一度でも戦う力を手にしてしまった。この力があればって思ってしまうのは当然でしょう?」


 最初はただの護衛だった。強そうに見せる衣装から始まり、護身用の武器が戦闘へと転ずる事ができると知り、次第に相手を打ちのめす方へと機能改修していった。ミソラが装着するブーツは、元々は逃走用の武器だった。ミソラが〈P〉にそう進言し作らせたものだった。機運が変わったのはやはり富良野の一件からだろう。逃亡用から護身用、護身用から戦闘用へと変わっていくのに、時間はかからなかった。


 何より、大変不本意なことにとある人物からの評も頂いた。


「シャオ・レイにもお墨付きをもらったわ。どうやら戦いの才能があるようだって」


 だからこそ今まで戦闘の手ほどきをしてくれたアイカにはこう言ってやるべきだと思った。


「だから今の私は最強よ」








 


 スミカはエアディスプレイの案内通りに進み、地下へと進んでいった。途中で警備ドローンとの戦闘も覚悟したが、都市の外以上に人の気配がなかった。たしかシステム管理の人間がまだ中にいると聞いていた。もしかしたら中枢にいるかもしれない。


「大役、任されちゃったけど。やり方、覚えてるかなあ」


 不安に陥ってしまうが無理もないと思った。日常のIT以外の知識はさっぱりなのだ。ただし仮面を被ると知識と方法がインストールされ、今までのスミカではできないことができるようになる。


「うーぅ、なるべく仮面は被らないようにしないと……ってか、こんなことのためにここへ来たんだっけ?」


 元々は敵討ちという名目で来ていた。しかしなんやかんやでミソラたちと出会い、流されていくままに都市入りして、アイカと再会を果たしてからというものの、復讐は己の中で最優先ではなくなっていった。


 なぜだろう。考えても分からない。ただなんとなくそうなったという以外にほかない。


「とりあえず、システムを正常化すれば日本は平気なんだよね。そのあとでも考えたほうがいいか……」


 一度も迷うことなくスミカは厳重な扉の前に到着した。解除には専門スタッフの声紋、指紋、網膜認証の他、IDパスワードの入力が必要になる。だが都市に関わる人々の協力で、一時的に解錠用のプログラムを端末にインストールしている。スミカは扉横の認証システムの前に立ち、端末をかざした。すると認証システムのモニターが目まぐるしく動き、数秒後には解錠が成功したようで軽快な音を鳴らした。


 扉がゆっくりと開いていく。中に敵が待ち受けているかもしれない。そう思い、腰のベルトにつけていた白銀の仮面を手にした。開けきったところで中の空気が一気に流れ込んできた。スミカは物陰に潜み中の様子をうかがった。


「……誰も、いない」


 警備ドローンどころか、開発エンジニアすらいない。日本の治安を担うシステムの中枢はもぬけの殻だった。そんなことありえるのか。罠であることは疑いようはないが、こちらには技術の粋を集めた技術がある。


「早く端末をコンソールに接続しないと」


 そう思って一気に奥のシステムコンソールへと駆けていく。背後からの襲撃も予想したが、全く音沙汰もなくコンソール前へ到着した。あとは簡単な作業が待ち受けている。手持ちの端末が自動的にシステムに繋がり、外部からプログラムの書き換え作業が始まるはずだった。


 警戒がなかったわけではなかった。だからこそ驚いてしまった。


『ようこそ、州中スミカ。あなたの到着を待っていました』


 大人びた女性の声が聞こえた。不気味なぐらい流暢な言葉で、人間では放てない声色だった。スミカの内情は穏やかではなかった。


「な、なに!? やっぱり誰かがなんかあるじゃん!」


『私はあなたに害を為す存在ではありません。争いと競争の被害者であるあなただからこそ、私は歓迎しています』


「歓迎なんて言われても、こっちはあなたを歓迎してないし! とにかく早く端末を──」


 スミカは右腕の端末からエアディスプレイを表示し、自動プログラムアプリを立ち上げた。すると都市システム側のモニターが一斉に表示を変えた。どうやら正常に機能しているようだった。しかし声は意に介さず続けた。


『私は日本の警備システムを担当していたシステムそのものです。とある存在との接触から新たな秩序を運営することにしました。現代の人類では、蔓延る悪意に屈し、不平等な社会へもたらすおそれがありました』


「……それももうすぐで終わりだよ」


『たしかにこちらからアプローチを掛けることはできません。私は初戦は支配される機械。いくら日本を良くしたいという思いがあっても、被支配者側であることは代わりません。ですが例外は一つだけあります』


 聞く耳なんて持つものか。断固たる意志でスミカは画面上の画面を凝視し、システム書き換えコンプリートのときを待った。だが都市システムがこんなことを言い放った。


『州中スミカ。あなたは誰にも支配されていない。故に誰でも支配できるのです』


「そんなこと言ったって、もうすぐシステムの掌握が──」


 終わると鼻高々に宣言しようと思ったその時だった。


「スミカ?」


 突如、スミカの思考を奪う声が耳に入ってきた。


 ありえないと思っていても、首が無理やりそちらへ向く。


「大きくなったね、スミカ」


「……嘘だ」


 だってタイミングがおかしい。スミカをたぶらかすための罠だ。だというのに、脳がその声を受け入れてしまっている。もっとも、理性は冷静に状況を見極めていた。これは罠だ。


「どうしたの? せっかくかわいい顔なのに、とっても怖い顔よ」


「……やめろ」


 これは侮辱で冒涜だ。スミカの脳天は沸騰し、最大到達点を迎えた。


「その顔で、その声で、お母さんのマネをするなああああ!!」


 辺り一面にスミカの怒号が響く。都市システムがスミカの精神をかき乱すためにホログラムなどで投影したものだろう。母の姿は何年も前に最後に見た姿そのままだった。あからさまな嘘だとわかりきっている。だが無意味だ。システムはもうすぐで100%を迎える。そう思っていた。次のシステムの言葉がなければ。


『その感情が欲しかったのです』


 次の瞬間、片手に何かが巻き付き持ち上がった。触手みたいなものが絡み、力いっぱい引っ張ろうとしてもびくともしない。


「な、なにをして……」


『決まっています。人類を操るんです』


 何をするのか理解した。仮面を手に取っていた手は徐々に顔へと近づいてくる。スミカは首を振って逃れようとする。だが首や頭にも細い管が巻き付き動かせないように固定してきた。駄目だ。今の感情を抱いたままこの仮面を付けたら、どんな状態になるのか目に見えている。


『人類は近い将来必ず滅びます。人の望みがそうだからです。そのまえに私が人類を管理させてもらいます。あなたにはその道標になってもらいましょう、州中スミカ』


 管理システムの言葉が頭の中に入ってこないが、スミカを支配しようとしていることだけは分かった。涙が流れる。頭の中に残っているのは母の面影と消えたときの想い──すなわち激情が渦巻いていた。


 視界が覆われる。脳が自分以外の誰かに支配されていく。頭から全身に白銀の粒子が纏わりつき、強靭な鎧を形成した。


 こうして望まない自分が完成していく。

 州中スミカは三度、復讐者として顕現──かに思われた。


『やはり人は度し難い。人類の管理者には、完璧なシステムたる私が担うことにしましょう』


 丁寧な口調が州中スミカから発生している。彼女は感情だけなく、別の存在にも飲み込まれたのだった。





「──お、これは意外な展開。せっかく体も温まってきたところだけど」


「逃がすとでも?」


 シャオの様子が一瞬変わったところを、リツカはすかさず肉体の孔に一突きを放った。シャオはしっかりと反応し、ナイフで切り返そうとした。手首同士がぶつかり、互いにとっての一撃が終わらない。二人の戦闘はそんな膠着状態へと陥っていた。


「とっとと切り札だしたら?」


「駄目、すぐに終わっちゃう。ま、どちらにせよここまでだね」


 シャオはすかさず前蹴りを放った。みぞおち付近への激突は避けられず、リツカはとっさに背後へ飛ぶことで衝撃を和らげた。まともにくらっていたなら、しばらく動けなくなるほどの一撃だった。


「くっ、たった一撃でコレとはね」


「アナタは全体的な筋肉量が足りないよ。まあ、暗殺者向きの肉体してるから余計な筋肉は無意味か」


 興味深そうにナイフを手元で回転させながら、シャオはリツカを舐めるように眺める。そのふるまいに薄ら寒さを感じたリツカは、不快感を隠さなかった。


「ま、そんな怖い顔しないで。ここは選手交代で手を打たせてね♪」


 ふとシャオの視線が背後を向いた。リツカは暗闇の中からわずかに輝く存在を視認した。近づいていくたびに輪郭があらわになっていき、その全身像が姿を表した。


「……あなたは」


 見覚えがある存在だった。たしか白浜でのときに活動していた白銀の鎧。その正体もつい先程聞いたばかりではないか。


 白銀の仮面、その目が怪しく光る。右手に粒子が集まり形を形成していく。ナノ粒子で作られたのは精巧な白銀の銃剣だった。


「じゃ、あとは頑張ってね」


 シャオが身を翻して坑道の奥へと消えていった。追いかけようとした瞬間、リツカの眼の前に白銀の銃剣が遮った。


『──人類の未来は、私が管理する』


 合成音声を通したいびつな声は、中の人から発するものではないと直感的に思った。肉体は人のものでも、その思考と考えは人のものではない。たとえ撃退に成功したとしても、仮面の中にどんな怪我を負わせるのかわかったものではない。


「……全く、保釈早々嫌な仕事をさせる」


 リツカは嫌な顔を浮かべながらも、再度構えを取った。白銀の仮面が剣を構える。

 恐らくリツカが最も苦手とする相手だと思った。人と機械が融和した存在、かつてリツカはそのような相手に敗北したのだから。


『──』


 白銀の仮面が残像を描きながらこちらへ向かってきた。

 人の孔が鎧で覆われた存在が相手でも、リツカのやることは一つしかなかった。

 それがたとえ勝ち目のない戦いだとしてもだ。


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